第31話 Fieled Work

夜の歓楽街。

原色なイルミネーションと、立体広告。

冷たい空気が店からの熱気で少し温く柔らかい空気を造っている。道の両脇の模擬店から漏れる多数の曲が入り交じり効果音とともにパチンコ屋に居る様な錯覚を起こす。

「お客さん、一時間どう?」

左隣に寄って来た女性が誘ってくる。

2m進んだら舌打ちして―—消えた。

妖艶に通行客を誘うホログラフの美女だった。


深理はフィールドワークと称してどんどん風俗模擬店の方へと分け入って行く。

「深理さん、風紀同好会に告発されそうな所は一寸」

風紀的にこういう趣向は好ましいくないらしい。風紀を好む連中が此処も何処かで監視している。歩き続けているとホログラフが浮かんでは消えた。

「馴染まないのか?」

不理解は無駄な争いの素なんだが、と少し困ったように言った。湯没退治側なのは深理も知っているはずだが。

「内部を見たからこそ、ですよ」


「で、結局どうしたの?」

「付き合って一軒入って―—」

「入った?」

あの人結構明け透けだな、いや、油断できないのかな……、と呟く黒音。

「深理さんと二人でインタヴュ―した。」

「ああ……」

インタビュ―では、対象者と仲良くなって、大学周辺の風俗について尋ねた。大学生相手で慣れてるのか、其れとも自身が大学生だからか、割り切ってインタビューに付き合ってくれた。


「教育実習だって?」

「臨床心理のフィールドワーク」

「教育実習じゃないんだ?」

黒音の方は昇級早々教育実習のカリキュラムが入っているとの事だったが。臨床心理のフィールドワークとは。黒音が答える。

「生涯教育専攻にしてみたから」

「何処行くの?」

「オジーの病院付属施設」

そう言えばこっちも臨床心理の専門講義入れていた。若しかしたら、とも思ったがアドストルとオジーでは距離があり過ぎた。


 


「日乃さん。同居の申し込みがあるんだけど」

痩せた初老の管理人、一階に住んでいる、が態々5階まで上がってきて同居人の話を切り出した。

「同居ですか?」

「ええ。」

管理人は余り済まなさそうでもない。

「何故わざわざ同居など」

 納得がいかないので反詰してみた。

「この辺の住宅でうちと同程度の物件、借りる程お金が無いんですって」

「いや、でも物件何て幾らでも」

幾らお金が足り無いからって、賃貸住宅の物件何て沢山有るだろう。其処まで考えたら、二とおりの答えが出た。

一、此処のこの部屋をこそ、狙って話を進めてきた。

二、狙いは部屋ではなく、人。この場合は……。

推理めいた空想を始めそうになると管理人が畳みこんできた。

「そう言うわけだから―—家賃半分になるからいいでしょ?」

「そう言う問題、何だろうな、相手は」

家賃を半分にしてやるから住まわせろと。

かなり不吉な予感がした。

「14時には来るから、居てくださいね」

「中々に強引……」

今日は日曜日。立て籠もれなくは無かったが。

「―—あの、同居人の名前」



上空を航空機が二機通過していく。


空いて居るからとは言え、人待ちで自宅に立て籠もり、何時間も待っていると言うのは結構窮屈な話では合った。管理人が来たのは九時頃で、二時迄には五時間もあった。間に昼もはさむ。十二時を過ぎた時に、昼食を階に行くか迷った。生憎食料のストックが全切れだった。しかし、二時に来ると言ってもっと早く来る可能性も無いとは言えない。荷物が先に届いたりしたら厄介だ。居ない間に管理人に開けられて勝手に侵入されるのは気分が悪い。……勝手に侵入されるぐらいで気分が悪いようでは、同居など無理なのでは、と冷静に考えた。相手次第の前に、心の姿勢を変える必要があった。管理人も厄介な話を持ち込んでくれたものだった。

意外に時間の経過は早く、雑事をこなしてるうちに十四時を過ぎた。三十分。お腹が空いてしまい、近くの商店に昼食を買いに行ってしまおうかと考えた。だが、何となく動けない。来る気がするのだ。どうする。自問自答した。結論として空腹で我慢出来なくなる程待たせる方が悪い、と買い物に出掛けることにした。

が、やっぱり。

ドアノブに手を掛けた所でチャイムが鳴った。



情報屋

「ああ、其れはお気の毒に」

同居人候補、未だ認めれれない、は気にした風でもなく、応接セットのテーブルに置かれたカップを手に取った。

「爆発事故と言っても自分の部屋が爆発した訳じゃないから」

「―—不幸中の幸い、と」

「其れでも、建物は使用禁止になっちゃったから」

「此処に来た、と」

「宜しく」

「よろしく、ね―—家賃半分払ってくれるのはいいけど、何で此処なの?他に物件も人員も一杯いるだろ?不審に過ぎるよ。狙ってるのはどっち?此処、俺?」

「地獄の沙汰も、ていうけど、本人はそうはいかないか」

「君の前に住んでいた人が―—」

「え?」

「私の恋人で。去年此処で亡くなった。」

「……」

「冗談だ。尤もらしい事を言ってはあるけど、要はトラブルが起きるか否か、だろう。払いをキチンとして、面倒事を起こさなければ。無理だけど」

「塩間君?」

「シオマでいいよ」

「何処かで逢った事在ったかな?」

「ああ、一回」

「一回?」



「すれ違っただけだよ」

シオマは目を細めて笑いながらカップの珈琲を啜った。

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