5 襲撃

 それからも道中で、三回、似たようなことが起きた。

 一つは、その街のギャングが犯人だと判明。

 一つは、トカゲの尻尾切り。

 一番最近の、つーか、昨日のも、トカゲの尻尾切りだったけど、依頼人の容姿が詳しく分かって、キリナはある組織の名前を出した。


「スキラー・クレスミーが絡んでる可能性がありますね。ニナさん、出発前に説明したこと、覚えてますか?」

「うん」


 スキラー・クレスミーは、世界三大闇組織の一つ。人間が運営してる、違法な生物売買組織。特に、聖女や聖獣、妖精なんかは高値で取り引きされるから、気を付けるべし。


「そんで、スキラー・クレスミーのトレードマークは、ドクロと三日月。だから、そのタトゥーっぽいのが首にあった男の人は、組織の人間か、信奉者の可能性がある、で、合ってる?」

「はい、そうですね。ニナさんが聡明で助かります。スキラー・クレスミーは巨大組織ですから、ニナさんの情報は既に世界中に広まっている可能性があります。次いで、ミーティオルさんも。仕事の最中に組織の人間を捕まえたこともありますが、上の人間になればなるほど、口が硬いんですよ。厄介です」

「そっか」


 口が硬いって、拷問とかして情報を吐かせたりしたのかな。


「まあ、朝食を食べに行きましょう。やっと、道程の四分の一ですし、今日はやることがありますからね」


 ◇


「もう、なんなのかしら。みんなみぃんな、ミーティオルの魅力を分かってないわ」


 この口調、めんどい。


「自分の周りは綺麗にしておきたいじゃない。夏用の服を買うの、なんでそんなに不思議がるのかしら。利益になるんだから、ニコニコしてればいいのに」


 さっき、前みたいな高級志向の奴隷用品店で、ミーティオルのための夏服を買った。

 普通の古着屋とか仕立て屋じゃ、『側仕え奴隷のワーウルフのオス』用の服なんて扱ってないから。


「ニナのおかげで快適だよ」

「私の可愛いミーティオルのためだもの」


 あー……宿までこの設定でいなきゃなの、疲れる。


「お嬢さん、宿までもう少しですからね。戻ったら、ッ! 聖域! ニナさん!」


 え、マジ? 展開! っだぁ?!


「ニナ!」


 背中! なんか刺さった! めっちゃ痛い! しかもその前にブツッて感覚があった?! 転びそうになったのをミーティオルが助けてくれたのは嬉しいけど!

 あとなんか周りがワーギャー言ってる!


「ニナ! 毒だ! 引き抜くぞ! 痛いけど我慢しろ!」

「え、うぎぃっ!」

「クソッ刃先が取れるタイプかよ!」


 まじかよ。しかも、なんか、体が痺れてきたんだけど? 意識、も、朦朧と、して、きたん……だけど……?


「ニナさん! 自身を浄化して下さい! ミーティオルさんもニナさんを浄化!」

「どうやんだよ?!」


 右に同意……。


「神に祈れ! 彼女を助けたいと一心に願え!」


 キリナ……口調……? てか、なんで、聖域、突き抜けたの……?


「ニナ!」

「ニナさん! 意識を保って! 毒の回りが──」


 あ……音……遠くなってく……これ……無理なやつ……。

 えー……ここで死ぬん……?


「こちらに来るのは、まだ早いんじゃないか?」

「え?」


 気付けば、銀色の草原に立ってた。

 あれ? ここ、どこ?


「マジで死んだ?」

「まだ死んではいないぞ」


 後ろからの声に振り返れば、オレンジの長い髪を沢山の細い三つ編みにして、水色の瞳で私を見下ろしている人が居た。


 ◇


「キリナ! 解毒薬!」


 意識を失ったニナへ、助かれと念じながら、ミーティオルが叫ぶ。


「なんの毒か分かるんですか?! そもそもそれ、ワーウルフ、ライカンスロープが使う投げナイフですよね?!」


 周囲を警戒し、ニナに浄化をかけながら、キリナが叫ぶように聞く。


「匂いで分かるよ! ニナ、悪いけど折れた先端取るぞ!」


 ミーティオルが指を傷口に入れても、なんとか刃先を取り出しても、ニナはピクリともしない。


「なんで聖域を突き抜けられたんですかねこのナイフ?! 相手はお知り合いですかミーティオルさん?!」

「突き抜けられた理由は知らねぇ! けど、誰のナイフかは分かる! 解毒薬出せねぇなら、医者の所に担ぎ込みたいんだが?!」

「解毒薬なら、ここにある」


 その声と気配に、キリナは躊躇いなく拳銃を抜いて引き金を引いた。


「チッ!」


 弾を避けられ、キリナは銃の設定を自動連射に切り替え相手を追うように銃口を向ける。


「遅いぞ」


 オオカミ姿になった『彼女』は、挑発するように言い、屋根の上で距離を保ったまま、ひらりひらりと銃弾を躱す。


「なんでこんなことした! アニモストレ!」


 ミーティオルが彼女へ叫ぶ。


「父上のご命令だ。お前を連れ帰るようにと。奴隷落ちは想定内だったが、罪人の印を剥がしていたとはな」


 弾切れのしない銃弾の、発砲音が響く中、彼女──アニモストレは、言う。


「ある意味、手間が省けた。里に戻れ。お前が居なくなって、里は瓦解寸前だ」

「お前らが追放したんだろ! 解毒薬持ってんなら寄越せ!」


 ミーティオルが、ライカンスロープの力を使おうとすると、


「私に傷をつけたら、解毒薬は渡さない」


 その言葉に、ミーティオルとキリナの動きが止まる。


「ミーティア、そこの神父、これは取り引きだ」

「最っ低な取り引きだな。俺が戻ってなんになる」


 攻撃が止んだからか、アニモストレは、ライカンスロープの姿に戻る。

 白い毛並みと、金の瞳。屋根の上で風に翻る、ライカンスロープの戦闘装束を身に纏っている彼女は、


「里の諍いを止めろ。そして族長となれ。それが父上の望みだ」

「お前、いっつもいっつも父上だな。その言い方からして、族長の意思ではない訳だ?」

「息子のお前を見れば、目も覚めるだろう。父上はお前が望めば、私との婚約もし直すとおっしゃっていたぞ、ミーティア」

「俺を嫌ってるくせに、愛称で呼ぶって、それも父上の命令か?」


 鼻にシワを寄せ、耳を反らせるミーティオルに、


「そんなことを言っている場合か? その人間の娘、解毒しなければ、あと五分と経たずに心臓が止まるぞ」

「分かってるよ。お前の調合した毒だからな。……俺がただ、くっちゃべってると思ってんなら、お前も鈍ったな、アニモストレ」

「何を、!」


 隣の神父が居ない。

 それに気付いたアニモストレが、気配を探る前に。


「がっ?!」


 気配を消し、足音を立てずに屋根を駆け上って後ろに回っていたキリナが、鎖でアニモストレの首を絞め、腕を拘束し口に枷を嵌め、


「降りましょうか」


 アニモストレを蹴落とすように、屋根から飛び降りる。


「ミーティオルさん。解毒薬はどこです?」


 地面に叩き落され、くぐもった悲鳴を上げたアニモストレの上に乗り、キリナは静かに問う。

 唸り声を上げ、拘束から逃れようとしているアニモストレに、ニナを抱いたミーティオルが近付き、


「……三ヵ所だ。左手の薬指と小指の指輪の中。それと、右手の中指の指輪の中だ」

「三種類ですか。凝ってますね」


 キリナは言いながら、握り込まれている手の指を躊躇いなく折り、指輪を抜いていく。


「解毒はそちらに任せます。あなたのほうが詳しいようですので。僕は事情聴取をします」


 三つの指輪をミーティオルへ放ると、キリナはアニモストレの足も拘束する。


「……殺さねぇんだ?」


 指輪を片手で全て受け取ったミーティオルは、その場に座りながら静かに尋ねる。


「どうやって、騒がれずにここまで辿り着けたのか。それと、聖域を突破した投げナイフの謎ですね。それが分からないと、再発防止が出来ませんので」

「なるほどな」


 ミーティオルは、ニナを抱え込むようにして両手を自由にして、指輪の繋ぎ目を回していく。


「そいつ、偵察部隊なんだよ。幼い頃からそういう訓練を受けてた。近くに仲間の匂いはしないけど、警戒しとけ」


 全ての指輪の繋ぎ目を外し、中から丸薬の形の解毒薬を取り出したミーティオルは、


「ニナ、悪い。緊急事態だから。吐き戻さないでくれよ」


 丸薬を口に含み、噛み砕き、水袋の水を口に含んで混ぜる。ニナの顎をそっと掴んで口を開かせ、水薬となったそれを、口から流し込んだ。



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