第5話 最終試験 Ⅰ

 塔の上階調査を終え、気づけば夜が明け。テスト当日となっていた

 朝まで塔で見たものを考え込んでいたソラも流石に頭の片隅にしまい込み、テストに向けて心を入れ替える。

 これまで通りであれば午前に筆記試験、午後に体力テストの流れだ。体力テストは筆記の2倍の点数を獲得でき、勉強が苦手な子も体力テストで大幅に点数を取れる仕組みになっている。もっとも今までペナルティのようなものは一度も無かったので、真面目に取り組んでいないものも少なくは無かった。

 身支度を終え大聖堂へ向かう。


「お、おはよう!ソラ」

 塔を出た先の通路で待っていたであろうルージが声をかけてくる。

「おはよう!ルージ」

 どこか元気が無いのを無理して明るく振舞おうとしているのが分かった。あんな事を見た後でも周りを気遣っていつも通りで居ようとするルージを見ると元気が湧いてくる。

「試験…頑張ろうな!!」

「うん!頑張ろう」



 聖堂内は別れており、僕ら十五歳は入ってすぐ左の一室だ。60人近くがこの一部屋で学びを共にしてきた。改めて思い返して見ると見知っている子達とお別れになるかもしれないのはやっぱり悲しいものだった…どうじにあまり接点を持っていない人達とも、積極的に話しておけば、、と後悔もよぎる。


 僕が思いにふけりながら見渡しているとセルシオやイヤーナ君の姿もある。セルシオはどこか浮かない顔をしていてとても話しかける空気では無かった。イヤーナ君はいつも通りの気丈な振る舞いを見せている。テストが近いので昨夜の話を忘れる為にも、話しかけることなく席に着きテストの開始を待つのだった


(欠席者、体調不良者共に無し、ではこれより最終筆記試験を開始します

 従来のものと変わりはありませんのでいつも通り皆さんは開始の合図と共に始めてください。なお午後についてですが、筆記試験の即採点が終わり次第特別試験が行われます。試験についてはクロウデェン管理長からの説明があるので待機をお願いします)

 クロウデェン管理長…今まで耳にした事がないので外の人という事だろうか。

 そもそもジュアリー児院に大人の人が来ることは無かった。特別試験という事で視察の意味も兼ねているのか?それともルージが盗み聞いた中の誰かなのか、、

(では試験開始です)

 試験が始まったのでひとまず試験の内容に集中することにした。

 試験自体は、習った範囲で解けるものになっており別に難しいものでもなかった

 目の前にある問題を解き僕はペンを置いた



(テストは終了ですお疲れ様でした。これより採点に入りますので、みなさんは待機をお願いします)


 特に誰かに話しかける空気でも無いのでその席に留まる

「ねぇ…ソラ、、少しいい?」

 セルシオが不安そうな顔で僕を見る。聞かなくても、昨夜の事だろう


「どうしたの?」

「ソラは…その、不安じゃないの?」

「不安だよ、僕も昨日の事はあまり整理出来てない…けど今はテストに集中しよう」

 昨夜に見たあの物体について考えるにしても情報が少ない。それに僕たちの知識では説明がつかない事が多すぎる。想定でしかないがあの塔を作った人が非人道的な行為をする事に躊躇いがないという事だけは何となく分かる


「あたしには整理なんてできないよぉ。それに壊しちゃった壁がバレたらどうしよう」

「そっ、その時は僕が何とかする。だからセルシオ、大丈夫だよ」

 僕は今にも溢れそうな涙を堪えている目を拭う

「で、でも」

「その必要は無いぜソラ!もとはと言えば俺が誘った訳だ。責任の一つや二つくらい取ってやるぜ」

「ルージ…」

「あんたまで…でもあたしは誰かが責任を取るのも嫌だよ」

 セルシオが僕らの手を取り胸に近づける。僕達はこの児院でいつも3人で過ごしてきた。ルージがボケてセルシオがツッコミそれを僕がなだめる。そんな、なんて無い日常を幾度となく経験してきたかけがえのない仲間だ。例えどんな結末が待ち受けていようと僕達が欠けることは絶対に嫌だ…

 三人がそれぞれの中で同じ思いを胸に持ちゆっくりと手を離す


「心配すんな…ソラ、セルシオ。俺だって、大人しく真実を話すつもりはない!

 とっておきの秘策があるから安心しな」

って!』

 僕とセルシオ息を揃え聞いてみる。正直の所、壁の中のことで精一杯で壁を壊していたことすら忘れていた。秘策があるなら願ったり叶ったりだ

「それはバレたらのお楽しみだ!秘策は秘密だから秘策なんだよ。だから2人とも今はテストだけを考えようぜ」

「う、うん」

「本当に大丈夫なんでしょうね?」

「ふふ、あははっ、ははっ」

 いつもの調子に戻り三人の間に笑いが起こった

 後半のテストも頑張ろう。先はまだ長いそれに今回は特別試験だ

 いつもと同じように行かないだろう

 不安の種が消え、安心したのか強烈な眠気が襲ってくる。ここで寝てしまってはダメだ…ボヤける視界で前を見るとセルシオが倒れている。セルシ…



 ___後書き 次回はいよいよ特別試験ですと意気込んではみてましたが、キャラ同士の掛け合いが少ない気がしたので前半戦です。眠ってしまったソラは、大丈夫なのか?ルージの秘策とは?お待ちいただければ嬉しいです

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る