第8話
それからもしばらくアイテムボックス探しを続けていた彼女だったが、
「ここにはなさそうだな」
そう言って教室の壁に背を預ける。
「――そうだ。海堂は銃、使えるか?」
「……使えませんけど」
使えるわけがない。
「そうか。だったら――ほらよ」
東城先生は床を滑らせて、アイスピックを寄越してきた。アイスピックは机や椅子の脚を上手く避けて、健一の靴の先にカツンと当たる。
「取り敢えず今はそれ持っとけよ。何もないよりかはマシだろ。次にアイテムボックスを見つけて、もっといい武器が入ってたら、それに交換すればいい」
白く細長いアイスピックが足元に転がっている。
健一はそれに目を落としながら答えた。
「要りません」
「……正気か?」
「はい」
ここで武器を手に取ったら、生徒を殺すのを肯定していることになる気がした。
意固地になっているのは分かっている。
それでも――。
「まあ、お前の勝手だけどよ」
東城先生は健一の目の前までやってきて、アイスピックを拾い上げると、腰に差す。
「足手纏いは御免だぜ」
「……だったら、俺のことなんて放っておいて、先に行けばいいじゃないですか。そもそも東城先生は、どうして俺や新島先生を連れていこうと思ったんですか。俺たちを弾避けにでもするつもりだったんですか?」
最低なことを言っているという自覚はあった。だけど、次から次へと湧きだしてくる醜い言葉を抑えることができなかった。
健一の不快な発言に、東城先生は眉一つ動かさずに答える。
「そんなつもりはねえよ。単に人数が多いほうが戦略の幅も広がる。そう思っただけだ」
健一は首を横に振って、
「……すみません。言葉が過ぎました」
「いいってことだ。誰でも最初は戸惑う。あたしも初回のデスゲームは、なかなかに酷かったからな。生き残れたのは運がよかったとしかいいようがない」
「東城先生が、ですか?」
「何だ、その驚きようは」
「いやだって、今の東城先生を見ると……」
「想像もできないってか?」
「……はい」
東城先生は笑って、
「初回のデスゲームを生き残った後、死に物狂いで生き残る術を学んだからな。体を鍛えることはもちろん、武器の知識や戦闘の基本的な考え方も頭に叩き込んだ」
「逃げようとは思わなかったんですか。この学園の教師を辞めるって選択肢もありましたよね?」
東城先生は首を横に振った。
「おそらく辞めようとしたら、何かしらの方法で消されていただろうな。交通事故に見せかけて殺すとかして。そうでなくとも、脅すくらいのことはしてきただろう。デスゲームのことを公にしたら、お前が生徒を殺したことを公表するぞ、とでも言ってな」
「そんな……」
「デスゲームに一度参加してしまった以上、逃げ道はないと考えたほうがいい。逃げ道を探すよりも、生き残る術を必死になって身に着けるべきだ。デスゲームが行われることを除けば、この学園は至って普通だ。むしろ待遇は良いと言うべきか。給与もエリートサラリーマンに匹敵するほどもらえるし、残業も極めて少ない。海堂も、それらに釣られて採用試験を受けた口だろ?」
「ええ、まあ」
「この学園を選んだことを後悔するよりも、選択した中でどうやって生きていくのか――それを考えるのが賢明だろうな。ま、最終的に決めるのは海堂だ。あたしの意見は参考程度に思ってくれればいいさ」
東城先生が健一のためを思って言ってくれているのが伝わってきた。
「で、どうする? やっぱり武器は要らないのか?」
さっきまで彼女に対して酷い言葉をぶつけていた自分が恥ずかしかった。
「……要ります」
あくまでも護身用だ。生徒を傷つけるつもりはない。
己の胸にそう言い聞かせながら、健一はアイスピックを受け取った。
だけど、自分の身を守るということは、生徒たちを死に近づけるということだ。
生徒が生き残るには、教師を全滅させるしかないのだから。
そのことはもちろん分かっていたけれど、健一にも人並みに生存欲求がある。生徒たちに進んで命を差し出そうとは思えなかった。
「行くか」
もやもやとした気持ちを抱えつつ、東城先生の後に続いて教室を出た。
残り――教師三人、生徒六人。
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