お引越し

 しばらくのご無沙汰でした。

 生活保護の環境整備やらが大変で、報告する暇がなかったのです。

 何があったのかを以下につらつらと書いて行こうと思います。


+ + +


 さて、生活保護とは基本的には『必要最低限の生活を援助してくれる』、ありがたい日本の福祉システムだ。これ、実際かなりすごくて、生活保護に要介護が付くと介護保険の範疇で介護タクシーが使い放題(もっとも病院に行く時だけだけど)の上、医療費はタダ、国民健康保険は免除(というか、与えられない)、さらにヘルパーさんが毎日来て食事の準備とかをしてくれるようになる。

 ヘルパーさんの滞在時間は合計で最大70分(でも、平均すると45分程度)だけど、これはかなりありがたい。部屋の掃除とかもしてくれるしね。


 ところで、この『必要最小限の生活』ってところが結構ミソで、補助してくれる家賃には上限がある。横浜市の場合は5万2000円。それまで住んでいた家は6万8270円だったのでこれだと足が出てしまう。

 生活費は定額で支給されるので、家賃の足が出ている場合には当然生活費が圧迫される。

 そういうわけで、最初のタスクはお引越し。


 引越しというと市や区が面倒を見てくれるかというと、然にあらず。物件自身は自分で探さないといけない。

 なんでそんなことになっているのかは? なのだが、まあ、市からシェルターを与えられるよりは多少はマシか。やっぱりしんどいけどね。

 そういうわけで、退院してからこっち僕は必死になって引越し先を探す日々を過ごすことになっちゃった。


 当時三匹の猫を飼っていたのだが、これだとどうにも部屋がない。良くても一匹だけ。一軒三匹でも良いという部屋があったのだが、それだと初期費用が40万を超えてしまうので泣く泣くNG。

 仕方なく、僕は二匹の親猫を里子に出して彼らの子供のロロだけを手元に残すことにした。


 二匹の猫を里子に出すのはやっぱり辛い。

 特にシロとの別れが辛かった。

 シロは身体が大きい割に甘ったれで、いつでもゴツゴツと僕に頭突きをしてくる猫なんだよね。毛色は真っ白。子猫の時は額に二本、短いグレーの縦縞が入っていたんだけれどこれは大人になるにつれ薄くなって、引越し前にはすっかり真っ白な猫になっちゃった。

 とにかく甘ったれで、どこにでもゴロゴロ言いながらついてくる。僕がベッドに入ると足元に飛び乗って、僕の脚にもたれながら寝るのが常。


 一方のマロンはというとこちらは超賢い猫なので僕の邪魔になるようなことは一切しない。でも、タイミングをみて甘えてくるあざとい猫だった。別れる最後の頃は網戸ボルダリングに凝ってしまったようで、よくセミのように網戸に掴まってた。

https://x.gd/ZEdU3


 猫の里親はジモティと猫ジルシで探した。タイミングが良かったのか、ラッキーなことにシロもマロンもすぐに貰い手が見つかった。

 シロは茅ヶ崎の農家のお家、マロンは戸塚のマンションのお家が引き取ってくれるという。

 マロンは貰い手さんが車で家まで来てくれた。息子さんと一緒にいらっしゃったのだが、その息子さんがマロンにぞっこんで、家に帰ってすぐに一緒に寝ている写真を送ってきてくれた。今でもたまに連絡するけど、どうやら幸せに暮らしてるみたい。


 一方のシロは元々臆病猫だったせいか、慣れるのに少し時間がかかったみたい。最初に送ってくれた写真は怯えて物陰に隠れてる写真ばっかし。でも、時間が経ったら慣れたのか、今では元気に暮らしているそう。先日は食器棚の上で威張っている写真が送られてきた。まだ畑にはお出かけしていないそうだが、近々出してみると貰い主さんはおっしゃってました。


 まあ、まずはめでたし。


 ところで僕の方もようやく引っ越し先が決まって前の家は引き払った。

 今まで住んでいたのが5丁目、今度は1丁目。

 同じ町内での超近距離引越しだったんだけど、そうしたことには訳がある。

 やっぱしさ、どうせ面倒見てもらうんなら同じ人たちの方が気楽じゃん?


 それに前の家の騒がしかったお向かいさんが人知れず息を引き取ったんだよね。

 7月の末からずっと静かになってたので1ヶ月くらい待ってから大家さん(というか多分みんなも知ってる大きな管理会社)を呼んだ。

 ところがそのおじさんが勝手に鍵を変えたらしく、ドアが大家のマスターキーでは開かない。

 すぐに警察が来て、鍵屋も呼ばれてドアが開いたのが夜の1時過ぎ。やっぱり死んでたみたいですぐに白いシーツを被った担架で運ばれてった。

 まあ騒がしい人で──おそらく狂ってたんだと思われる──実はその前にも何回か警察を呼んでいる。一度はバットをドアの外で振り回していて、その時は事情を説明したら三人の警官が完全武装(透明なポリカーボネートの盾にヘルメット、それに拳銃を構えてやってきた)で押し入って延々と説教してた。その時ついてきてた婦人警官が一人、僕の家に上がってお茶(特別に淹れてあげた高級品)を飲みながら慰めてくれたんだけど、この時ほど警察をありがたいと思ったことはない。

 警察官って実は無辜むこな一般庶民には優しいのよ。

 ともあれ、そういうわけでめでたく向かいの部屋は事故物件になった。


 ついでに言うと僕が今住んでいるお部屋も実は事故物件だ。

 僕が入居する前に住んでた老人が亡くなったとかで、その部屋には大幅な割引が行われていた。Googleの写真では洗濯物が写っていたので(撮影されたのは僕が入居する3ヶ月前くらい)、どうやらその写真が撮られた後にその時の住人(物件管理会社によると男性の老人)が亡くなったらしい。

 事故物件はこうした経緯を説明されるので、嫌な人は嫌だろう。


 でも幸いにして信心希薄な僕はそうした経緯を全く気にしない。


 家賃は割引価格で5万4000円だったんだけど、早く部屋を貸したかったのか割引して5万2000円でいいという。部屋の広さはなんと前の家よりも広い四〇平方メートル。ベランダも大きいし、部屋には大きな物置もついている(ちなみに物置は部屋の平米外だ)。

 そのマンションは高台にあるので風もぶんぶん入るし、ついでに日当たりもめちゃくちゃいい。さらにインターネットとケーブルテレビが無料だというおまけつき。ついでにお風呂も最新型の大きなものに入れ替えられていた(多分前の住人が冬にお風呂で亡くなっていたんだろうと推測している)。


 築五〇年超の元公団住宅だというのはともかく、向かいが大きな墓地だと言うのがネックっちゃーネック。でも、これなら普通借りるよね。ちゃんと改築されてるし。


 そう言うわけで今はお墓の前の元事故物件に猫のロロと一緒に幸せに暮らしてます。

 今のところ、幽霊が出る気配は特にないです。

 

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唐突に水頭症だと診断されました 蒲生 竜哉 @tatsuya_gamo

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