第2話 レアEXスキル「EXP変換」取得!

「ちーっす。リュスリムさん、いる?」


 街の神殿を訪れたリクが、奥まった礼拝室へ軽い調子で声をかけると、神官のリュスリムがゆったりとした足取りで姿を現した。


「相変わらず、神の前だというのに礼儀がなっておらんな」

「うーん、田舎の教会の孤児院で育ったからかな。神殿に来るとなんだか親しみを感じちゃうんだよね。落ち着くというかさ」

「まあよい。リクの純粋さと日ごろの行いに免じて、神も多少の無礼は見逃してくださろう。さて――今日はあれか?」

「そうそう、『EXスキル』をもらいに来た! ああ、やっとオレも16歳になったんだ!」


 リクが全身で喜びを表す姿に、リュスリムは穏やかな笑みを浮かべる。


「よくここまでがんばったな。お前は何度も死にかけて、この神殿の診療所に運ばれてきたからのう」

「ほんと、その節はお世話になりました」

「構わんよ。わしも若い頃は散々お世話になった側じゃったしな。」


二人が笑い合っているとファナもリュスリムに挨拶をする。


「リュスリム様、私も今日で16歳になりました。どうか素敵な才能を頂けますよう、よろしくお願いします。」

「うむ、ファナも今日で16歳か。10歳の頃だったか?『私、待てないんです!EXスキルください!』って言ってきたのは(笑)」

「や、やめてください!あの時は子供だったのです。」

「……まあ、それはともかく、二人とも。神託がもう待ちきれんのではないか?」

「ああ、今すぐにでも受けたい!」

「はい!今すぐにでも!!」

「では、祭壇の上にある『導きの書』に手をあて、自らが望む力を強く思い描くのだ」


 リクとファナは礼拝室の奥に鎮座する、分厚い白紙の書物――“導きの書”へと歩み寄る。どの神殿にも置かれるとされるこの書だが、実際は教会で造られた千ページ分の白紙が閉じられた辞典だという。ただし、成人した者が神官の導きのもと魔力を注ぐと、神託のページが浮かび上がる仕組みになっているらしい。


「リク、私から行くわよ。」

「え?いやいや、ここは…」

「レディーファーストね!」


そういうとファナは『導きの書』に手をかざした。


「お願いします…。どうか、冒険者として未来あるEXスキルを…」


 ファナがその想いを口にすると、ぼうっとした光が立ちのぼり、勝手にページがめくられ始めた。


「始まったようじゃな。止まったページに、ファナに与えられるEXスキルが記されるぞ」


 パラパラ……パラパラ……。


 白紙のページが勢いよくめくられていく。その様子を見守るファナとリクとリュスリム。本が半分までめくられたところで導きの書の動きがふっと止まった。そして、そのページには――


「EXスキル『急成長(限界突破)』?」

「なんと…、このパターンはワシも初めてじゃ。『急成長』は早熟傾向のEXスキルということで稀に見かけるが、限界突破はむしろ大器晩成型のEXスキル。この二つの組み合わせをワシは見たことがない…」

「つまり、超激レアということね!やったわ!!それで、効果は?!」


 止まったページには、こう説明がなされていた。 「通常時、経験値が一切入らなくなるが、成長が必要な時に溜めた経験値を大幅に増幅して獲得する」――。


「え、経験値が入らない…そんな…成長が必要な時って何?…」


 スキルの説明を読み終えたと同時に、ページの文字はすうっと消え、導きの書は何事もなかったかのように白紙へ戻った。だが、その内容に不安なファナは暗い顔のまま動かなかった。

そんなファナにリュスリムが言う。


「本来、『急成長』なら経験値を多く得られる優良EXスキルじゃ。だが、通常は『大・中・小』と強度を表す部分が『限界突破』になっておる。限界突破は限界以上の行動を起こすことで能力値を上げる効果じゃが、普通は『HP』や『力』や『魔力』などのステータスに付く。まさか、経験値もステータスとして扱われたということか…」


するとリクが不意に


「これは良いEXスキルなのか?」


と、あっけらかんと口に出してしまう。

その言葉にファナはリクを睨みつけるが…、自分でも自信が持てずうつむいてしまう。

だが、リュスリムが言う。


「安心せい。EXスキルは神からの授かりもの。良いも悪いもない。だが、これはかなり特別なEXスキルじゃ。ということは、ファナには特別に大きな試練を与えられたのだろう。それを乗り越えられるかはファナ次第じゃ。運命を決めるものではないぞ。」


ファナはその言葉に


「取り乱しました。あまりに期待が大きかった中で不安の方が大きくなってしまいました。そうですね、すべては私次第。その試練、絶対に乗り越えてみせますわ!」


と返した。ギルドでも期待を集める存在であるファナであるなら、きっと乗り越えるだろうとリュスリムはほほ笑んだ。


「さ、次はオレだ!」


意気揚々と『導きの書』の前に立つリク。だが、振り向いて一言。


「オレはファナが獲得したすごく珍しくて、すごく貴重なEXスキル以上に特別なスキルを引いてやる!選ばれたのはファナだけじゃない!神はオレにもっと大きな試練を与えたがってるはず!待ってろよ!」


きょとんとしていたファナだが、少し経ってフフと笑った。さっきのリクの言葉「これは良いEXスキルなのか?」に一瞬ムカついたが、獲得したEXスキルに自分でも不安になっていた気持ちを「選ばれたのはファナだけじゃない!」と言ってくれて、嬉しくなった。本当にリクのこういうところが好…


「いや!好きじゃないから!!」

「うお!急にデカい声出すなよ!ビックリするじゃん!」

「あ、ごめん」


 そして、リクは改めて『導きの書』を眺める。リクは幼い頃から教会に置かれたも『導きの書』を見るたびに「どんな能力を得たいか」とずっと考えてきた。いよいよそれを実現するときが来たのだ。


「冒険者として、誰よりも早く強くなりたい……」


 リクがその想いを口にしながら書に手を当てると、ぼうっとした光が立ちのぼり、勝手にページがめくられ始めた。


「始まったようじゃな。止まったページに、お前が与えられるEXスキルが記されるぞ」


 パラパラ……パラパラ……。


 白紙のページが勢いよくめくられていく。


 パラパラ……パラパラ……。


 パラパラ……パラパラ……。


 その様子を見守るリクとリュスリムは、だんだんと落ち着かない気持ちになってきた。


「なあ、リュスリムさん、いつになったら止まるんだ?」

「むむむ……まだ止まる気配がない。三分の二を優にめくっておるな」

「まさか最後までいって『何ももらえませんでした!』とかならないよな?」

「そんな話は聞いたことがない。だが、後半に行くほどレアなスキルが載っているのは事実。お前は相当に特殊なEXスキルを授かるかもしれんぞ」


 導きの書の前半にはメジャーなスキルが多く、後半は発現率の低いレアスキルが記されているとされる。だからといって、レアスキルが常に優秀だとは限らない。扱いが難しく、その真価を発揮できないまま使いこなせない例もあるのだ。


「できれば変なスキルは勘弁してほしいなあ……」

「大丈夫じゃ。ファナと同様に、神はリクにとって最良の力を与えてくださるはず」

「……そうだといいんだけど。神様、頼みます!」


 パラパラ……。さらにページがめくられ、ついに残り少なくなってきた。思わずリクが叫ぶ。


「ひぃぃ……もうページがなくなりそうだぞ! 大丈夫かよ!?」


 その刹那、導きの書の動きがふっと止まった。そして、そのページには――


「EXスキル『EXP変換』……?」


 リュスリムがページを覗き込み、驚いた顔をしながら読む。


「これはワシも聞いたことがないEXスキルじゃのう。導きの書の千ページでもかなり後方の記述だ。相当珍しい可能性が高い」


 止まったページには、こう説明がなされていた。 「アイテムや装備品を“経験値”に変換できる能力」――。


「なんだって?!オレは……アイテムを経験値に変えられるスキルを手に入れたのか……!」

リクの目が好奇心に輝く。

「EXP変換!!うまく使えば誰よりも早く経験値を稼げるかもしれない。経験値が溜まればレベルも上がる。レベルが上がれば……誰よりも強くなれる! やったぜ!」


「どうやら神はリクにも相当に特別な試練を託されたようじゃな。」

「でも、ファナと同じ系統の経験値に関するEXスキルだけど、なんか真逆だな…」

「そうじゃな。これは二人の関係が宿命的な何かをはらんでおるのかもしれぬな。」

「で、ファナ。どっちの勝ちなんだ?EXスキル勝負は?」


リクはファナに聞くがリュスリムが口をはさむ。


「これこれ、EXスキルは優劣をつけるものではない。どんなEXスキルであっても、結局は使い手の心がけ次第じゃ。その効果を活かし、たゆまぬ努力と正しい道を踏みしめることで結果が出るのだ。二人とも、命を大切に、誠実に励むのだぞ」


リクもファナもその言葉通りだと思った。


「もちろん! オレは伝説の冒険者になってみせるけど、そのためにもEXスキルだけに頼らず真面目にやるさ。これからも見ててくれよな!」

「私だって!自分を信じて進むことで必ず結果を出して見せるわ!!」

「うむ。期待しておるぞ」


 そう言いながらも、リクは少し気がかりなことを思い出す。


「そうだ、リュスリムさん……レアなスキルは国に報告しなくちゃいけないって聞いたことがあるんだけど。オレも報告されちゃうのかな? そうなったら冒険者じゃなくて騎士団入りとか……」

「フォッフォッフォ、それは多くの場合、レアスキル持ちが国のサポートを望むから自発的に報告するのだ。力を欲しがる国は喜んでバックアップするからな。だが、わしは誰かを縛りたくはない。お前のスキルは今のところ何の噂もない未知の力だ。無闇に報告する必要は感じぬ。冒険者として活躍すれば、いずれ国もお前の存在を知るだろう。そこからでも遅くはあるまい」

「さすがリュスリムさん、話が早い! 大好き!」

「フォッフォ、まったく……。まあ、リクの活躍を心待ちにしておるぞ。ところで、ファナも珍しいEXスキルじゃ。一応、国には報告できるが…」

「私もお断りしますわ。私の憧れは変わらず『世界をまたにかける冒険者』ですもの。」

「ふむ。二人とも楽しみじゃわい。フォッフォッフォ。」


 こうしてリクは、いまだかつて誰も持ったことのない激レアEXスキル――「EXP変換」を手に入れた。これまでの努力が報われ、いよいよ本格的に冒険者としての人生をスタートさせる。

 “誰よりも最短で最強に近づけるかもしれない”という期待を胸に、リクの心は大きな幸せと希望に満たされていた。

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