第28話 連携訓練!
連携の練習ということで雫たちはビルの地下へ向かう。
そこには一輝とオモチが作った空間が広がっており、実践訓練には適しているのだ。
ビルの地下、そこは異世界の闘技場だった。
光の魔法灯が天井一面に並び、床は衝撃吸収用の魔石パネルで覆われている。
壁のあちこちには魔法陣が刻まれており、訓練中に暴発が起きても安全に処理できるようになっていた。
「ここが……秘密基地?」
雫が目を丸くする。
「まあ、そうだね」
一輝は腕を組み、どこか誇らしげに立っていた。
「地上じゃ派手な魔法は使えないからね。ここなら全力を出しても問題ない」
「……学校の体育館より広いじゃない」
知花が呆れ気味に呟き、麗華が上を見上げながら微笑んだ。
「天井も高いですわ。飛んでも跳ねても大丈夫そうですわね」
「そのために作ったからな。さぁ、今日のメニューは連携訓練だ」
一輝の言葉に、雫たちは緊張と期待を入り混ぜた表情で頷いた。
「仮想の敵は俺だ」
「えぇ!? 一輝さんが!?」
「ずるい! 絶対勝てないじゃん!」
「まあ、ハンデはつけるさ。俺は攻撃しない。ただ回避と防御だけだ」
一輝は軽く拳を構える。
「本気で来い。連携の練習だろ?」
五人は顔を見合わせ、それぞれの位置についた。
「行くわよ、みんな!」
奏の号令で、連携訓練が始まった。
まずは陽葵が先陣を切る。
「マジックショット、連射ーっ!」
指先から次々と光弾が放たれるが、一輝はひょいひょいと体を傾けて避けていく。
「悪くない。でも、弾が全部一直線すぎる。読まれやすい」
「なら、こっちはどうかしら!」
知花が詠唱を唱え、魔力弾を斜めに放つ。
「はい、予測通り」
一輝が軽く腕を払うと、魔力弾は壁へと逸れていった。
「ぐぬぬ……!」
「焦るな。動きはいい」
麗華が息を整え、後方から支援の魔力を流す。
「腕力強化、脚力強化、反応速度向上、全員に付与……!」
「ナイス麗華! 雫、今!」
雫が両手を構え、マジックボールを発射。
だが、一輝が軽く跳躍してかわした瞬間、ボールが床に直撃し、爆発の衝撃で陽葵のスカートがふわりと舞った。
「きゃあっ!?」
「おっと、火力ありすぎだな」
「や、やっちゃった……!」
「おおーっ! やっぱ実戦訓練は派手でいいニャ!」
その声に全員が振り向く。
そこには胴着を着て、頭にハチマキを巻いたオモチがいた。
「な、なにその格好!?」
「見よ! この流れるような動きッ!」
オモチは軽快に回し蹴りを放ち、空中で一回転して着地した。
その後ろのスクリーンには、どう見てもカンフー映画のサムネイルがずらりと並んでいる。
「……お前、またネットで何か仕入れたな?」
「うむ! 我が輩、カンフーマスターとなったニャ!」
「なんで猫が武道極めてんのよ!」
「師範代オモチ、いざ参るニャ!!」
オモチは構えを取り、麗華と知花の前に立つ。
「貴様ら、接近戦が苦手とか言ってられんニャ! ここで鍛えるニャ!」
「いや、でも……!」
「言い訳無用ニャ! さあ、拳を構えるニャ!」
雫たちは呆れながらも笑いをこらえ、訓練を再開した。
一輝は腕を組み、そんな仲間たちを見守る。
時折アドバイスをしながら、どこか楽しそうに微笑んでいた。
笑いあり、悲鳴あり、そして少しの成長あり。
スターリンクの連携訓練は騒がしくも熱い熱気に包まれる。
訓練が終わる頃には、地下の空気はまるでサウナのようだった。
「はぁ……もう無理……」
「全身が重いですわ……」
奏と陽葵はその場にへたり込み、雫は膝に手をつきながら荒い息を整えていた。
知花と麗華も例外ではなく、顔は真っ赤、髪は汗で張り付き、全員がぐったりしている。
一方、訓練を見届けていた一輝とオモチは――。
「ふぅ、いい運動だったな」
「我が輩、ちょっと喉が渇いたニャ」
涼しい顔でペットボトルの水を飲んでいた。
その温度差に、奏がうつ伏せのままぼやく。
「なんであの二人だけ、元気なの……?」
「人間離れしてるんだよ……」
陽葵が力なく答えた。
その時、オモチがピョンと前に出た。
「よーし! みんなよく頑張ったニャ!」
ぱちぱちと前足を叩いて称賛するかと思いきや、急に真顔になる。
「だが、ここからが本番ニャ!」
「……え?」
知花が顔を上げた瞬間、嫌な予感がした。
「これから、知花と麗華は我が輩と組手を行うニャ! 苦手な接近戦を克服するニャ!」
「ちょ、ちょっと待って! 長所を伸ばしていこうって話はどこに行ったのよ!?」
知花が思わず声を張る。
麗華も慌てて頷いた。
「そうですわ! 私、近づかれたら終わりなんですよ!?」
だが、オモチはどこ吹く風だ。
「確かに、長所を伸ばす方が効率はいいニャ。だが――!」
ぐるりと二人を見回し、ぴしっと前足を突き出す。
「もし、前衛の奏と陽葵が抜かれた時! その後ろで構えてる二人が何もできなかったらどうなるニャ!?」
知花と麗華は言葉を失う。
「その時、パーティが壊滅するニャ!」
「……うっ」
「ぐ……反論できませんわ……!」
オモチはさらに畳み掛ける。
「甘いニャ! そのどうせ後ろには敵は来ないって油断こそが、命取りになるニャ!」
ビシッと説教を受け、知花はため息をついた。
「……一理あるけど、今は雫もいるし、召喚獣のウルフも中衛で守ってくれてるでしょ? そう簡単には私たちに敵は近づかないと思うのだけど?」
しかし、オモチの瞳はまるで指導教官のように鋭かった。
「だから甘いニャ! そう簡単にはって言葉がもうダメニャ!」
「……はぁ」
知花と麗華は、同時に肩を落とした。
完全に逃げ場がないと悟ったのだ。
「分かりましたわ……。やります……」
「もう、好きにして……」
「よろしいニャ! では、明日から毎朝、組手の時間を設けるニャ!」
「朝から!?」
「一番嫌な時間帯ですわっ!」
一輝はその様子を見ながら、思わず吹き出した。
「ま、頑張れよ。オモチのスパルタ道場は厳しいぞ?」
「笑ってる場合じゃないわよ!」
知花が怒鳴るが一輝は笑いを堪えきれなかった。
接近戦が苦手な二人の朝稽古が決まった。
その様子を見ていた雫、奏、陽葵は苦笑いである。
助かった、と彼女たちは心底安心していた。
「あ、言っておくけど雫たちも朝稽古ね。魔力制御がもっとうまくできれば、今より強くなれるら頑張ろうな」
「え、えっと、それは今日みたいに実戦形式でしょうか?」
「そうだよ。レベルがあがれば俺も攻撃するから頑張って行こう!」
「……おー」
「死ぬ、死んじゃうよ~……」
雫、奏、陽葵は死んだ目をしていた。
知花と麗華のことを笑えなくなり、明日から辛い日々が始まることに絶望するのであった。
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