開戦ーかいせんー
さて場面は変わる。闇が身を引き、月が照らし出すは真宵山の
月のように。否太陽のように綺麗な円で囲む松明の灯の中心に相対する二人の男。
一人は挑戦者にして制作者。渦切の現頭目である渦切丹波その人である。
相対する一人は名も聞けぬ野党の
背に描かれるは広大な大地。空から降る礫は勢いよく地に落ち砕け散る。中心で
聖徳太子。
かつて10人の声を同時に聞いたとの逸話を残す超人ではあるが、別の伝承では恐ろしい程の怪力の持ち主だったとの噂が立つ程の剛腕だったとも聞く。どちらにせよ人間を止めている事には変わりないが。
聖徳太子らしい老人が掲げた手の上に被さるのは皿のように横に広い大岩。その岩が大石混ざる数多の礫を受け止めていた。決して大岩が浮いているわけではない。老人を囲むように尖った土の
そんな
頬を撫でる夜風は次第に強くなり、鋭さを増す。
敵は追い風、丹波は向かい風。
今から繰り広げられようとしている、久々の戦闘の結果を急くように周囲を囲む大松明がバチリバチリと音を立てて布と油を激しく焼く。その音に紛れて声を聞く。丹波は名も知れぬ賊頭の声を聞く。
「身包み全て、で済むと思って貰っちゃ困るなぁ、あんさん。前のお頭が付けた賊の名前なんて忘れたし、付けた所で何の意味があるのかわかんねぇ。自分の名すらも忘れっちまったからなぁ。けどな、物取りは物を横取るから物取りなんだ。その呼び名だけで十分だ。まぁ、あんさんから取るのは物に始まって命まで取ろうと思っているから、字の通り物取り命取りって感じだ。しゃっしゃっしゃ。今のは上手い事言ったんじゃあないか!おい!笑えよ下僕!」
自身に名も聞けぬ卑劣の声を合図に囲む下賎達が汚らしい笑いを焼け音に混ぜる。
「会えたのは僥倖だった。着飾の旦那には感謝せねばなるまい。なぁお前さん、すんなりとその羽織を渡してはくれないかの。物取られ命取られにはなりたく無かろう?」
「物わかりが悪いなあんさん。悪すぎるぜあんさん。しゃっしゃっしゃ。"悪い”のはオイラさんの方か。上手いことを言った、言えた。しゃっしゃっしゃ。」
笑い飛ばした後、地がいきなり割れた。地が揺れ、礫が地から天へと逆に降る。腕を組み高笑いしているその様相に特別力を入れた仕草は無い。けれど、その地爆が…
開戦の合図であった。
次の更新予定
毎週 月曜日 08:00 予定は変更される可能性があります
双子の羽織は、江戸を舞う 縁 @yosugatari
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。双子の羽織は、江戸を舞うの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます