第12話 族長の叔父
「今日集まってもらったのは、我らの元に降臨された聖女を皆に紹介するためだ。ただ、その前にケールデン襲撃の首尾を伝えておこう。ザーラム二世にあと1歩まで迫ったが討ち果たすことはできなかった」
参集した者の中から落胆と惜しむ声があがる。
「すぐにでも反撃をしてくるだろう。だが、安心して欲しい。金竜ナージリアスは体調を取り戻した。かくいう私も不調を払拭している。舐めてかかってくるザーラム2世に苦汁を飲ませ、今度こそ暴君を討ち果たしてみせよう」
ニーラスの言葉に対する反応はまちまちであった。
ダルフィード国は大兵力を有しているし装甲獣は強力である。
ナージリアスは人とは隔絶した強さを有しているが不死身ではない。
それに以前に比べれば明らかに羽ばたきは力強さを欠き、鱗の艶もなかったのを知っている。
乾坤一擲の奇襲に失敗したとあっては不安に思う者がいるのも仕方なかった。
ニーラスは左足を引いて腕をサヴィーネの方へと振る。
「ナージリアスや私を癒した聖女、エスターテ嬢である。当面は我が賓客としてここに滞在頂くことになった。我らの窮状に対し同情し癒しの力を使うことを申し出られている。決して非礼のないようにな」
ニーラスは眼光鋭く周囲の人々を見渡した。
その態度に大方の者は族長の思し召しを正確に見抜く。
つまり、私の未来の妻となる可能性があるからして、狼藉を働くなど余計なことをするんじゃないぞ、ということであった。
世の中には美人の妻の顔をのぞき見たというだけで庭師の首と胴を離れ離れにしてしまうという話もある。
ニーラスはそこまでのことをするとは思えないが油断はならない。
「エスターテ嬢はこちらにみえたばかりである。お疲れにならぬよう今日は皆に挨拶をするに留め、明日より浄化の力をお貸し頂く予定だ。恐らく竜騎士からになると思うが、順については追って沙汰する」
ニーラスが宣言するとまた人々は各々の会話に戻った。
それでも中には冒険心に富んだのか、興味が上回ったのか、サヴィーネのところへ挨拶にくるものが出る。
「どうも初めまして。エスターテ嬢とはつまり国王陛下に嫁いでこられた方ということでよろしいかな?」
声をかけてきたのはニーラスの叔父のギバーズだった。
ザーラム2世に対して融和的な主張をしていてニーラスとは度々対立している。
本音を言えばニーラスは招かずに済ませたいが、そうもいかず声をかけた相手だった。
ニーラスにとっては従兄弟にあたる息子2人を後ろに従えてギバーズはサヴィーネに無遠慮な視線を向けている。
サヴィーネは軽く微笑むとスカートの裾をつまんだ。
「我が陛下の意を受けて両国の絆となるべくやって参りました」
「つまりは王の妃ということになるわけだ。日頃から陛下に対して威勢のいいことを言っているニーラスにしては随分と寛大な扱いだな。鎖に繋いで侍らせておくというなら分かるが」
「エスターテ嬢と申し上げたのを聞いておられなかったようですね。まだ婚礼を挙げたわけでもないレディに対して些か不適切な言葉と存ずる。ましてや、我らを悩ませる病を清めることができるのですぞ」
「それはそなたがそう言っているだけのこと。本当にそのようなことができるか知れたことか。あくまで主張するならワシをまず清めてもらおうか。とても信じられぬがな。それとも癒しの力を有するのは虚言と認めるか?」
「叔父上。このような場で自分を優先して清めよと仰るのか?」
「当然だろう。ワシはそなたの血縁者でしかも年上なのだからな」
ニーラスとギバーズとの間で見えない火花が散った。
「先ほど申し上げたように本日は挨拶だけです。それに叔父上、挨拶を望む者の後がつかえております。次の方に場所をお譲りください。エスターテ嬢は私の客人です。何かを強要するような真似はおやめいただきたい」
「何を企んでおるか知らぬが、まあいいだろう。明日は最初に呼ばれるのだろうな」
「エスターテ嬢の力が信じられぬというのなら無理に来ていただかなくても結構ですよ」
ギバーズは鼻をならすと身を翻して足音も高く立ち去る。
その後ろに息子2人が従った。
次の客が挨拶のために進み出る。
今度はうって変わって穏やかな雰囲気で会話が交わされた。
ニーラスは一通りの挨拶が終わったところでサヴィーネにボールルームから退出するように依頼をする。
アンナに案内された別室では食事が用意されていた。
歓迎会の会場ではずっと壇上に居たので、立食形式で提供されていた料理を口にできていない。
多くの人と交わるという経験に気疲れしていたサヴィーネにとっては椅子に座って食事ができるというのはありがたかった。
ただ1人では淋しいなと思っていると、部屋にそっとラピスが入ってくる。
「ね、私も一緒に食事していい? 向こうって退屈で」
サヴィーネが見ていたところでは、退屈と言う割にはラピスは会場を好き勝手にちょろちょろと動き回っていたように見えた。
「ええ、どうぞ」
ラピスはサヴィーネとは角を挟んだ横に座る。
後ろを振り向くと配膳に目を配っているアンナに料理を頼んだ。
「なんか肉料理持ってきて。食べ応えのあるの」
サヴィーネの皿を見て首を傾げる。
「そんなに上品な量で足りる? 遠慮しないで食べてね」
サヴィーネの顔を伺うとラピスは唇をすぼめた。
「やっぱり、私が食べ過ぎか」
新たに運ばれてきた皿の上ではでんと大きな肉が湯気を上げている。
肉をナイフに入れ始めたラピスにサヴィーネは尋ねた。
「日中は見かけなかったけど、何をされていたの?」
「私? シャルルーカと一緒に過ごしてた。あ、シャルルーカというのは私の相方の名前ね」
「そうなのね。シャルルーカさん、私はまだお会いしてないわよね?」
肉をもぐもぐとしていたラピスはゴクンと飲みくだす。
「あー、サヴィーネは知るわけないか。サヴィーネって呼んでいいよね? 私のことはラピスで。それでね、シャルルーカは私のドラゴン」
「ということはラピスは竜騎士なの?」
「なれればいいなと思ってる。でもまだまだかな。兄には半人前って言われてる」
「それでも凄いわ。高いところ怖くないの?」
「最初はね。でも、今は飛ぶのが好き。竜騎士は飛べるだけじゃダメなんだけど」
「竜騎士を目指している理由を聞いてもいい?」
「ほら、ここの国王って色々とアレでしょ? うちの部族にも側女を出せと無理難題をふっかけてきててさ。中には私を差し出せばいいって意見もあったんだ。兄は一蹴したけどね。それで、私も皆の役に立たなきゃって思っていて、だから、今後何かあったら私も戦うの」
サヴィーネはラピスを眩しそうに見た。
その視線を受け止めてラピスは質問してくる。
「ざっくばらんに聞いちゃうけどさ、あんな男を夫と呼ぶのに抵抗はないの?」
あまりに直球な質問にサヴィーネは目をパチパチとしばたたいた。
「それが私の役目なので」
「そっか。まあなんでも自由にできるわけじゃないよね。色んなしがらみや立場もあるだろうし。それにしたって、あんな損な役回りを引き受けようと言うんだから、サヴィーネって凄いよ。私には絶対の絶対に無理。死んだ方がマシだわ」
そこまで言わなくてもと思っているとラピスは目を見開く。
「もしかして、アイツの詳しいことを聞いてないの?」
「気性が激しくて乱暴な方だとは。でも、私が誠心誠意お仕えすればきっと……」
「うわあ、ひっどい。全然実態を聞かされていないんだ。そんなかわいいもんじゃないわよ」
今まで誰も耳に入れることのなかったザーラム2世の乱行をラピスが語り始めるとサヴィーネの顔は青ざめていった。
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