第20話 休日

「あなたたち、覚悟はできてる……ですよね」



 こんなところで強盗しようってやつらだ。


 返り討ちにあっても文句は言えまい。

 

 ダンジョン内で人を殺しても証拠が残りにくい。

 

 裏を返せば僕が返り討ちにしても同じことが言える。



「はあ、粋がるんじゃねーよ! 素直に帰還石を渡して俺たちに会ったことを黙ってれば命は助けてやろうと思ったのによ。……うん、待て、お前どこかで見たような……。あ、お前じゃねえか! 黒羽を京極に取られてもずっと気づかなかったマヌケ野郎じゃん」


「恋人を寝取られたことにようやく気がついて『漆黒の瞬き』を辞めたやつがこんなところにいたのかよ。おおかた力をつけて復讐するつもりだろうが諦めな。お前は俺らに帰還石も寝取られるのさ、そういう星の下に生まれたんだよ、ぎゃはははは!」



 は?


 僕は一瞬頭が真っ白になった。


 この瞬間襲われていたら勝てなかっただろう。


 後で思えばこれは反省材料だな。




 こいつら『漆黒の瞬き』か。


 メンバーの層が分厚い『漆黒の瞬き』では、上級ダンジョンをクリアできる実力があるなんて自慢にもならない。


 実力が行き詰って生活に窮して犯罪行為に走る者も多く、実はクラン別犯罪率もトップなのだ。


 こいつらの言うことが正しければ里香が京極に盗られていたことは僕以外のみんな知ってたってわけか。


 綾と恋人になって吹っ切れたと思ったけど、あらためて聞かされるとメンタルにくるわ。



 絶許なので最初に考えていたお仕置きにもう一つ追加することにする。


(【リターン】! こいつらのレベルを1に戻す)


 で、スキルでまた使用回数を戻して、


(【リターン】! こいつらのスキルを未修得の状態に戻す)



 さて、ここは適正レベル100の初級ダンジョン最奥。



 レベル1でしかもスキルが何もない状態で帰ってこれるかな?



 前に黒の三連星のレベルを1に戻したけど、スキル次第では力をすぐに取り戻せるかもしれないと思っていたから、こいつらはきっちりスキルを失わせておく。


 そして僕は帰還石を取り出すと、それを見た3人組がこっちに向かってくる。


 が、遅い。


 レベル1なんだから、彼らの動きがスローモーションのごとく見える。


 あるいは、指導するマスターの動きが速すぎてそれを見慣れているせいかも。


 3人の攻撃をかわした後、それぞれにパンチを入れておく。


 ダメージを与えておけばさらに生還率が下がるだろう。

 

 腹パンされてうずくまる3人をほっといて帰還石を使用した。



 その後、僕は2度とその3人に会うことはなかった。



◇◇◇



 『白銀の輝き』クランのランキングは30位まで上昇。



 復帰したマスターと綾さんがペアを組んで覇王級や狂気級のダンジョンに潜って成果をギルドに納め、さらには引き続き綾さんが澪さん達を連れて超級ダンジョンに入って彼女らを鍛えているからだ。


 僕はまだ中級ダンジョンで1人黙々と鍛えているところだ。


 そしてレベルは300を超えている。


 また、この間スキルのレベルが上がり【リターンLv3】になった。

 1日の使用回数が3回に増えた。



 実はうっかり普通に【リターン】を2回連続で使ってしまい、その日は使えなくなってしまうと言う凡ミスを時々やらかしてはマスターに呆れられていた。



 スキルのレベルが上がってからはそんなミスもほとんどなくなった。


 しかしまだまだここで満足するわけには行かない。


 【魔導鑑定】をもつ真矢さんにもう一度僕のスキルをみてもらったところ、レベルが10になれば使用回数に制限がなくなるという。


 また、レベルが上がるごとに跳ね返す際の威力が10%ずつ上がっていくそうだ。


 スキルのレベルが3の今は30%増しの威力で相手に返せるということだ。




 そして、今日はクランの休養日。


 ホワイトなクランである『白銀の輝き』は週休3日でかつ年間30日まで自由に休日を設定できる。


 休むのも仕事のうち、というわけだ。


 ちなみに『漆黒の瞬き』は決められた勤務日はない。


 あるのは完全報酬制に対応したノルマだけ。


 毎月のノルマが達成できていればどれだけ休んでもいいし、できなければ休みはない。


 上位陣は自分の思い通りにスケジュールを組めるが、それ以外はほとんど休みがないに等しい。


 これをブラックと見るかどうかは人それぞれだろう。



 そんな休日だが、僕はマスターに呼び出されていた。


「もうすぐ全国探索者大会(Lv1000未満)が開催されるから、出ろ」





◆◆◆◆◆◆


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