第33話
迫る期末テストの憂鬱とそれを越えれば冬休みである期待感が学校中に漂っていた。
「ノートを見せてくれ!」
「……いい、けど」
平田に頭を下げられて、陸は面食らいつつも頷いた。いつもであるならば頭を下げることもせず、さも当然というふうに陸のノートをせがんできたというのに。
「どうしたの?」
そこそこ大きな声で平田が叫んだのを聞いた橋本が、二人に声をかけた。熊谷もどうしたのかと寄ってくる。ここ最近は、自然と四人で集まるようになっていた。
「橋本さんも頼む! 授業のノートを見せてください!」
「ははあ、分かった……赤点の危機ってわけ?」
熊谷が呆れたように問えば、頭を下げたまま平田がこくこくと頷く。
「あんたよく授業中にグースカ寝てたものね」
「頼む……次やべー点とったらおふくろに殺される……」
平田の言葉に、いつだかに見た彼の母親の姿を思い出す。はつらつ、という言葉があれほど似合う人はいない。陸の母と正反対に思えた。
「しょうがないわね。……それで、橋本さん?」
熊谷がにやりと笑い、友人にお伺いをたてるかのような口ぶりで首を傾げた。いつもの彼女とは違う素振りに、橋本は目をぱちりと瞬かせる。
「私も……古典のノート見せてほしくって……ジュース一本でどうかな?」
「おいっ、人のこと言えねえじゃねえか!」
「あんたと違って授業は聞いてるわよ! ただ……なに言ってんだか分からないだけ!」
「あははっ、じゃあ皆で勉強会でもしない? そしたら皆で教えあえるでしょ?」
橋本が笑いながら提案すれば、反対するものはなかった。期末テストが始まるまで、ささやかな勉強会をすることになった。授業が終われば三班は自然と集まり、机を囲む。一週間とちょっとの事で全部を取り戻すとはいかないものの、平田の赤点は回避出来そうである。
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