第38話 破産宣告 2

#1

「公文書偽造ですね」

「いや、法定代理人で」

「何故?」

「入社時に書かせた書類に委任の内容が」

「有ったんですか?」

「論理的に」

「民法95条で無効に」

「・・・・・・そうですね」

男は渋面で黙り込んだ。

「穏便に片付けてもらえると」

「刑訴となるとなかなか」

「解った。取り下げるよ」

「宜しく」

「あんた、あの娘のなに?」



#2

環状線。残業帰りの会社員や学生他の職業の人等立っている人も含めて70%程度の乗車率。湯没業者がいないかと戦戦恐恐となりつつ、席が空いたので座る。

俯いて携帯に指を滑らせる。


「ごちそうさまでした」

合掌して食事を終える。

一人の食事は味気ないが文句も言えない。

夜九時を回ったっが帰っては来なかった。

食器をかたずけに立ち上がる。

片付けて改めて部屋を見回す。

なんか色気のない部屋。おしゃれとかかわいいとかではなく、何か合理的に選ばれたような。概ね経済的に。書棚の本に目が留まる。

法律全書。

他にも法学社会学系の本が何冊も。

そう言えば学生、だったな。

少し躊躇しつつ全書を手にとる。

業務説明の時の社員の注意を思い出した。逃亡したら引致。

法律全書をパラ読みしながら引致を探した。

字が細かい上に難読ななので諦めて本を書棚に戻した

携帯から音楽がなっている。

――


最近はやりのプログレロックが耳元でなっている。

ちょっと眠りかけたようだった。

電車が停車してドアが開く。左前上方の掲示を見て慌てて席を立ちドアに向かった。



#3

ドアを開けると家は静まりかえっていた。

時刻は十一時。

台所へ行くと食事にラップがかかっていた。

ラップに触れると未だ生暖かった。

席についていただくことにした。

「逃げ切りれたかな」

安堵すると、肩に手を置かれた。

「逃げられても困る」

「誰?」

背後に男が三人立っていた。

誰か暗くて分からない。

「さぁ職場に行こう」

「職場って?」

「御両親とは話がついている」

腕をつかんで立たされる。

「嫌」

「契約に従ってもらおう」

「嫌」

「車出来てる」

抵抗したら殴られそうだったので嫌嫌歩き出す。

「じゃ、警察行きましょうか?」

「邪魔するな」

「腕、掴んでますよ」

男が腕から手を離す。

「引致でしたね。裁判所の命令は?」

もう一人の男が黙って書類を差し出す。

差し出された書類を差し戻す。

「なんだ?」

「夜陰に乗じて誘拐ですか?」

「――引致だよ」

「辞めましょう、偽造ですよね、命令書」

「契約だから。破るんなら違約金を払ってもらわないと」

「労働基準法第十六条に違約金を契約に定めることを禁じていますが」

「違約金を払わないと家族が泣くことに」

「脅迫ですか」

遠くからサイレンが近付いてくる。

「録音しときましたから」

携帯を男二人にかざす。


#4

「引致はんどうなったの?」

「逃亡はしたけど刑法三十七条で無罪に」

「証拠は?」

「社員教育の業務収録ディスク」

「破産」

「申請は片付けた」

「じゃ湯没は」

「民法で契約が無効に」

「借金だけが残ったと」

「そこで相談なんだが」


# 5

「はい200万」

封書に入れた現金を手渡たしてもらう。

「じゃぁこれ」

借用証書をわたす。

「踏み倒すと引致かけるよ」

「逃げません」

「また騙すの?」

「さぁ」

「捕まらないように」


「助かった。ありがとうリアン君」


*注

小説内の事態は架空のもので此で現実の事態に完全対応しているわけではありません。詳しくは法律書と法律家に。

*








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