カー学 没稿
哀原正十
1章 入学編 ピックアップ
第10話 サンダージョー
主な変更点
鉛筆で刺す辺りから全部
当初は鉛筆で刺したら引かれるかなと思って平手打ちくらいにするつもりでした。
共通部分はカット。
(――ゲーム通りの狂人。行き過ぎた人間至上主義者。のようでいてその実本質は単なるエゴイスト。癪に障れば亜人だろうが人間だろうが遠慮なくぶちのめすアンタッチャブル。
しかもラグナロク学園が特殊な場所だから、雷丈家が王家も凌ぐほどの権力を有しているから、ただそれだけの理由で何をしでかしてもいつもご都合主義的に許され一切裁かれない。裁かれるのは学園編のラスト、主人公が一騎打ちの【決闘】でサンダージョーを打ち倒したあとのイベントでようやくだ。それまでひたすらプレイヤーにストレスを与えてくる、ゲームの欠点呼ばわりされるほどの不快キャラ。そしてゲーム終盤ではヒロインにまでも暴行を加える本物の悪魔。俺の一番嫌いなキャラだ……)
「さて、僕一人でも試験なんて合格できるのでペアなんて誰でもいいのですが――お」
教室を練り歩いていたサンダージョ―が玄咲の方へと近づいてくる。身構える玄咲をスルーしてサンダージョーはシャルナに話しかけた。
「これは、これは。お美しい。さしずめゴミ箱に捨てられた一輪の花。どうです? 合格させてあげますから僕とペアを組みませんか? なんならプライベートで愛人として囲ってあげてもいいですよ?」
「!? 貴様殺――」
快音がなる。玄咲が立ち上がり、サンダージョーの胸倉を掴もうとした矢先の出来事だった。サンダージョーが赤く晴れた頬を押さえる。机に手を突き立ち上がりざま平手を振り抜いたシャルナが色のない瞳に黒い情念を浮かべてサンダージョーを見る。
「――殺す」
(殺意――)
玄咲はシャルナの瞳の中に本物の殺意を見る。
「許、さない」
シャルナは殺意を瞳に乗せてサンダージョ―を睨み続ける。サンダージョーの顔から笑みが消えた。
「クソアマが」
(いかんっ――!)
サンダージョーが凄まじい速度で拳を振るった。顔の正中線を目掛けたそれにシャルナは全く反応できていない。慌てて差し込んだ掌で玄咲はサンダージョーの拳を受け止める。
(!? 強――)
想像より威力が強い。そう無意識領域で感じ取った時点で半ば本能的に玄咲は受け止めるのを諦め、軌道を逸らしながらもう一本の腕でサンダージョ―の体を猛烈に引き込み、サンダージョーの体に肩を接地し縦の回転をかけて投げ飛ばした。
一本背負い。
サンダージョーの背が床に強かに打ち付けられる。
「かはっ!」
遅れて、シャルナが反応を示す。背後に投げられたサンダージョーと、次いで玄咲を驚きの目で見た。
「なんて奴だ――一切の躊躇がなかった。信じられん。クズめ」
「き、貴様。何故、僕ではなくそのクソアマの味方をする。普通逆でしょうがッ!」
「?」
よろめき立ち上がりながらサンダージョーが言う。玄咲は理解不能なものを見る目でサンダージョ―を見た後、言った。
「冗談だろう。お前みたいなクズの味方、聖人だってするはずがない」
サンダージョ―から表情が消える。声と、体を震わしながら言う。
「聖人、聖人と、僕が、聖人さまに見放された罪人だと、貴様、そう言ったのか。貴様、貴様……」
「いや、誰もそんなことは」
「貴様ぁああああああああ! シャァアアアアアアアアアアアアアアアアア! 武装解放(アムドライブ)! マリアージュ・デュー!」
サンダージョーが腰につけたカードケースからカードを抜き放ち叫んだ。サンダージョーの手の中に禍々しい黄金色の鞭が現れる。さらにカードケースからカードを抜き放ち、黄金色の鞭に挿入しようとする。その手の動きがピタっと止まった。
「そこまでだ」
いつの間にかクロウが漆黒の短剣をサンダージョーに向けて玄咲の背後に立っていた。サンダージョ―に歩み寄りながら言う。
「このADの中にはお前を殺せるカードが挿入されている。ダークバレットみたいな授業用の雑魚カードじゃない。俺が仕事で使うカードだ。殺されたくなければ武装を解除しろ」
「くっ、ぐぅうううううううううう! ……不良教師め。魔符士の風上にもおけない。この学園でなければそれは犯罪行為ですよ」
「ADを平気で人に向ける奴に言われたくはないな」
現在進行形でADを人に向けているクロウの正気を玄咲は一瞬疑った。が、どうやら味方してくれているようなので細かいことは気にしないことにした。
「……魔符収納(カードモード)」
サンダージョ―がADをデバイスカードに戻した。クロウも戻す。
「……ふぅ。お前を誰かとペアにしたら問題しか起きなさそうだ。雷丈。お前は一人で試験を受けろ。別に構わないだろ」
「構いませんよ。こんなお遊戯会みたいな真似に付き合わされるのも阿呆らしいですからね……」
そう言ってサンダージョーは教室から出て行った。
「……はぁ、今年は過去一面倒くさくなりそうだな……」
「クロウ教官。仲裁してくださってありがとうございます」
「ん? いや、職務だからな。礼はいらん。しかし天之玄咲。先程の体捌きは見事だったな。何かやっていたのか」
「少しは」
「少しって感じではなかったが……ま、話したくないなら別にいい。あいつには気をつけろ。何をしてきてもおかしくない」
そう忠告してクロウは教壇に戻っていった。
「げ、玄咲。あり、がと」
シャルナが玄咲に話しかけてくる。その可憐な容姿を見て玄咲は思う。
(……シャルがサンダージョ―に誘われたとき、正直ゾッとした。シャルが他の生徒とペアになる――絶対嫌だ。これは、ある意味では好機。今なら自然な流れでシャルを誘える。いこう)
「シャル」
「なに」
「あいつはクズだ」
「うん。あいつは、クズ」
「きっと君を退学させようとするはずだ」
「……うん。かも、しれない」
「だから俺とペアを組もう」
「え? あ、うん……」
(よし)
心の中でガッツポーズ。玄咲は自然な流れでシャルナとペアを組むことに成功したと思い喜んだ。
「――あの女、どこかで見たことあるか?」
廊下。笑みを消し、サンダージョーは呟いた。頭の中の記憶を探りながら。
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