第七話
七
公演終了後には、今日に限りささやかな打ち上げの場が用意されていて、植木も参加した。
向日葵の母親がスタッフやメンバーへの日頃の感謝の印として、お手製の鍋を振る舞ったのである。
母親は福岡市出身とのことで、もちろん鍋はモツ鍋。
モツやニラ、もやしなどの定番の具材の他に、
「鍋パだ、鍋パだ」とテンションが自然と上がって騒ぐメンバーに、公演を常に裏で支えているスタッフも加わり総勢三十人が楽屋で鍋を囲んだ。
いくつかのテーブルに分かれながらも、にぎやかで暖かい雰囲気に包まれながらの夕食会。
植木と向かいあって座った支配人の大関は、そんな様子を満ち足りた表情で眺めていたが、ふと鍋に目を戻して、
「いやあ、ほんとお母さまの仕込んだモツ鍋はおいしいなあ。
私もいろんなモツ鍋を食べたけど、麩を入れるというのは初めてだ。
モツとの食感の対比がいいアクセントになってるよね。
もうひとつ、食べようっと。
あれ? さっきこの辺にあったんだけどなあ。
植木君、麩、取った?」
植木がそれに答える前に、二つ向こうのテーブルで箸をつついていた神希がぐるんと振り向き、ニラを貼りつけた前歯をぐっとむき出して、大関をきっと睨みつけ、
「いえ、痩せたんスけど」
(了)
かりんとう!3 鮎崎浪人 @ayusaki_namihito
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