第27話
「おい、陸!」
親から聞いた話に平田はいてもたってもいられなくなり、朝早くから至神社の社務所にやってきた。友人から話を聞くためである。古い型のインターホンを押せば、弱々しいブザー音がスピーカーから漏れた。
がたがた、と建て付けの悪い玄関戸が開く。出てきたのは件の若者だった。青みがかった目を眠たそうにさせて、早朝の来訪者をじっと、見つめた。
「……?」
「お前が、陸が見つけたヤツか?」
「うん、そうだよ。君は?」
「陸の友だち。あいつここにいるんだろ」
肯定も否定もせずにイタルは平田をまじまじと見つめた。何も答えない彼に片眉をひくりと動かし平田が口を開くと、社務所の奥から陸が顔を出したのだった。
「あれ、平田くん?」
暢気な様子の陸を平田が仏頂面で見やる。二人を交互に見て、イタルはぱっと顔を明るくさせた。
「お前、いいのかよ」
「何が?」
奥に招かれてジュースを出された平田が切り出すと、陸が何のことかと首を傾げる。
「こんなヘンなヤツと一緒に神社で生活するだなんて……どうかしてる」
「俺が決めたんじゃないよ。町内会が決めたんだ」
「ボク、ヘン?」
「ヘンっつーか不審者だろ。裸で夜の浜に流れ着くなんて」
平田の物言いには遠慮が無い。それでもイタルは、突如やってきた訪問者に怒るでもなく、興味深そうに見ている。
「もうすぐ二学期も始まるだろ。学校に行ってる間、どうするんだ?」
「ガッコウ!?」
「留守番かな……俺たちよりも年上だと思うし……」
「はん、歳も分かんねーのか、お前」
「うん! ねえ、ガッコウ行きたい!」
行けません。と陸がぴしゃりと窘める。肩を落とすイタルを鼻で笑えば平田はふと気づいたのか、話題を変えた。
「おめーんちの親、何も言わなかったのか」
「…………うん。父さんはちょっと心配そうだったけど。母さんは寧ろ喜んでたんじゃないかな」
「……」
「実は俺も……あの家からちょっとの間離れられるの、嬉しいんだ」
陸が肩を揺らし、ジュースを一口飲む。しばらくぼんやりと物思いに耽る友人に何も言えず、平田は唇を噛んだ。
「リクの家はここ」
「あはは、暫くはね」
イタルの言葉に、陸が苦笑いを零す。そういうのじゃねーだろ、と言いかけて、やめた。むかむかとしたものが胸に渦巻くのを感じつつ平田はじっとイタルを睨んでいたが、立ち上がった。
「帰る。ちゃんと学校来いよ」
「当たり前だろ。さすがに留年したくないよ」
「それからお前」
「イタルです」
「どうでもいいっての。お前、陸に妙なことしたら……ただじゃおかねーからな!」
言い捨てて平田が出て行くのを二人がぽかんとした顔で見送る。ようやく目が覚めた蝉の鳴く音が外から聞こえてきた。
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