第2話何故、そうなる?
「
“探したぞ!”と、少々困惑した顔で近寄って来た
“何だろう?”と思いながら
「何かあったの?」
と、キョトンとして訪ねてみる。
「どうもこうもない」
部屋に差し込む僅かな月明かりに背を向けた呂望 《リョボウ》は、呆れ声でそう叫び
「桃源郷にある
と、眠気眼の
だが、寒いトイレから帰ってきたばかりの
欠伸を噛みしめて
「それは大変だね……」
と、同情の言葉を掛ける
「それで、今から桃源郷へ向かわなければならないのだ」
と、いつになく早口でそう告げる。
「えっ、今からって……夜中だよ?」
「そうだが、桃林を管理する一つ目鬼から至急来られたしと伝言が来てしまってな」
「至急……来られたし……」
呂望 《リョボウ》の口からさらりと飛び出した言葉を、呆気に取られた表情で繰り返した呂尚 《ロショウ》。
“神官も色々と大変だな”と、今度は本気で心配したその刹那。
「それで申し訳ないが、明日の会議は出られぬと、
「分かった、いいよ!」
“伝えておくから、安心して!”と、
「そうか、では宜しく頼む」
ホッと一息吐いて
そして、漆黒色に染められた上着を羽織り、颯爽と部屋から出ていった。
やがて遠くから馬の嘶きが聞こえてくる。
“今、桃源郷へ向かったんだな”と、虚ろな表情で確認した
「あー、眠い!」
と、部屋に誰もいないことをいいことに、大声で叫んで再び眠りに就いた。
翌日、目が覚めた
「
“真っ暗だったな”と、数時間前の出来事を思い返し
「やっぱり……神官と軍師を両立させている
と、
食堂は呂尚達が住む本殿から少し離れた場所にあり、働いている人々は皆、大抵ここで食事を済ませる。
この時代にしては栄養豊富な食事が出来るとあってか、早めに行かないと座れないといった状況に陥る為、時間になると同時に一斉に動き出す程、人気スポットだった。
さて、食堂の入り口を潜った
約50人程の人々が、
まるで野営にも似た光景に、声も出ない
それでもボーッとしていたのでは、朝食が食べられないと言い聞かせ、食事を提供しているところまで歩みを進めていく。
その時、先に来ていた
彼は
こうすることによって、人々の様子はもとより、何よりも深い絆が生まれると、彼自身信じているのである。
そんな彼を、
「おや?」
訝し気な声を上げた
「今朝は
と、目を丸くして訊ねる。
彼の言う通り、普段の
その為、理由を知らない者達が見かけると、殆どが双子だと勘違いした。
まぁ、恐らく
「
「あっ、はい?」
「てっきり今日も
「……たまには僕だって1人で行動しますよ」
それは良く分かっているが、いつも
その感情が
「あっ、ごめんなさい……」
「いえ、私も何か言ってはいけないようなことを口に出してしまったようで……」
「ち、違います」
暫くの間、言葉を交わせない2人。
周りには食事を終わらせた兵達が、何やら楽しそうに会話しながら脇を通り過ぎていく。
家族の事、恋人の事、瞳に映った風景等。
いつ戦闘が起きてもおかしくない状況の中で、こんなに沢山の笑顔を浮かべて会話が出来るのは、きっと仲間と共に食事をする時間だけではないだろうか?
(僕、朝ごはんを食べに来たのに、何で
故になかなか今の自分の気持ちを上手く言い表せずにいる。
そんな
「話題を変えましょう」
と、優しくそう提案した。
「ときに、
「
本来の質問を不意に訊ねられた
「
と、眠い目を擦りながらそう伝える。
「戦闘……それは一体何処で?」
「あー、何処だったかな……」
確か桃源郷って言ってたような?」
「東の方ですと?」
“それは大変だ!”と叫ぶ
東の国には、前に
それを教訓に、今回は
逸る気持ちを胸にしまい
「兎に角こうしてはいられません。
東のどの辺へ向かったのですか?」
と、いつになく早口で訊ねる。
「えっと……確か○○川の岸の向こう側って言っていた」
「分かりました、それでは今すぐ援軍を連れてその場所に向かいます!」
この時、
いや、その前に
その日の午後、桃源郷の
それは、彼自身が思っていた以上に状況が酷いというわけではなかった故に、張り詰めていた気持ちが軽くなったのだろう。
「今度は
“きっと感動するに違いない”と半ば確信して、
「な、何だ……この光景は?」
驚愕した彼の目の前に広がっていたのは、武装した何十人もの兵士が、右往左往している光景だった。
彼等のような者達が、敵もいない川の畔で一体何をしているのかと、呆気に取られている
そんな彼の姿を、遠くから見つけた
「
と、大きく手を振りながら声を張り上げた。
「おぬし、何を言っておる?
魚はいるが、攻撃しようとしている敵など、微塵もいないわ!」
「いや、しかし」
「しかしも
ともかく近隣の集落の住民達のいい迷惑だ」
“早々に立ち去れ!”と、血相を変えて
彼の言うことを渋々飲み込んだ
「まったく、
思い切り頬を膨らまし、伝言を託した
”帰ったらとっちめてやろう”
そう心に誓いながら……
お仕舞い
Mのお題「伝言ゲーム」
題名「伝え方」
章題「何故、そうなる?」
令和4(2022)年2月18日12:10~3月12日23:00作成
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