第38話 近づく厄災1

 カルロと新しいギルドを発足してから早いもので数ヶ月が経った。

 シエラ、カルロの二人旅はいつしか神獣のルルを合わせた二人と一匹の旅に代わり、いくつもの街や森の中を冒険した。

 ルルが神獣だからと言って街の中には入らず、街の外でしか一緒にいれないのは少し残念だが、その分森の中、洞窟の中などの冒険ではルルと一緒に行動し、倒した魔獣に対して変わらない食欲を見せていた。

 今日も今日とて先程倒した魔獣をフライにしているところだった。


「ああ、そうだ。シエラ、きみ宛にギルドから手紙を預かったよ」


 一番近くの村でも十キロは離れている自然の真ん中でカルロは唐突に懐から手紙を取り出して、調理中のシエラに手渡した。


「手紙ですか? なんで?」

「さぁ? 読んでみたらわかるんじゃない?」

「それもそうですね」


 なんでもカルロは昨日、町を出るときにギルド職員に声をかけられてシエラ宛に手紙を受け取ったらしい。それを渡そうと思いながらも忘れてしまっていたようで、やっと渡せたとつぶやいた。

 シエラは手紙の内容に見当がつかず首を傾げたが、封蝋のマークがギルドのものであったことから、とりあえず封を切ってみることにした。


「えーっと、なになに? あなたたちのギルドの昇格を認めます……」

「なるほど、オレたちのギルドはDランクだったからね。Cランクに昇格させられたようだ」


 手紙に書かれていた内容は簡潔なもので、ギルドのランク昇格のお知らせだった。

 新設されたギルドは最低ランクのDから始まる。そしてクエストなどを達成していくにつれてランクが昇格されてゆく。シエラたちのDランクギルドがついにCランクギルドへと認められたのだ。


「街から街へ移動するついでにクエストとか受注してましたからね……まぁ、Sランク冒険者のカルロさんがいるからっていうのもあると思いますけど」

「いやいや、シエラだって強いよ。それにルルもね。以前よりクエストを難なく達成できるようになったし、トントンとクエストを受けすぎたね。これじゃあまたSランクギルドにされちゃうよ」


 カルロは困ったように笑った。

 Sランクギルドの仕事に嫌気がさしてギルドを脱退した身としてはやはりランクが高くなるのは嬉しくないことのようだ。

 大体の冒険者ならランクは高ければ高いほど良い、と高ランクを求めるものだが、報酬と仕事量が割りに合わないSランクギルドはお断りなのだろう。


「今後はもう少し慎重にクエストを選んでいきましょうか。Sランクギルドにならない程度に抑えつつある程度のクエストを受けていく、って感じで」

「そうだね。Sランクギルドはもう懲り懲りだよ。たしかにやりがいがあるといえばあるけどね……オレの目的はあくまで冒険すること。ギルドの仕事に従事することではないからね」

「そうですね……このギルドのマスターは私ですし、私は書類仕事とか苦手ですから。普通ならSランクを目指すところですけど、Sランクギルドの仕事量の実態を知ってしまったので、Sランクギルドは少し遠慮しておきたいですね」


 カルロに合わせるようにシエラも苦笑した。

 今のギルドのマスターはシエラだ。もしこのギルドがSランクになれば、シエラが書類仕事などを行わなければならなくなる。

 シエラは本を読むのは好きだが、体を動かすのが好きな冒険者タイプなのだ。あまりじっと席に座り続けるのは得意ではない。

 なにより仕事に追われて自由に冒険できないなんてまっぴらごめんだ。


「クエストを適当にしていればSランクになることはないと思うけど……まぁ、もしSランクにまで無理やり昇格されそうになったらまたギルド解散してやろうぜ」

「悪いこと考えますねぇ」


 カルロがにやりと笑ってシエラは口角を上げた。


 やはり、旅は楽しい。

 鼻腔をくすぐる美味しそうな香りも、愉快な仲間たちの笑い声も、冒険者でなければ経験できないことだろう。


 Sランクギルドはギルド組合からもらえる補助金の額が高いが、元Sランクギルド所属のカルロとシエラからすればその程度のお金の額は魅力的にはうつらない。

 ギルド組合からの補助金がなくても武器などの装備にかけるお金も、回復ポーションを買うお金も困っていなかった。


 それなら報酬が少なくても、補助金の支給額が少なくても、自分たちが楽しいと思える冒険をした方がいい。

 ルルの背中に乗って空を飛ぶのも、たった二人と一匹で高ランク魔獣がたくさんいる場所へ向かうのも楽しくてしかたがないのだ。


「シエラァ……我はもう腹が減って……動けん」

「わっ、ごめんなさい! もう出来上がりますからね!」


 カルロと話していると隣でルルがぐったりと横になった。お腹からは元気に空腹を知らせる虫の音が聞こえる。

 シエラは止まっていた手を動かして揚げ物の油をきって皿代わりにしている葉に盛りつけた。そこにソースを乗せてルルの前に差し出すと、ルルは大口を開けて食べ始めた。


「私たちも食べましょうか」

「そうだね」


 シエラとカルロの分も用意すると一緒に食べ始めた。

 今日はイデカイノシシを二体討伐したので揚げ物と炒め物としたのだが、出来上がった料理はすぐに無くなっていく。今日も今日とてカルロたちの食欲は変わらずのようでなによりだ。

 シエラは自分の分をゆっくりと食べながら、おかわりを狙うカルロとルルの攻防を微笑みながら眺めていた。


 数ヶ月前の自分に言っても信じてもらえなさそうな、楽しく愉快な旅。

 これからもきっとこうしてみんなと一緒に自由気ままに旅をできると、そう心から思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る