魔法を愛した君へ

第1話

 カーテンから漏れる日差しで目を覚ます。もう少しベッドに居たいけど、開店準備が遅れるのは避けたいのでゆっくりと体を起こす。昨日仕入れたものに面白い品があって少し寝るのが遅くなってしまった。これは店番中に寝る。昼食のあと昼一番は眠くてかなわないんだよなぁ。もうちょっと早く寝るように心がけてみようか。なんだかんだ毎日こんなことを言っている気もするが、言うだけなら自由なのだ。

「おはよう。リリー」

 んなぁ。うちの看板娘はつん、とおすまし顔で一声。白い毛並みと青い瞳はいつ見ても綺麗だ。お利口さんな自慢の俺の相棒。もうちょっと甘えてくれたりしたっていいのにな。お客さんにはそのクールさが受けているみたいなので何とも言い難い。お客さんには決して触らせないのに俺には抱っこを許してくれるってことでだいぶん甘えられているんだろうけど。もうちょっと自分からも寄ってきてほしいものだ。

 すとん。と窓際に飛び乗ったリリーにつられてそちら窓辺に寄る。シャッ、と音を立ててカーテンを開けると日差しで部屋が満たされた。春とはいえ朝はまだ肌寒い。冷えた部屋の空気がだんだんと温かくなっていくこの時間が心地良い。

「今日もいい天気だな。朝食がてら散歩でもしてくるか」

 軽く羽織るだけの簡単な服に着替えて一階へ。品物にぶつからないように店内を抜けて外に出る。日差しは暖かいがまだ空気は冷たい。薄手の上着を羽織ってきて正解だったな、と冷え始めた手先を見つめて思う。

 少し遅れてやってきたリリーと一緒に歩きだすと、朝早くから開店する食材店や軽食喫茶の店主が声をかけてくれる。

「おはようノアくん!うちで食べていかないかい?」

「おはようノアの坊。今日はリリーお嬢ちゃんも一緒なんだな」

 この町の人は皆いい人だ。こうやって外を歩けば誰かが声をかけてくれる。リリーが散歩に出た時もよくしてもらっているし、この町に住めて俺はとても幸せだなとこういう時に思う。

「おはようございます!せっかくなのでおばさんのところで食べさせてもらおうかな」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。今日は何にするかい?」

 差し出されたメニューを受け取って道に面した席に着くと、リリーは足元で丸まった。足首に触れる毛が少しくすぐったくて思わず笑いがこぼれる。なんだかんだ相棒は甘えん坊なのかもしれない。

 今日は珍しくガレットにしてみようか。ハムと目玉焼きが乗っているらしい。卵といえばオムレツも捨てがたい。ここのオムレツは中がとろりとしていておいしいのだ。これ以上見ていてもいろいろと目移りしてしまってなかなか決まらないのが目に見えていたので最初に目に留まったガレットと、それからサラダを頼もう。

「このガレットと、サラダ、あとは......コーヒーとカフェオレを」

「ノアく、いや、何でもないよ。ちょっと待ってておくれ。すぐ作るからね」


今日も俺は、誰もいない向かいの席にカフェオレを頼む。

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