第40話 沈黙

 この日、ライリーは学園の廊下を走っていた。


 理由は簡単である。ライリーには、非常に気になることがあった。


 先日見た光景は、本当に存在しているものとして考えて良いのか。もしそうだったら、どうするべきなのだろうか。


 そんなことを考えながら、ライリーは1年C組へと足を向けていた。


「あの光景が本当だったら……! あいつを放っておくわけにはいかない……!!」


 なぜか鬼気迫った表情のライリー。一体、何が問題なのであろうか。そして、”あいつ”とは誰なのだろうか。


 そんな周りの疑問を払拭する勢いで廊下を突進するライリーには、もう周りの視線など気にならない。


 自分の目的だけが、頭の中を支配している。


「失礼します!!」


 教室に辿り着くなり、勢いよくドアを開けるライリー。中にいた生徒たちは一斉にライリーへと視線を向ける。


 特に驚いたのはクララとエリック。クララは突然の登場に声を上げ、エリックは驚きで目を大きく開けたまま動かない。


「クララ様。それに……エリック。ちょっと良い?」


 静かな怒りを外側に出しまくっているライリー。周りの生徒たちまで威嚇をしてしまっている。


「えっと……」


 クララは周りを見渡してみる。周りの視線はクララにも注がれているため、ここで断ったら恐らく猛反対に遭うだろう。もう、断ることは出来ないようだ。


「えぇ。……私は構わないわ」

「僕も……です」


 エリックも不本意ながら同意する。しかし、急に呼び出された事に納得がいっていないようでずっとうつむいた状態だ。


(何でここに来てるんだ……? いつか見つかるとは思っていたけど、こんなに早いとは思っていない……!!)


 エリックからは、喉から心の声が飛び出してきそうなほどの気迫を感じる。クララに接触して目立っておきながら、見つからないとでも思っていたのだろうか。


 ライリーは、うつむいたままのエリックをじっと見つめ、何かを考えたようにつぶやいてから、クララへ満面の笑みを浮かべた。


「ありがとう。それじゃあ、放課後に屋上に来てくれる? クララ様には、例の話もしたいし」

「例の話……? あぁ、あの話ね。私は大丈夫よ。エリック様は?」

「僕も、大丈夫、です」


 まだ言葉に詰まっているエリック。


 何でこうなってしまっているのか心配なクララだが、エリックのことばかり心配しているわけにはいかない。


 出来るだけ早くこの注目される状態から逃げ出さなければならないからだ。


「それじゃあ、後で放課後に」

「あぁ、クララ様。後でね」


 クララに優しく微笑みかけ、エリックを一瞬白い目で見つめてから1年C組の前から去って行くライリー。


 そんなライリーの後ろ姿はなぜだか冷たく感じられる。


 ライリーが完全に見えなくなったことを確認してから、クララはエリックに向けて話しかける。


「ライリー様とエリック様って、知り合いだったのね。私、全然知らなかったわ」


 しかし、クララに話しかけられてもずっと黙りこくっているエリック。——いや、気づいていないと言うべきだろうか。


「……エリック様?」

「あ、ごめんなさい」


 軽く謝った後、エリックはまた黙りこくってしまう。何かに気を取られているかのように。


 そんなエリックを少し不審に感じながら、今はそっとしておこうと思う、クララなのであった。


                              つづく

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