遅刻魔とフト強襲作戦

1


 笑顔と酒が飛び交うピンクの街、フト。この陽気で色気がありそうなこの街にはとある建物があった。それは「小白戦線対策本部」。ただ今ロンリー大帝国は、憎き因縁がある国、スワーム大共和国との戦争で多忙の時期を極めている。そしてフトはロンリーとスワームの国境地帯に存在する唯一のロンリー側の街であるため、軍の拠点を置ける場所がフトしかない、というわけなのだ。

「いやー結構順調っすねー」

 と、マルコは言う。彼は入隊して一年。まだまともに戦場に駆り出された事がない。

「我がロンリー軍はスワーム軍相手に互角、いや、圧倒的な戦いを展開しているからな」

 と、ゴビ将軍。彼はこの小白戦線での総司令官であり、怪物との混合部隊を提案したのも彼である。

 そう。このロンリー軍とスワーム軍の決定的な違いはここにある。スワーム軍は人間のみで構成された部隊がほとんど(戦車を交えた部隊が少数いる位)であるが、ロンリー軍はというと、古くから密かに交流があった怪物サイドに接近したことで仲が一気に深まり、怪物サイドがロンリー側で参戦したため、人と怪物の混合部隊が作れたのだ。

 しかし、そんな微かな戦勝気分になっている小白戦線対策本部に一つの知らせが届く。

「失礼しますッ!ゴビ将軍殿!小白南東担当の第六師団からの通知です!!」

「...言ってみろ」

「『部隊ほぼ壊滅!!これによりスワーム軍の大規模な反撃がされると見たり!!』...第六師団が、壊滅...しました」

「なっ...なんだと!?第六師団は俺が、このゴビ将軍が直々に鍛えた連中だぞッ!?一体どのスワーム軍の部隊にやられたぁ!!」

「そ、それがですね...」

「あぁん!?勿体ぶるな!さっさと言えぇ!」

「は、はい!...第六師団によると、攻撃したのはスワーム軍の部隊ではない一般人とのことです。なんでも第六師団が戦闘中に、横やりを差すように奇襲をかけられた、だとか...」

「一人...?バカなたとえ奇襲といえどそんな簡単に私が手がけた第六師団が破れるはずが

「そしてその者は片手から炎を撒き散らしていた事が確認されているとのこと...」

「なっ...」

「.....」

 戦勝ムードだったのが一変、極力な戦力であった第六師団が一人にボコボコにされ葬式のような静けさになる。

「そして不確定の情報ですが、フトにその一般人が潜入しているとの事です」

「くっ...まずいな。奴らが本部を探し出したとでもいうのか...?とにかく奴らが来るのも時間の問題。早く迎撃の準備をしなければ...!」

「...ゴビ将軍ー」

「...なんだマルコ」

「まぁ分かってるかもしれないけどさ、奴ら僕たちの怪物混合部隊より遥かに恐ろしい切り札があった、って事だよね」

「...何が言いたい」

「そろそろアイツらマジでぶっ潰そって事だよ、将軍」

「当たり前だ。火の奴さえ始末すれば、戦況は再び我らロンリー大帝国の超優勢に返り咲くのだからな」

 戦いはこれから。戦火は激しくなる一方だ。


             2


「さてと、フト強襲について話していこうか」

 オリバはフトに向かう途中で見つけた木の影で休みながら言う。

「フトを強襲するにあたって一番重要なのは、浩介、お前だ。お前の火の力で”司令部”だけ燃やし、司令官を皆殺しにしてもらう」

「え?街全体やんないのか?」

「俺らはそこまでイッてる奴じゃない。民間人をあくまでも巻き込むつもりはないからな。...そしてこの作戦の目的だ。先程も言った通り、司令部の破壊、並びに司令官の抹殺をする事でロンリー軍の通信網をぶっ潰し、奴らを混乱させるのが目的だ」

『たしかにこの目的には民間人を巻き込むような事は言っていないな』

「ちぇっ燃やしたかったのに」

「お前目的もなく街や人を燃やす奴をなんて言うか知ってるか?」

「知らんわ」

「放火魔だよ」

「放火”魔”...」

 浩介にとって、”魔”がつく物には良いイメージがない。よって放火魔と呼ばれたくない浩介はこれ以上何も言わなかった。

「いいか。この作戦は何があろうとも成功させないといけない。俺たちは今回は脇役みたいな立場だ。あまり目立つ行動はしちゃいけないんだよ。分かったか?」

「ぐぬぬぅ...分かったよ...」

『だがどうするんだ?』

「?」

『?じゃない。どうやってフトに入るんだ。あそこはスワーム大共和国の街じゃない、ロンリー大帝国の街だ。そうやすやすと入れないだろう?』

 ごもっともな意見だ。だがオリバは余裕の表情を見せ、言った。

「そこんとこは安心しろ。特装級のチョー優秀な道具をHIRIに取り寄せさせたからな」

 オリバは、バッグの中からHIRIに取り寄せさせたであろう道具を出した。

「これ!スケルトンスーツ!」

「スケルトンスーツ?スケルトンって事は透明のスーツって事か?」

「その通り。このスケルトンスーツを用いて、強引にフトに潜入するってわけ」

『たしかに強引だが、まぁ、それが一番楽だろうな』

「んじゃ、フト郊外で着替えるのもあれだし、今着替えてくれ」

「『へーい』」

 オリバに促され、ドルと浩介はスケルトンスーツを着始める。

「オリバ」

「なんだ」

「今更だが裏口入学とか言ってすまなかったな。お前はそんなに無能じゃない事に気づいたよ」

「フンッ本当に今更だな...まぁ大丈夫だ。実を言うと部下からもよく言われ

「これからはHIRIがないと何もできない一般人って認知する事にするよ」

「せめて兵器を扱える一般人にしろ三下」



 スケルトンスーツを見に纏った御一行は、小白の時とは打って変わって、何事もなくフトに到着した。やはり透明なため、怪物にも敵軍にも見つかる事がないのが功を奏したのだろうか。

 ロンリー軍とスワーム軍の激しい攻防戦が繰り広げられている小白とは真反対に、フトでは様々な人々がスワーム大共和国に勝っている我が国を褒め称えるような発言で溢れかえっている。

「司令部はどこなんだろうな...。HIRI使った方が良いんじゃないか?」

「今やってる。お、きたきた。ンッンッ...HIRI、司令部がどこにあるか”具体的”に示してくれ」

[承知しました。貴方様のお身体の負担を増やせばすぐに判明できますが如何なされますか?]

「あぁ。よろしく頼む」

[承知しました]

 次の瞬間、オリバの全身はフッと力が抜け、オリバは地面に膝をつく。

『おい大丈夫なのか?』

「あ、あぁ一応、な。これもまた祖国のため。この身が滅ぼうとも、祖国に最期まで尽くすのが軍人ってこった」

[判明しました]

「...きたな。HIRIどこにあるんだ?司令部は」

[はい。司令部は...]




[貴方様御一行のすぐ右隣にあります]

「「『は?』」」

 先程祖国に尽くすとか言ってた手前、オリバは羞恥心でしばらく膝をついたまま何も動けず、ただただ赤面しながら俯くしかなかった。


             3


「お前、身体大丈夫か?今なら引き返せるぞ」

「だ、大丈夫だ。祖国のためだ。俺の身体なんかどうでもいい」

 しばらく何も動かなかったオリバを心配して、日陰へ移動し彼を休ませる浩介。こういった気遣いは素晴らしいのだが、別にオリバは身体への過度な負担で動けなかったわけではない。

「フゥ...。よしっ気分も落ち着いたし、早速取り掛かるとするかね」

「気分...?身体じゃなくて?」

『浩介。今余計な事は言わんくていい。今からやる作戦に集中しろ』

「あ、そうだよな。すまん。で、オリバ。司令部を外から燃やせばいいのか?」

「いや違う。内部っていうか、通信機を中心に燃やしてほしい。司令官も殺しておきたいから正面から入って、司令官とかを探しながら通信機を燃やしていく感じだな。あと全員で行くと、足音でバレる可能性があるから、お前一人で行ってくれ。ドルと俺はここで作戦が失敗した場合の尻拭いができるように準備しておく」

「オーケー。まぁ失敗しねぇからよ、見とけって」

 具体的な指示を受けた浩介はすぐに行動に移し、敵司令部へ乗り込んだ。

 



 一方、肝心の小白戦線対策本部では、

「...来たか。マルコ、分かってるな?」

「うん、分かってるよ将軍。火の奴だね」

「あぁ。全力で奴をぶっ潰す...。そして我が国を勝利の道に再び引き戻す!」

 2人の男が闘志をメラメラと燃やしていた。

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