厄災。その讃歌(惨禍)
『人気配信者ゲソミン、行方不明』
おそらく今日一日のニュースでその見出しが多かった事だろう。
『ゲソミンこと、下田民雄さんはいわゆるダンジョン配信を主に行っていた配信者であり……』
『旧場広町樹海に入ったまま消息が途絶え……』
さまざまな番組が人気配信者を取り上げる始末。
やはり日本で指折りのインフルエンサーということもあってか、青い鳥のSNSでもその悲報は一気に拡散された。
“ゲソミン……(´;ω;`)”
“ゲソミン死んだわ”
“いかないでよ……”
“ゲソミンが死んだ。唐突すぎる”
“まだ行方不明やろ。多分死んでないで”
“死んだって決まった訳やないのになんで泣いてん”
“ゲソミンはまだ生きてる”
行方不明という扱いにさまざまな憶測が飛び交う。
だが、真相は定かではないまま既に1週間が経っていた。
公開された配信動画では、森に入って数分のところで途切れていた。
その中で、
“ゲソミンさえ出られない森かよ、滾るわ”
“やっぱりゲソミンはザコ。俺ならクリアできる”
“対策が甘かったんやろ”
“ダンジョンの入り口に
“俺最強だから(笑)”
ゲソミンのダンジョンでの立ち回りなどを指摘し、配信での愚行を嘲笑う者も現れる。
そして“ゲソミンが出来ないのならば”とネット上で躍起になった結果、
案の定と言える結果が2週間の内に表れた。
『これまでに何日にも渡って続いている連続配信者失踪事件で、政府は一般人のダンジョンへの侵入を自粛してほしいとの要請を公表しました』
そう、何人もの人々が旧場広町樹海へと足を踏み入れたのだ。
当然の如く消息は絶たれ、今なお姿を現さない。
そんな事態が起きているにも関わらず、警察や自衛隊がただの一般ダンジョンに足を踏み入れる事はせず、特別機動隊は動いてすらいない。
東京 市ヶ谷。
「……どうして、特機の皆が樹海について黙っているかだって?」
そう言って、目の前に立つ男を睨むのは一人の少女。
短髪で男らしい姿をしているが、男には、それが少女だと分かっていた。
顔立ちは幼いものの、その佇まいにはどこか威厳があるように感じる。
つけっぱなしのテレビ画面の向こう側で、キャスターが世間を騒がせる件のニュースについての最新情報を読み上げている。
「お前が観測者なら全て察せられるだろ。ナナ・トゥデイが要請を送った際にどれほどの損失があったのか」
鷹のように鋭い眼差しを男に向けている。
「別にナナ・トゥデイは悪くない。深追いさせたこちらが悪いのだから」
その言葉の所々に後悔の念が含まれているようだと男は思う。だが、あえてそれを口にしなかった。
「さて、本題といこうか。樹海内まで踏み込んだ隊員の視覚情報は見たな?森に入った人間は、例外なく鯖やらピエロやらと喚く。だが実際は森がただ広がっているだけだった。例のゲソミンもそうだ。大量のゾンビ。アレは配信中の動画には一切映っていないし、それらしいモノもなかった」
コクリと一つ頷く。
「現実と言動が合致していない。おそらく一種の幻覚でいいと思う。自分の深層心理の奥底でこびりついているトラウマを忠実にあの森に投影して、獲物を恐怖、発狂させる。絶対的強者の前に対する動物が必ず持つ本能の恐怖を呼び起こしている」
すると、彼女は引き出しの中から弾丸を5つ机の上に置いた。
「これは、この世界においてのアノマリーを無力化する為の弾丸。これを銃にこめて撃てば転生者に対して致命的な打点を与える事が出来る。だが、あの森でコイツを使えないんだよ。アレは違う。むしろ転生者の反対側にある存在だ。理を守り保つ為の存在」
振り向いた少女な顔には諦めの表情。
深く重いため息を吐いていた。
「もう、分かるだろ?こちらが増援できない理由が。アレは原初の存在だ。オレ達より遥かに永い時を生きた全ての命の根源だ。いくら人間があの樹海に抵抗しようとそれは自分が存在することの否定であり、命の冒涜だ」
テレビの画面では既にバラエティー番組が流れ、ガヤガヤと笑い声が響いている。
「不思議なんだ。人間というのはいつまでも学ばない。いつも自分が優れていると勘違いして突撃する。自分が餌になっている事を知らずにアレに立ち向かおうとする。でも、それは勇気ではなくただの愚行だ。彼らは自ら死にに行ってるんだ」
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