BAD LUCK AND YOUNGER BROTHER
少し肌寒い桜が咲く季節に晴れて社会人デビューをする女性が今両親と深刻な話し合いをしていた。
「お願いだから一人暮らしをさせてよ!」
テーブルに両手を叩きつけて必死に
艶やかな栗色のボブカットに色白の
彼女は地元の大学卒業後すぐに自宅から少し距離のある会社の内定が決まり、その気に一人暮らしをしようと思っていたので家族に了承を得ようとしていた。
だが、彼女には厄介な体質を持っている為、両親と弟の
真紀子の厄介な体質とは『不運』。
生まれながらトラブルを引き起こし周りにも甚大な被害を及ぼすほどの厄災級の不運の持ち主。
厄災を招くほどの持ち主を家族がおいそれと一人で生活をさせるわけにはいかない。
「父さん母さん、僕も一緒に暮らすからお姉ちゃんの一人暮らしを許可して。お願い!」
真紀子の弟で十二歳の活発あるヤンチャな少年も力強く両親にお願いをする。
二人の懇願する姿に父親は眉を寄せて険しい表情をし、しばらく考え込むと根負けて仕方なく許可を下すことにした。
それから一週間が過ぎた頃、会社から徒歩十分で手頃な家賃のアパートに入居。
両親や勇策も引っ越しの手伝いをしている中、またしても真紀子の不運が家族達に降り注ぐ。
真紀子が乗った引っ越し自動車が対向車のよそ見運転に巻き込まれたり、荷物が入った段ボールを抱えた父親が階段から足を滑らせて転落したりなど、その他にも様々な不運な出来事が家族を襲う。
一時間で終わる引っ越し作業が不運なトラブルがいくつも重なり合い十五時間近く掛かってしまった。
引っ越しも終わり手伝いに来てくれた家族達を見送り、今日から弟の勇策との二人暮らしが始まった。
引っ越しを終えて一段落をした真理子は食事の準備に取りかかる。
「今日は面倒だからオムライスにしようかな」
「やった! 僕の大好きなオムライスだ!」
勇策は鯉のように勢いよく跳ね上がり歓喜する。
「そういえば私の作るオムライス勇策も好きだったな……」
「もちろん姉ちゃんの作るオムライスは世界一だよ!」
物思いにふけながら手際よく調理をし、真新しい木の香りのするテーブルの上にオムライスを二つ向かい合うように置く。
「頂きます」と手を合わせて囁く。
「頂きま~す」と勇策も元気よく挨拶する。
夕食を美味しく食べ終えた勇策だった一方、真紀子はオムライスの味付けに失敗したらしく不快な表情を浮かべながら食べていた。
それから勇策は姉の真紀子と一緒に入浴をし一緒の布団で寝息に着くのであった。
翌朝、気持ちよく勇策は目覚めると時刻は八時五十分。
「やばい……。お姉ちゃん起こさないと……」
今から起こしたところで会社に遅れることは間違いない。
だが、このまま寝かせてしまうのもいけないので、勇策は必死に姉の真紀子を起こす。
身体の上に馬乗りになり、必死に真紀子の名前を叫ぶと、ようやく真紀子は重苦しそうに目を覚ます。
目を擦りながら生あくびし不意に時計に目を向けると。眠気が一瞬にし覚めた。
絶望感へと額に汗を滲ませながら青白い表情に変わる。
急いで真紀子は身支度を済ませ朝食を取らずに部屋から飛び出した。
昨日買ったばかりの時計が不良品だったため、起床時間に設定しても鳴らなかったのだ。
あまりにも慌てている真紀子に見てられなく勇策は後をついて行く。
勇策の思っていたとおり真紀子は会社に向かうたびに、様々なトラブルに出くわしていた。
カラスが真紀子の頭部に
その数々のトラブルを勇策は必死に守り抜き
だが会社の帰宅途中、真紀子に降りかかる過去最大の不運が起こることに彼女自身や勇策もまだ知らない。
会社の仕事が終わり真紀子は帰宅する。
途中人気の無い路地を歩いていたとき、突如突風が吹き上げ真紀子のポケットから一枚のハンカチが、風邪に揺られて路地裏の方へと飛んでいってしまう。
真紀子は飛んでいったハンカチを必死に追いかけ、地面に落ちたハンカチを手に取り
「このハンカチ弟から誕生日にプレゼントでくれた物だったから、見失わなくて良かった……」
ハンカチをポケットにしまいその場から去ろうとしたとき、
「おい!」
突如低くナイフのように鋭い口調が真紀子の胸に突き刺さる。
声のする方へ真紀子は顔を向けると、そこは黒ずくめのスーツ姿の男性達が何やら怪しい取引をしていた。
恐怖のあまり身体が金縛りのように動かなくなる。
「まさかこの場所にカタギの人間が来るとはな」
「あの……失礼します……」
「おう! 気をつけて帰れよ」
一礼をしこの場所から一刻も離れようと走ろうとしたとき、
「――何て言うかと思ったのかよ、このクソ女がっ!」
厳つい黒いスーツ着た男は真紀子の髪を鷲掴みし強引に引っ張る。
「痛い! 離してっ!」
痛みに耐えながら必死にもがく真紀子に厳つい男は拳を振り下ろす。
真紀子は強烈な厳つい男の攻撃を食らい意識を失ってしまう。
それを見た勇策は助けようと男達に立ち向かおうとしたとき、一人の男がこちらを振り向く。
「どうした?」
もう一人の男が勇策を見つめる男に声を掛ける、首を左右に振り、「何でもない」と一言告げ、真紀子を積んで発進した。
「姉ちゃんを……助けることができなかった……」
男の殺気に勇策は怯えて、真紀子が男達に拉致られるのを只々見てることしかできなかった。
悔し涙を浮かべて勇策は立ち尽くしていると、ある男性の老人が声を掛けてきた。
「坊主よ。追わなくてよいのか?」
「えっ!?」
自分を見つめてくる老人に呆然とするがすぐに暗い表情を勇策は見せる。
「助けたくても……怖くて……」
「勇気を振り絞れ。お前はなんのためにこの世にとどまる。姉さんを助けたい強い思いがあるから今こうしているのだろ」
「僕は……助けたい! 姉ちゃんが心配でずっと今まで側にいたんだ!」
老人の強い言葉に魂が揺らいだ勇策は急いで姉をさらった車の後を追う。
「ありがとう、じいちゃん。僕お姉ちゃんを助けに行くよ!」
「がんばれよ!」
(あのおじいちゃんは一体何者なんだろう? ――そんなこと考えている暇はない! 早く姉ちゃんを助けに行かないと)
急いで車を追って行く勇策の背中に謎の老人は手を振って見送るのであった。
身体を縛られ目隠しされて猿ぐつわをされてSUV車に押し込まれ、しばらくすると車が急停車し、何者かに担がれてどこかの場所に連れて行かれた。
そのまま椅子に座らされて男達の会話を聴くことしかできない。
「どうするこの女、海にでも沈めるか?」
「いいや、殺すのはまだ早い。まずは裏風俗でにでも売り飛ばそう」
男達が売るか殺すかの話し合いをしているのを聞いている真紀子は何かを漏らしそうになるほどの恐怖感が強く感じてしまう。
真紀子の近くに何者かの足音が近づいてくる。
「お前を殺すことにした悪く思うなよ」
なにか『カチッ』と小さな金属音が聞こえ真紀子の心臓は飛び跳ねた。
「ヴォエヴァヒビボヴァジデ!! (お願い見逃して!!)」
猿ぐつわしながら真紀子は必死に助けを求め懇願する刹那、何かガラスの割れる甲高い音が響き渡る。
「姉ちゃん助けに来たぞ!!」
勇策は窓ガラスを割って侵入する。
周りの男達は割れたガラスの方へと意識を集中する。
「何者だ出てこいっ!」
何もない空間を周りにいる男達は銃を向けて詮索する。
辺りが静寂の中、一人の男が突如宙を舞う。
「うわぁ! なんだ!?」
一人の男が、宙に浮いている男も巻き込んで銃を乱射する。
すさまじい銃撃音に宙を舞っている男は蜂の巣になり息を引き取った。
「ふふーんだ。俺に銃なんて効かないよ。――だって僕は霊体なんだから」
それから次々と武器を持った男達を吹き飛ばし殲滅する。
「落ち着け野郎共!」
辺りが静まりかえるのを見る限りこの男達を仕切っているボスだと勇策は感じた。
さらに男は続けて話す言葉に衝撃が走る。
「いいかよく聞け! お前達を相手にしているのは実態のない化け物だ」
「もしかしてこいつ僕の事見えているのか!?」
「ああ見えているし、貴様の声も聞こえているぞ」
勇策は驚いた。まさか自分が見える人物を今日二人にも会えるとは。
「姉ちゃんを解放しろ!」
「それはできないに決まっているだろ。薬の密売を見られたんだ。このまま黙って返せるわけないだろ」
真紀子を襲った集団は世界を轟くほどの違法薬物の密売組織のグループであった。
街の住人や警察も知らない隠れた路地裏での密売取引にたまたま真紀子は現れたため、この場所が知られると組織自体は相当な痛手になってしまう。
「なら全員懲らしめてやる」
勇策は再度特殊な力をしようとしたが、発動しない。
何度も何度も特殊な力を発動させようと試みるが失敗。
「はははっ。もう力が使えないみたいだな。それじゃお前の姉を殺すとするか。仲良くあの世で一緒に暮らせ」
「やめろー!!」
勇策は必死に相手の方へと向かうが間に合わない。
男が引き金を引いた刹那、男の持っている拳銃が爆発した。
「ぐっ! これは――!?」
拳銃を持っていた組織のボスの手が爆発に巻き込まれて流血する。
「ほっほっほっ。まだ十歳近くの少年をいじめるな若造」
「誰だ貴様」
聞き覚えのある年老いた声に勇策は視線を向けると、なんと先ほど密売組織のやり取りのあった路地裏で出会った老人が目の前に現れた。
「おじいちゃんどうしてここに!?」
「ほら早く助けないとお前の姉が死ぬぞ」
「ダメだよ僕には力が……」
「めそめそするな。そら」
老人は人差し指を勇策に向けると急に力が湧き上がる。
先ほどまでの何十倍もの力を手に入れた勇策は急いで姉を救出に向かった。
「そうはさせるかよ!」
「お前の相手はワシじゃよ」
廃工場の近くにあったロープがまるで蛇のような動きをし密売組織のリーダーに巻き付き身動きを封じた。
勇策は急いで拘束具を外して真紀子を無事解放する。
「これは――」
目の前の光景に真紀子は絶句してしまう。
周りには気を失った密売組織達と縄で堅く縛られている密売組織のリーダーが拘束されていたのだ。
誰かが通報したのか廃工場の外側からもの凄い数のサイレン音が鳴り響いてきた。
それからは廃工場に大勢の警備隊と刑事が侵入して密売組織を逮捕したのである。
そのやり取りの現場を遠くの場所から勇策と老人は見つめる。
「ありがとう。おじいちゃんがいなかったら今頃姉ちゃんを助けることができなかったよ」
「ほっほっほっ、礼には及ばんよ。ところでお前さんは姉に別れの挨拶はしなくていいのか?」
「うん。姉ちゃんの声を聞いたら、成仏できそうにないし……」
寂しそうに俯く勇策の姿を見た老人は何やら考え込む。
「お主は若くして亡くなったんだ。やりたいことや家族との別れで未練があったのじゃな。――そんな小僧に特別なご褒美をやる!」
「ご褒美?」
老人の方に目を向けて勇策は小首をかしげる。
「そう。別な世界で転成して一から人生を送るのじゃ、しかも転成したら特別な加護を授けよう」
「それって異世界転生!?」
「まあ、そうなるな」
瞳が眩い星に輝かせる勇策に笑顔を老人は向ける。
「どうじゃ、転成するか?」
「うん! 転成する」
「それじゃ、ほい」
勇策は眩い光を輝かせる。
「そう言えば、おじいちゃんは一体何者なの?」
「ワシか? わしはただのお節介おじいちゃんだよ。――それと姉のことは心配するな。このワシが責任を持って守ってやる」
「わかった。ありがとう、おじいちゃん。姉ちゃんをよろしくね」
「ああ。はよ行け」
「それじゃあね」
光が消えると同時に勇策の身体も消えた。
こうして無事姉を救出に成功した勇策は謎の老人に異世界へと飛ばされて新しい生活を送るのであった。
それからしばらくして姉の真紀子は不運な出来事は一切送ることはなく、――それどころかかなりの強運の持ち主となり宝くじなどが当たり巨額の大金を掴み生涯幸せな人生を送るのであった。
短編作品集(ホラー) 関口 ジュリエッタ @sekiguchi
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