大忙しなシャドーさん

夏空 花火

第1話   

 シャドーさんの朝は早い。少しでも光源があれば、それに合わせて影を作らなければならない。誰が見ていようが、見ていまいが関係ない。黙々と影を作り続ける。

 

 暗い部屋の中、シャドーさんは待ち続ける。今か、今か、と。そして、その時は静かにやってくる。カーテンの隙間から朝日。瞬時に光の差す角度と主との位置を確認し、影を形成。寝息に合わせて、動き出す。

 もちろん寝返りもお手のもの。主が、あっちへごろごろ、こっちへごろごろ。影も一緒に、ぐるん、ぐるん、付いていく。

 ひっそり、ふう、と息を吐く。ここからが本番。主がそろそろ本格的に動き始める。呼吸を主に合わせる。ぐいっと主が体を伸ばせば、影もぐいっと伸ばす。ベットから這い出て来る主に合わせ、シャドーさんも這い出る。

 部屋の中は、光源がいっぱい。寝室、廊下、トイレ等の天井。洗面台や化粧台……挙げたらキリがない。それに床や壁に、どう影を映すかも重要だ。例えば、床や壁に主の一部が近づけば、その部分を濃くはっきりとした影で映し、逆に離れていれば薄くぼやっとした影を作る。さらに、さらに、光源が複数あれば、シャドーさんは高速分身して、残像で影がまるで複数に見えるようにする必殺技も行使する。

時たま、主が立ち止まり、珍妙なポーズをとっても、粛々しゅくしゅくと影で真似るのが、シャドーさんのマイルール。

 

 もちろん、主に付いて外に行った時も、シャドーさんは大忙し。唯一のオアシスは、主が日陰に入った時かもしれない。この時だけは、シャドーさんは、呪縛から解き放たれ、縦横無尽。主を真似る必要がないフリータイム。

 同じく日陰に入って来た、シャドーと主の愚痴を言い合い、今日は、どんなユニークなポーズを取っていたかを報告し合う。

 そして、主が日陰から出た瞬間、何もなかったかのように、しれっと付いていく。


 頭上に太陽が昇った時は、体を必死に縮こませ、黒い丸に見えるようにする。軟体動物以上の柔軟性を見せて足元を付いていく。

 また、日が沈んだ夜も大変だ。コンビニの光に、街灯。そして油断ならないのが、車のヘッドライト。シャドーさんが、おっ、光源がないな。と気を抜いたタイミングを見計らって車がやってくる。だから、たまにびっくりして作った影が、普段より身長が間伸びしたモノになってしまう、なんてこともある。


 そんなこんなで、主が家に帰り部屋の電気を消し、真っ暗になるまで、シャドーさんは、手も口も出さずに見守る。そうそれこそ文字通り、生まれてから一生。

 そして、今日も静かに告げる。

 「おやすみ」と。

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大忙しなシャドーさん 夏空 花火 @natsuzora-hanabi

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