第36話

「さて、全ての班の発表が終わりました。みなさん、どれも面白い研究発表でした」

 全てのグループの発表が終わったあとで講壇に立った小野寺の言葉に、教室の空気が緩んだ。

「皆さんには今回の授業の振り返りをレポートとして提出してもらい、総合的に見て成績を決めます。では、今日はここまで」

 小野寺が立ち去ると、生徒達はいっせいにおしゃべりをしだした。もうほとんどが、春休みといった気分で、顔色は明るくいきいきとしている。

「クジラが流れ着いたって、本当!?」

「もう埋められちゃったけどね」

 三学期が始まり、発表会もすぐそこまで来ていた。

「どんなのだった?」

 熊谷と橋本に問い詰められ、どこまで言ってよいのか迷う。言葉を選んで、陸は続けた。

「……ちょっと、グロい。研究員さんがすぐ解剖しにきたんだ」

「? どうして解剖するの?」

「死因の特定とか、研究するためにだって。女の人だったから、ちょっとびっくりした」

「へえ、そういうのって、おじさんがやるのかと思ってた。ほら、テレビに出てる動物博士とかさ」

「ライオンをヨシヨシしたりね?」

「研究者ってすごいぜ。だって大人がすぐに電話して、その次の日の朝には来たんだ」

「おちおちしてると駄目になるからな」

 話を聞いていた平田も会話に加わる。あんたは見なかったの、と熊谷が聞けば好きこのんで見るヤツなんて、それこそ研究者ぐらいだろと肩を竦める。

「でも発表会の直前に、本当にクジラがストランディングするなんて偶然とはいえびっくりだね」

 橋本が目の前のノートを見つめる。一年かけて取り組んだ授業が終わったのだという達成感が、彼女を感慨深げにさせていた。熊谷も平田もどこかやりきったような顔をしている。

 陸はいよいよ高校三年生になることに気づいて、己のノートの背をなんとなく撫でた。教室の外はまだ曇天が町を覆って、冷たい風が裸の木に吹き付けていた。

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