第47話
くじらもどきと話していた人魚が叫ぶ。それに呼応するかのように、人魚達は一斉に陸を責め立て始めた。
「ワダツミさま!? な、なんのこと……」
「しらばっくれるな! お前が人間のくせにワダツミ様と話したせいで、あの方はおかしくなったんだ! 陸地なんていうろくでもない所に行ってしまわれて……!」
「我々のワダツミ様を返せ! あの方は皆のものなのに!」
人魚たちの言葉の意味が分からず、しかし彼らの怒りだけが己にぶつけられる。どうすればいいのか分からなくなった陸を海へ引きずり込もうと、人魚たちが磯へ寄り手を伸ばせば、それを大きな手が防いだ。
「……落ち着いて、彼はまだ子どもだ」
「落ち着いていられるか! ワダツミ様がおかしくなれば、我々はどうすればいいのか分からないじゃないか!」
「ワダツミ様って、海のこと?」
「お前らはそう呼ぶだろうな。人間如きが何故、あの方と話せるのだ?」
「それは…………でも、もう俺は海と話せないよ、だって、イタルが流れ着いてから…………」
陸はそう言いかけて、言葉を失った。誰かが、己の事をワダツミ様と呼んだと、イタル自身が言っていなかったか。
「イタルが……?」
「…………では、君たちの言うワダツミがおかしくなったのは、僕のせいだ」
人魚達の声を鎮めるように、声を上げたのはくじらもどきだった。一斉に視線が自分たちよりも大きな人魚に注がれる。薄い色素の瞳が、穏やかに皆を見渡した。
「五年前、この子どもに海と言葉を交わせる力を与えたのは、紛れもなく僕だ」
「くじらもどき」
「孤独で寂しげな人間の子を哀れに思い、気まぐれに力を与えてしまった。それが君たちの奉るものに触れてしまうきっかけになった……責は僕にある」
「では、お前に責があるとして――どうする? 我々はこの子どもを深い場所に引っ立てて、ワダツミ様の慰めとしてしまおうかと考えているぞ」
人魚の声は本気だった。皆、陸を睨みつけて、自分たちに足があるならば、この子どもが一歩でもこちらに踏み入れたならば、今にも捕らえ、引きずり込んでしまおうとしている。思わず、足の力が抜けて座り込んでしまいそうになるのを、くじらもどきの指が支える。
「では、僕が代わりになろう」
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