量子のファントムシーフ

R・S

絵画の行方と結末

「保志警部!正面口及び裏口の人員配置完了しました!」


「目標絵画付近及び設置フロア封鎖完了!」


「館内から外部人員退去完了、残っているのは我々警察と美術館関係者のみです。」


「よし!予告された時間まであと30分だ!総員気を緩めるな!」




 ここは東京都銀座にある四菱美術館、そこに今話題の窃盗犯から絵画を盗むという予告状が届けられた。警視庁捜査2課は直ちに人員を派遣、件の窃盗犯を逮捕するべく備えていた。

 その陣頭指揮を執っているのは警視庁捜査2課所属【保志警部】、現場からのたたき上げだが、上司の信頼も厚く部下にも慕われているという人物だ。だが、ここ最近は件の窃盗犯にまんまとやられっぱなしとなっており、今夜こそ逮捕してやるという気迫があふれていた。




「館長、ご安心下さい!今日この場所こそが奴を捉える現場となるでしょう!」


「いやぁ~、流石天下の警視庁!この人数にこの警備体制、これならネズミ一匹見逃しませんな!この後眼太蔵うしろめたいぞう安心しましたぞ!はっはっはっ…」




 保志警部は一通り巡回し警備状況を確認すると、美術館に設置された指揮所へ戻った。




「警部!予告時間まであと5分です!」


「総員警戒態勢!どんな些細なことも見逃さず必ず報告をしろ!」




 現場に緊張が走る…残り1分…30秒…そして予告時刻となった…!

 …が、何も起こることはなく壁に設置された時計の針が刻々と時を刻んでいった…




「……?何も起きない…?そ、総員状況報告せよ!」


『こちら正面口!変化ありません』


『裏口異常なしです』


『目標展示フロア異常なし!』


『目標絵画は変化なしです警部……!いえ状況変化あり!天井から紙切れが落ちてきました!』


「なにっ?!気をつけろ!すぐそちらへ行く!不用意に触れるな!」




 保志警部は直ちに展示室へと向かい、落ちてきた紙の確認を行った、すると…




〚予告通り本日20時、紅旗党書記長有余浦母あるようらも氏の所有しているデルヨー・カチガ作【夕焼けの少女】は頂いていきます。なお、ついでと致しまして有余氏の所有していたを寄付金として徴収致しました。党公約にもあるように貧しい労働者への寄付金として役立てておきますので悪しからず。

 PS死人は出しておりませんので後はよろしくお願いいたします。

 七代目日本左衛門 〛



「なんじゃこりゃああ!!!!館長!これはどういうことですか?!ここにある絵はニセモノということですか!!」




 保志警部は後眼館長に紙を見せつけた、すると…




「ひぇええっ!ど…どうして!ち、違うんです警部さん!私の親が紅旗党員で!し、書記長から本物を貸し出さないと親のノルマを3倍に増やすと脅されて!も、もう両親は80代なんです!これ以上増やされたら死んでしまうから仕方なく!すみません !許してください!」



「くそっ!総員!紅旗党書記長宅へ向かえ!急げ!」




 ファンファンファンファンッ!




 パトカーがサイレンを大きく鳴らして連なって移動していき、その後ろからマスコミの車両も慌てて追いかけていく、やがて美術館から20分程度の場所にある有尾議員の自宅へ到着した警部達だったが…




「うわぁ…ロープでぐるぐる巻ってこんなのマンガでしか見たことないぜ…」


「警部!縛られている者の側に拳銃や小銃が落ちてます!」


「室内にも同様の者が多数います!」



 そこで見たのは、屋敷の入口から大きい池のある庭、さらに屋敷の中にまでロープで縛られ猿轡をされた荒事に慣れていそうな男達だった、そして…




「こらぁ!とっとと縄を外さんか!儂を誰だと思っとる!このうすのろ共が!!」




 手足を縛られたギャーギャー喚く太った全裸の男が自室であろう部屋のベッドでのたうち回っていた、明らかに未成年であろうバスローブを着た背の低い女の子二人に挟まれた状態で……




「うっわぁ……ロリコンかよコイツ……」


「さいっていっ!!警部!コイツを先にしょっ引きましょう!!」


「……言いたいのはよく分かるが、まずはこの人のロープを外してやれ…」




 警部からの命令を受けた警官二人が(かなりいやいやながら)ロープを外すと…




「くそっ!さっさと着るものを寄越せ!気が利かん馬鹿者共め!」




 男は不平不満を言いながら、手近に落ちていたバスローブを着て机の上に置いていた水差しから水を煽った。




「紅旗党有余書記長ですね?我々は…「貴様ら一体誰の許可を受けてこの屋敷に入ってきたのだ!!そもそも官憲が入って来るなど言語道断だ!警視庁と検察庁に抗議してやるぞ!!」


「……あー、我々は日本左衛門の窃盗の件でこちらに…「ああっ!!そうだ!貴様らなんぞに構ってる暇なんぞ無かった!そこを退け!」あっ!ちょっと!」




 書記長はその巨体に似合わない素早さで、奥の方にある扉から別の部屋へ行ってしまった…




「ああ!もう!何人かで追いかけて…「うああああ!!!わ、私のコレクションがぁあぁ!!!」!追いかけるぞ!ついて来い!」




 保志警部達が部屋に入るとそこは書斎だった、しかし今は本棚の一部が部屋の方へ扉の様に開いており、その本棚があった場所の壁には鋼鉄で出来た頑丈な扉があった……もっともその扉も開いており、部屋の中には空っぽの棚以外は何も無かった。




「あ…あ…わ…儂の絵が…壺が…お、おまけに党の資金が入ってた金庫も…な…なにもかも…?」


「有余書記長、貴方の所持していたその絵画についてお話が…」


「警部!入口と庭で縛られていた連中は運び出しました!引き続き屋敷の中の…「にわ……?庭?!まさか?!ええい!邪魔だ!」うわっ!」




 書記長は呆然と座り込んでいたが、報告してきた警官の言葉を聞いた途端、弾かれたように立ち上がり部屋を飛び出して行った。




「またかっ!ここは任せる!ちょっと有余書記長!まだ話しは終わってないですよ!」




 保志警部は急いで追いかけリビングを通り、庭へ出ていった、するとそこでは…




「無いっ!無いっ!無いっ?!ここもっ?!こっちもっ?!そ、そんな馬鹿なぁ!!……わ……わしの…金塊が……プラチナも……集めた高級魚までも……」





 庭の池へ飛び込み、底を手探りで何かを探している書記長の姿があった。

 そのまま池の縁の岩に手を付いて項垂うなだれる書記長に保志警部は声をかけた。




「書記長もうよろしいですか?絵画と今言っていた金塊や銃器を持ってた連中の事で、詳しい話を署の方で聞かせて下さい。」




 書記長はもはや何も言うことはなく、警官に連れられていくままだった……





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