チェンジリング【KAC202503】
青造花
I 妖精の目を欺く
「
初めて口にしたその言葉は、不穏な味がした。
そこはかとなく陰鬱で、おそろしく、けれど舌に絡みつくような甘美さがある。――魔の香りだ。
「そう。ここに来たばかりのあなたには馴染みのない風習でしょうけれど、この国ではね、妖精の存在が信じられているのよ。キーラ」
ちゃぷん、と湯の音を伴って浴室に響いた声に、キーラはわけもなく固唾を飲んだ。
白く輝く猫足の浴槽のなか、柔い裸体をさらしているのは愛らしい王女――ティオナ。ぼろぼろの褐色肌と癖のひどい黒髪を持つキーラにはまぶしくて、視線を交わすだけで罪深く思えるほどうつくしい、同い年の娘だった。
たくさんの侍女に取り囲まれて世話されるのを、ティオナは慣れた様子で享受している。
「妖精が人間の子どもを連れ去るとき、妖精の子どもとすり替えて身代わりにすると言われているの。それが
「どうして妖精の話が……? その泥と何か関係があるのですか?」
ティオナを囲む侍女たちの手には泥があった。
無数の手が王女の金髪に泥を塗りこめる光景は、キーラの目に異様に映り……これは何をしているのかと訊ねたところ先の言葉が返された。
「妖精はうつくしい子どもやうら若い女性、金髪の持ち主をとりわけ好むから」
ティオナが、ぽってりとした薔薇色のくちびるに人差し指を当てる。特別な内緒話でもするように、彼女はささやいた。
「
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