探偵を海に帰す話

 探偵がじつは人魚だったので、海に帰すことにした。満月が照らす浜辺を、探偵を乗せたショッピングカートを押してわたしは歩いている。

 カートを波に近づけると、探偵は尾びれをひるがえして海に飛びこんだが、すぐに這って砂浜に戻ってきた。海に帰るには陸のものを置いていかなければならないのだという。探偵はうつむくと、その体に収まっていたとは思えない大量の血やはらわたや髪や骨のようなものを吐き出した。最後に、革ひもに金色の鍵が下がったペンダントがこぼれ落ちた。

 探偵は気まずそうにえへへ、と笑い、いままでありがとう、とわたしに言うと、今度こそ海へと帰っていった。その姿が波に消えて見えなくなっても、わたしはしばらく海から目を離すことができなかった。

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