第2話 優しいイケメン
「ったぁ……!」
光が止んだのを察し、目を開けるとそこは予想通りの家のリビングではなかった。まず目に入ったのは、古びた白亜の神殿。その前に俺は送られたようだった。ボロボロの建物を覗くと中には大きな女神像が置かれている。
まさか、あれがさっきの神サマの像か? 全然違うな。
神殿と反対側を見ると、少し離れた下方に賑やかそうな街が見える。どうも、この神殿は小高い丘の上に建っているらしい。
すぐに降りて行こうかとも思ったが、神サマに勝手に選ばれたスキルの方が気になる。
「取り敢えず、ステータス確認、か。ーーステータス、オープン?」
少し恥ずかしく思いながらもお決まりの台詞を口にすると、目の前に画面が表示された。
漫画で見たやつだ!とワクワクした気持ちも表示された情報にすぐに沈んだ。
【氏名:イッチ(14)職業:勇者】
「待て待て待て。氏名、イッチってなんだよ……!!」
確かに幼い頃からそのあだ名で呼ばれてきたけど、あまりいい思い出はないし、当然、正式な名前じゃない。
他の項目はどうだと読み進めていく。
レベル:1、体力:10、知力:12、魔力:200……うーん。魔力が多いのか他が低いのか?
万年帰宅部で引きこもり気味だから体力は少ない。頭もそういい方でもないから、こんなもんか。
スキルは、言語理解、アイテムボックス(特大)、鑑定魔法、治癒魔法……希望通りだな。
あとはーー
輪投げ、遠泳、着ぐるみ、虫除け、豪運、パズルって何このスキル。あの神サマ、何考えてんの……勇者って異世界で遊べばいいのか? このスキルでどう世の役に立てと?
苛立つ気持ちのまま、神殿に置かれた神像を見ると、気のせいか笑っているように見えた。
本当になんなんだよ、一体。あの神チョイスのスキルはないものとして、役立ちそうな俺チョイススキルをどうにか試したい。
言語理解は街で試すとして、まずはアイテムボックスか。
「アイテムボックス……」
誰に聞かれてる訳じゃなくても恥ずかしいので再度小声で呟くと、また画面が現れた。一番上にはアイテムボックス(特大)と書かれており、その下に着替え一式、お小遣いと記載されている。
もしかしてと、着替えの文字を触ると、簡素なシャツにズボン、下着類にショルダーバッグが現れた。
お小遣いの方は金貨10枚だった。金貨って日本円でいくらぐらいなんだろう。
食料は……何もないな。これだけか。やっぱり、街へ下りるしかないな。
出てきた衣類に着替え、金貨を1枚だけズボンのポケットにしまい、街へ向かった。
街はくるりと高い城壁に囲まれており、入るのに銀貨1枚の税金をとられた。門番とやりとりをしたが問題なく話せたので、言語理解のスキルはちゃんと機能しているらしい。
街はザ・異世界! 昔のヨーロッパっぽい、レンガ造りの建物が並んでいる。ファンタジー要素は街を歩く人々。人々っていうか、なんていうか人間に見える人が一番多いけど、ケモ耳が生えた獣人や小さなドワーフ、妖精みたいな羽を持つ種族に美しいエルフもいる。
思わずぼうっと眺めてしまったが、立ち止まっていても仕方ない。まずはセオリー通り、冒険者ギルドだ。
どこにあるだろうときょろきょろしていると、大きな地図が描かれた案内版を発見した。それによると、冒険者ギルドは街の中心地にあるそうだ。
しばらく散策しながら歩いていると、『冒険者ギルド』と大きくかかれた建物に行き当たった。
ここか……。乱暴な冒険者に絡まれるっていうお約束があるけど大丈夫か?
小説の主人公みたいなチートスキルはないし、強い従魔もいない。
ドアの前で躊躇っていると、中からガタイのいい男が飛び出してきた。思いきりぶつかられ、尻餅をつく。
「気をつけろ、チビがっ!!」
どっちが! という気持ちはぎろりと睨む強面を前に霧散する。
「すいません、すいません」
尻餅をついたまま頭を下げ、謝ると男は舌打ちして去っていった。
舌打ちしたいのも俺だよ。ため息をつくと、頭上からやたら甘い声が降ってきた。
「大丈夫? ごめんね、巻き込んじゃって。ケガしてない?」
見上げると、金髪碧眼の王子様フェイスが俺を心配そうに見おろしていた。
うわ、イケメン。神サマの好きそうな王子様タイプじゃん。声までいいし。
「あ、はい。大丈夫っす」
ついた尻が痛むが、こんな完璧なイケメンに尻が痛いとは言えない。差し出された手を首を振って断り、起き上がる。
「良かった。本当にごめんね、彼を怒らせちゃったの、僕なんだ」
俺は八つ当たりされただけらしい。でも、何をしたんだ、このイケメン。
気にはなったが、陰キャのコミュ障に会話は難しい。
「そう、なんすね……」
「ギルドに用事?」
「と、登録に……俺でも、登録、できますか」
噛みながらも目的を伝えると、イケメンはゆっくりと頷きながらギルドの中を示した。
「13歳以上なら大丈夫だよ。受付はあそこ」
「う……女子……」
俺はこの世で一番、同年代の女子が苦手だ。神サマくらいのちびっ子ならなんもないけど。
固まった俺に何かを察したのか、イケメンはにこやかに笑って受付へ向かった。
「ちょっと待ってて」
しばし待っていると、カウンターで申込用紙をもらって来てくれた。
「ありがと、ございます」
「字は書ける? よかったら、代筆するよ」
「ええっと、多分、大丈夫だと」
名前の項目にイッチと内心呟きながらペンを滑らせると、ちゃんと書けた。
「イッチっていうのか。そういえば、自己紹介がまだったね。僕はレオン。よろしくね」
キラキラ粒子が眩しい。イケメンはレオンっていうのか。似合うな。
「あ、ども。イッチです。ーー次はスキル、かぁ。アイテムボックス、と」
使えそうなスキルを書くとイケメン、もといレオンが複雑そうな顔をした。
「アイテムボックス……」
「え、だめっすか」
「いや、ダメじゃないけど。容量の差はあるけど、みんな持ってるスキルだからあんまり」
誰でも持ってるんかい。だが、まともな戦闘スキルはない。
「え、あ……戦うスキル、ないとダメ、でしょうか」
「え、ごめん。大丈夫だよ、これから身につけて行けばいいし。雑用や採集の依頼もあるから」
よかった……。
受付に提出すると、カードが渡された。
「戦闘スキルがないということですので、採取依頼や清掃、荷運びなどの初心者向け依頼をこなしつつ、ギルド主催の講習を受けてもらうのが良さそうですね」
受付のお姉さんはにこやかに説明してくれるが、全然耳に入らない。
「急にすみません。ギルドの説明もまだでしたね。冒険者ギルドというのは……」
やばい。冷や汗出てきた。吐き気もする。このお姉さんはなにも悪くないけど。もうだめだ。限界近いかも。
倒れそうになっていると、背中をレオンに叩かれた。
「今日は混み合ってるし、よかったら僕が代わりに説明するよ。イッチもそれでいい?」
高速で頷く。
「じゃあ、食堂の端っこ借りるね」
「ーーという感じなんだけど、ここまでいいかな?」
レオンがざっくりとギルドについて教えてくれた。
・冒険者のランクはF〜Sランク。依頼をこなし、試験を受けることでランクアップする。Sランクは歴代3人しかいない。
・ギルドは各町に支部がある。国を超えての機関なので他国でもギルドカードが使える。
・初心者〜低ランク冒険者向けの講習をギルドが定期的に行なっている。
「次は依頼の受け方だね。依頼はあの掲示板に貼ってあるんだ」
掲示板前へ移動する。
「色々あるんですね」
「うん。イッチにはこの辺に貼ってあるものがいいよ。街中の配達とか清掃、街からは出るけど近くの草原で薬草採取する依頼が掲示されてるから」
「薬草採取……」
「やってみたい?」
「はい。この紙を持って受付行けばいいんですか」
「ほとんどの依頼はそうだけど、薬草採集は常設依頼だから、対象の植物を確認して現物を向こうの買取受付へ直接持っていけば依頼達成で、買取もしてくれるよ」
「へぇ」
「僕も草原の先の森へ行く予定だったから一緒に行こうか」
「助かります……」
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