第26話 スキルアップだ!
事務所の会議室に集まったメンバーたち。
その中央のモニターにはネット掲示板のスレッドが映し出されていた。
「ほら見てニャ。掲示板でも話題になってるニャ」
オモチが誇らしげに尻尾を揺らす。
だが、一輝はスクロールされるコメントを眺めながら顔をしかめた。
「……なんだこりゃ。俺、めちゃくちゃ言われてるじゃねえか」
ユニコーン、男混ざるな、空気読め、など。
画面には心ない言葉が並んでいた。
「気にしない方がいいわ」
知花が落ち着いた声で言う。
「ユニコーンっていうのは、アイドルや女性配信者を男の影から守りたいって言いながら、結局は束縛したがる人たちのことよ」
一輝は腕を組み、眉をひそめた。
「なるほどな……胸糞悪い連中だ」
オモチは前足をぱたぱたと動かしながら言う。
「言ってもキリがないニャ。だけど、全体の反応は悪くないニャ! これからが本当の勝負ニャ!」
その言葉に奏たちも表情を引き締める。
「うん、今の勢いを保ちたいね」
「次の配信、もう少しテンポを上げた方がいいかも」
オモチが前足を上げて静かに言った。
「その前にスキルアップニャ!」
「スキルアップ?」
雫が小首を傾げる。
「そうニャ。戦い方の幅を広げるニャ。今のままでも悪くないけど、長所を伸ばしながら魔法を覚えればもっと安定するニャ」
オモチはホワイトボードにマーカーを走らせた。
「剣士の奏、魔法使いの知花、盗賊の陽葵、僧侶の麗華、召喚士の雫。バランスは完璧ニャ。でも、攻撃魔法を使えるのは知花だけニャ。だから――」
そう言ってオモチは、一輝の方をちらりと見る。
一輝はうなずき、手の平に淡い光を生み出した。
「俺とオモチがクロスルビアで考えた簡易魔法だ。誰でも使える基礎魔法ってやつだ」
光が弾け、指先から小さな光弾が飛び出した。
「マジックショット。指先から放つ魔力弾だ。拳銃くらいの威力はあるから殺傷能力は高いぞ」
続けて一輝が両手を構えると手のひらの上に光の球が現れた。
「マジックボール。野球ボールくらいの魔力弾。さっきのマジックショットの倍くらいの威力だ」
さらに、周囲に数個の球体が浮かび上がる。
「マジックミサイル。自分の周りに魔力弾を浮かせて、敵に向けて放つ。追尾機能とかもつけるとさらに厄介だが、まずは先に習得だな。威力は当然、マジックボールの数倍だ」
最後に一輝が深呼吸をし、両手を前に突き出す。
空気が震え、眩い光が一直線に伸びた。
「そしてマジックキャノン。魔力を一点に集中させて放つ大砲みたいな魔法だ。威力は抜群だが、魔力消費がでかい」
目を丸くする雫たち。
「こ、これ全部使えるようになるの?」
「もちろんニャ。誰でも扱えるように調整してあるニャ!」
オモチが胸を張ると奏が微笑んだ。
「……面白くなってきたわね」
「やるからには本気で教えるぞ」
一輝がそう言って笑うと雫たちは自然と笑顔を交わし合った。
新しい挑戦がまた始まろうとしていた。
オモチがホワイトボードの前でぴょんと跳び上がった。
「今から教えるのは、ただの魔法じゃないニャ。魔力そのものの扱い方ニャ!」
「魔力の……扱い方?」
雫が首を傾げる。
一輝が頷きながら、ゆっくりと説明した。
「マジックショットやマジックボールってのは、あくまで魔力の使い方を学ぶための型なんだ。重要なのは、そこに到達するまでの魔力の流し方、つまり、魔力制御だ」
そう言って、一輝は手のひらに淡い光を灯す。
光は指先へと滑らかに流れ、指の腹でふっと消えた。
「今のはただ魔力を流しただけ。でも、力加減を間違えれば、爆発するか、逆流して自分を焼く」
「ひぇ……」
陽葵が思わず肩をすくめた。
オモチが前足で床をとんとん叩く。
「でも、これを身につければ身体強化の精度も上がるニャ。筋肉の動きに合わせて魔力を通せるようになるから、反応速度も持久力も跳ね上がるニャ!」
「つまり、戦闘全体の底上げになるってことね」
知花が腕を組んで頷く。
「その通り。精密なコントロールができるようになれば、魔法の威力も格段に上がる。ただし――」
一輝は指を立て、真剣な表情になる。
「これは簡単じゃない。もともと、この世界には魔力なんて存在しなかった。ダンジョンが現れたのは、せいぜいここ数十年。魔力の歴史なんて浅すぎるんだ」
「だから、研究も未完成ってわけね」
「そういうことだ。だが、俺とオモチは別世界で何百年も魔力を扱ってきた。つまり――」
「我が輩たちに教えられないことなど存在しないニャ!」
オモチが胸を張り、尻尾をぴんと立てた。
雫たちは目を丸くして見つめる。
まるで魔法学校の入学式のような緊張感が部屋を包んでいた。
「じゃあ、始めようか」
一輝が両手を合わせ、静かに目を閉じる。
部屋の空気がわずかに震え、微細な粒子のような光が舞い上がる。
「まずは、自分の中に流れる魔力を感じ取ることからだ。焦らず、ゆっくりと……」
奏は真剣な顔で目を閉じ、呼吸を整える。
陽葵は目をつむって唇を尖らせながら、「うーん、なんかお腹が熱い」と呟いた。
麗華は穏やかに手を組み、静かに祈るような姿勢で集中している。
知花は一人、分析的な視点で魔力の流れを感じ取ろうとし、額に汗をにじませた。
そして雫は両手を胸の前で握りしめ、慎重に意識を内側へ向けていた。
「……感じる。暖かい何かが胸の奥で流れてる」
雫の言葉に一輝が微笑む。
「それが魔力だ。まずはそれを掴むところからだな」
オモチが嬉しそうに尻尾を振る。
「いい感じニャ! 焦らず、一歩ずつ進めば、すぐにコツを掴めるニャ!」
こうして、スターリンクのメンバーたちは配信者としてだけでなく、探索者としても再び進化を始めた。
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