第7話
九月一日。ついに新学期が始まった。俺が教室に着くとその周り、正確には小林の周りにはすでに人だかりができていた。これでは話もできないと判断し、俺はさっさと自分の席に着こうとした。
「おはよう!桑名!!」
「お、おはよう。」
入院する前と何ら変わらない笑顔で小林は俺に話しかけてきた。ただ、違ったのはそれに対する俺の反応で。..........、クラスの目線が一気に俺に集まった。その誰もが豆鉄砲を食らったような顔をしていてとても面白かったためか、俺は少し笑ってしまった。
「桑名って..........笑うんだな.....。」
男子の一人が独り言のように呟くと、皆はそれに同意するように首を縦に振っていた。その時の小林はと言うと、言うまでもなくとても腹の立つような表情をしていた。
「文化祭の季節です!!!!!」
そんな文化祭実行委員の気合いの入った声がその話し合いの始まりを告げた。この高校の文化祭は十一月の初めにある。また、文化祭と体育祭が一年おきに行われているため、俺たち一年生は文化祭を二回経験することになる。
行事が少ない分、クオリティが高いのがこの学校の売りでもあるらしい。割と準備期間が長いので、そりゃあ熱も入るわけだ。特に希望はないので気合いが入っている人たちに合わせていればそれでいいや、と俺はろくに話を聞かず居眠りしてしまった。.....その間に暗躍されていることにも気づかずに。
「桑名、桑名!!!起きてーー」
「あ、終わった?」
「うん!『男女逆転!?執事・メイドカフェ』になったよー」
「へぇー。」
「桑名のメイド服、楽しみだなぁ。」
「...............、は?誰の何が??」
「だ・か・ら!桑名の!メイド服!!!」
「そんなん着るかよ!!」
「桑名が寝てる間に決まったんだって!ちなみに私は執事になるよー!」
最悪だ。なぜ俺にお鉢が回ってきたんだ??メイド服が似合いそうな男子は他にもっといるだろうに。心当たりがあるといえば.....、
じろり、とニマニマとこちらを見て笑う小林を睨む。犯人は絶対こいつだ。どうせ誰も名乗り出なくて推薦になったのだろう。
「まあまあ、いいじゃねぇか!桑名!」
「桑名君のメイド服、絶対似合うって!!」
四方八方からクラスメイトに声をかけられる。こんなことは初めてで、少しむず痒いような気持ちになった。だがそれらは、どれもが俺の欲しいような言葉ではなかった。
「ねぇじゃあさ、今度皆んなで買い物に行こうよ!!」
右手をぴしっと挙げて小林が満面の笑顔で提案すると、集まっていたクラスメイトからは、たちまち賛成の声が次々と上がった。
「もちろん、桑名も行くよねっ!?」
と小林が大声で俺に聞くと、騒いでいた集団の視線が一気に俺に集まった。期待のこもったそれらに、優輝が拒否権を持ち合わせているはずがなかった。
「.....行くよ。」
その一言を皮切りに、また教室内はうるさくなった。しかし、騒ぎを聞きつけたらしい担任の、『うるさーーーい!!』という一喝に皆は顔を見合わせ、やれやれといった風に肩をすくめてみせた。
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