第7話

 装甲機人の操縦は国家第Ⅱ種特殊機人操作免許を取得したものでなければ出来ないと法律で定められており、その免許証がなければ装甲機人の起動をさせることができない仕組みになっていた。


 免許証が認識されると、短い電子音が鳴り、コックピット内が青白い光で少しだけ明るくなる。この光は操縦席を取り囲むようにして置かれている電子機器が作動した際に出るものであり、それと同時に各電子機器の冷却ファンが動き出す耳障りな音も聞こえてくる。


 数秒待つと、正面にあるディスプレイに明かりが灯り、黒のバックグラウンドに白い文字で英文が表示されはじめる。OSの起動。基本的に機人を動かしているのはコンピューターである。それを人間がある程度操作することによって、より正確な動きを行うことが出来るようになる仕組みだ。


 ディスプレイにBR3800X7という英数字の羅列が表示される。この英数字の羅列こそがブルドッグの正式名称だ。ブルドッグというのは通称であり、本来はこのBR3800X7というマシンタイプが名前なのだが、誰ひとりこの機人をその名前で呼んだことはなかった。


 しばらく待っていると、ディスプレイにパスワードを求める文字が出てくる。

 琉衣はそれを確認すると、決められた12桁の英数字の羅列をディスプレイのタッチパネルに打ち込んでいく。

 装甲機人を起動させるには幾つものセキュリティを突破する必要があるように作られていた。最初の起動を行うための免許証。続いて装甲機人のOSを起動させるために使う12桁の英数字のパスワード。次に待っているのは操縦桿を作動させるための指紋、掌紋認証であった。

 手袋状になっている操縦桿に両手を挿し込み、指紋と掌紋が認証されるのを待つ。時間にして一秒も掛からず認証はされるのだが、うまく指の位置があっていなかったりするとNGを示すメッセージがディスプレイに出力されてしまい、再度操縦桿に手を入れ直さなければならなくなったりする。この入れ直しは最大で五回まで許されている。もし、それ以上間違ったことをしてしまうとロックが掛かってしまい、装甲機人の起動は出来なくなってしまうという仕組みだった。


 操縦桿の認証が終了すると、最後の認証が待っている。装甲機人を完全に起動させるための最終関門。それが網膜認証だった。装甲機人パイロット用のヘルメットには特殊なゴーグルが装着されており、そのゴーグルを通すことで装甲機人の視線で外の様子を見ることが出来るようになっているのだが、そのゴーグルについている網膜認証システムをクリアしなければ装甲機人の起動は出来ないようになっていた。


 なぜ、ここまで厳重なセキュリティが装甲機人には使用されているのかといえば、それだけ装甲機人が危険な乗り物であるということがあげられるだろう。基本的に装甲機人は戦闘用の特殊機人である。もし、作業用の重工機人などと同様に免許証の認証ができれば誰でも簡単に操縦することができるといった低いセキュリティであれば、装甲機人による犯罪が多発してしまうだろう。この何重ものセキュリティシステムを使用しているのは、世界でも日本だけであるが、そのお陰もあって、いまのところ日本では装甲機人による特殊犯罪は一件も発生していない。

 装甲機人は、限られた人間だけが扱うことのできる特別な機人なのだ。日本国内では法律上、自衛隊、警察、国が定めた特定の警備会社だけにしか、装甲機人の使用は認められてはいない。

 さらにその中でも武装が認められているのは自衛隊の装甲機人だけであり、警察と特定の警備会社が使用する装甲機人は装甲機人という名前がついていながらも、武器などの装備は一切身に付けることが認められていないというのが現状である。


「ブルドッグ、起動準備完了しました」


 琉衣はコックピット内の無線通信を使って、トレーラーの運転席にいるであろう八重樫に声を掛ける。これでいつでも出発をすることができる。なぜ出発前に起動準備をするのかといえば、現場に行ってから起動できなかったというもしもの事態を想定してのことであった。装甲機人は起動が出来なれば、ただの鉄の塊なのだ。


「全員、準備はいいな。出発するぞ」


 和泉主任の声が無線を通して聞こえてくる。そして、トレーラーが走り出した振動が琉衣のいるブルドックのコックピットにも伝わってきた。

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