第20話 夏期講習

 夏休みに入ると、中学受験を控え、凪咲は母親の勧めで塾の夏期講習かきこうしゅうを受けることにした。母の話では、同級生の大山川真奈美おおやまかわまなみも受けるというので、話しかけるチャンスだと思い了承りょうしょうした。


「暑い夏! 夏はエアコンでキンキンに冷えた部屋でアイスを食べながらベッドの上で動画どうがを観てゴロゴロするのだ~。夏期講習かきこうしゅうに行きたくなーい‼ 行く意味が分からない~」


 凪咲はじゅく用バッグを肩にかけたまま、玄関でぶつくさ文句を言う。ノアムは凪咲の家にホームステイしている設定なので、今日も人型に変化し、金髪で美青年の姿でため息をついた。

「にゃふう……。凪咲さん、スパルタ式でいいなら、わたくしが教えて差し上げますが、いかがいたしますか?」

 ゆれる金色の髪からのぞく王子様のように品よく整った顔立ちのノアム、なのに鋭い瞳で凪咲を見つめる。


「あー。それなら夏期講習に行く」

 さっさと家から出て、歩きはじめた。

「凪咲さん、少し傷つきます」


「あはは、ごめん! だってノアムのスパルタ式って目が怖いんだもん」

「厳しくしないと伸びない子もいれば、ほめて伸ばす教育もありますね。その辺は反省しております。では、わたくしも妖力ようりょくで塾を操作したので講習をいっしょに受けますね」



 ***



 歩いて十五分の場所に塾がある。


 授業は学年ごとに分けられているので、人に変化へんげしたノアムの年齢設定は一つ上の中学生だから別の教室のはずだ。が、ノアムの神通力じんつうりきで、六年生の凪咲と一緒に授業を受けることになった。そしてちゃっかり隣の席に座る。


「妖力を使っていいの⁉ ノアム、逮捕されませんか?」

「大丈夫です。わたくしは幽世かくりよからの命で現世うつしよでも妖力使用許可ようりょくしようきょかが下りました。それに、先日の河童事件では、河童が凪咲さんを嫁にめとりたがっていた。あなたはあやかしに好かれているようです。危険ですのでわたくしがおまもりいたします」

「わたしって、あやかしに好かれているの?」

「ええ、あやかし語も理解できるから、結婚後も会話に不自由しないと河童が思ったのではないでしょうか」

「まるで国際結婚こくさいけっこんするみたいな言い方……。河童は怖かった。あんなぬめっとした生き物が夫なんてヤダ。まだ小学生だし。ノアムがいてくれると、確かに心強いです!」

「凪咲さん、少し照れます」

「?」


「――この教室に大山川真奈美さんはいますか」

 ノアムは凪咲に聞く。

「うん、最前列に友達と座っているね」

「澪さまの話では、講師が大山川家の親戚だそうですよ」

「……」


(学校は創設者。塾も親戚が経営者なんて、真奈美さんは逃げ場がなくて大変だな……。でも成績も優秀だから大丈夫なのかな?)


「ところで、携帯を持っていますか?」

「うん、ちゃんと持ってきたよ」

 塾バックからスマホを取り出す。


 そして『AYA🐾NEKOアヤネコ』アプリをタップする。


「講師も大山川家の親戚なので、あやかしに操られていないか確認のため、講師をあやかしアプリのQRコードで読み取ってください」

「人間を読み取りスキャンするの?」

「はい。このアプリはあやかしの種類が分かるのです。わたくしに携帯を向けて、撮るフリをして、講師を読み取ってください」


「う、うん。授業が始まる前に撮るね」

 凪咲は『AYA🐾NEKO』アプリからQRコード画面にする。


(よし。準備はできた)


 授業が始まる前、講師は書類を整理していた。今がチャンスとばかりに凪咲は行動する。


「ノアム! モンキャット王国の親に頼まれているから撮るね~」


 などと、よくわからない嘘を並べ自然を装い、教室でノアムに携帯を向けた。すると真奈美とその友達がノアムを見つけて笑顔で駆け寄ってきた。


「キャーキャー! ノアム様がいるの? 結川さん、わたしたちも一緒に撮っていいかな?」


(あー! 早く講師にQRコード向ければよかった。失敗した)


「あ、うん、いいよ。入ってー」


 凪咲は「AYA🐾NEKOアヤネコ」アプリを急いで閉じて、フォト画面にしようとしたが、慌てていたので、間違えてあやかしアプリで真奈美を読み取りスキャンしてしまった。


(しまった。落ち着いて、アプリを閉じよう)


 そしてアプリを終了しようとしたが、「ミャオン」と鳴る。読み取り終了した音だった。その直後「シャー」という威嚇音いかくおんも鳴った。

「……?」


 凪咲が画面をみると、そこにはあやかし危険警告が――。


『この方に化蛇がいています』


(大変。化蛇かだに操られているの、大山川真奈美さんだ!!!)

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