第4話 知らないフリ
◇◇現在◇◇
「準備はできたか〜?」
浮かれた声で裕太は聞いた。
「もうちょっと〜
あっ、ファスナーが閉まらないから
上げてもらえる?」
(ファスナー上げるくらい簡単なこと!
マカセロリ!)
「っっ」
(なんだ…ファスナー上げるのってこんなにも難しかったのか?)
「ちょっと、どうしたの?」
みなみは困った顔で後ろを向こうとした。
「ちょ、ちょっと待って!」
(そうだ、夫婦なんだからこれくらいなんてことはない!)
「よしっ!」
「ちょっと待って!そんなに力入れたら…」
「いくぞーっ!」
ビリッ
「あっ」
今にも泣きそうな顔でみなみは、こちらを見ている。
「すまない、みなみ…」
「せっかく今日のために新調したのに…」
(どうしたらいいのだ。こんなことははじめてだ。)
「えっと、あっと、、ごめん。今すぐ買いに行こう。」
「う、ん。」
「そうだ!友美の店はどうだ?
みなみは友美と仲良いよな」
「友美?友美に会えるの!
嬉しい!結婚式以来だな〜!」
(今日1番嬉しそうな顔をしているな)
「じゃあ車出してくる」
「ええ、着替えてるわ」
「準備が出来たら駐車場で」
「またあとで。」
ガチャッ
「友美か〜、懐かしいな」
そういって昔の写真を眺めた。
(友美がつけてるネックレス綺麗だわ。)
(あっ!もうこんな時間。早く駐車場へ向かわないと)
ウィーン
エレベーターの中は退屈だ。何もすることがない。
ウィーン
誰かが乗ってきた
(見たことない顔ね)
「あっ、何階ですか?」
みなみは気を遣った。
「駐車場まで」
「同じですね。」
「そのようですね。」
(気まずい…これがあるからエレベーターは苦手だ。)
「どこへ行かれるのですか?」
「夫とお出かけに、記念日なので」
(契約結婚だけど…、今は…違うのかな?)
「そうなのですね。楽しんできてください。」
「ありがとうございます。」
チャリンッ
「あのっ!」
「何ですか?」
「これ、指輪落としましたよ。」
「ああ、これ。もう要りません。
あなたにあげます。」
「そんな、でも」
(困ったわ。)
「みなみ!」
裕太がきた。
「裕太、困ったことにこの指輪この方がいらないって言って…あれ?いない?」
「誰のことだ?」
裕太は不思議な顔をしてみている。
「さっきまではここに居たんだけどね…
困ったわ…」
「持ち主が要らないって言ってたんだしそのまま持っておけば?」
「でも…」
「いつかまた取りに来るかもしれないよ?」
「そうね。そうだといいわ。」
◇◇
ガラッ
「いらっしゃいませ。ってみなみじゃない!」
友美は驚いた顔をしている。
「久しぶり、友美。」
「久しぶりね、みなみ。」
「今日はどうしたの?」
「えっとね、」
みなみは言いにくそうな顔をした。
「友美、それがな…」
「はぁー!!!!力入れすぎてファスナー壊した!?!
何してるのよ!バカ力ね。」
呆れた顔で友美は言った。
「お前、この数年でお淑やかさが無くなったな、お淑やかさ強盗にでもあったのか?」
裕太はからかう。
「あなたには思いやりがかけてるわね。
思いやり強盗、いや、ままのお腹の中に思いやり置いてきたんじゃないの?」
すかさず反撃をする。
「まあまあ。今日は記念日なんだし。」
みなみが間に入った。
「そうね。」
「そうだな。」
いつもの2人に戻った。
みなみは安心した。
「それにしても自分の力でファッションデザイナーになってそれでこんなにも有名なお店のオーナーだなんてほんとに友美は凄いわ。」
みなみはキラキラした目で言った。
「そんなこと…いやあるわね。」
「あははは」
裕太とみなみはわらった
「それはそうと仕事をしなくちゃ」
「仕事?」
みなみと裕太は尋ねた。
「ちょっとまってて」
数分後友美は沢山の服を持ってきた。
「これが最近のトレンドで、こっちはみなみに合いそうだなと思って持ってきたものよ。」
「ありがとう。」
「素敵だわ。」
「試着してみる?」
友美は言った。
「いいの?したいわ。」
「試着室へ案内するわ」
友美はみなみを試着室へ案内した。
「着替え終わったら教えて。」
「分かった。」
チャリンッ
(何かしら?)
「みなみ?この指輪…」
(はっ!これは…)
「あぁ、これ?ちょっとね、拾ったの」
みなみは誤魔化した。なぜだか分からないがそうしないといけないような気がしたからだ。
「どこで?」
友美は聞いた。
「どこだっけな?結構前だったから覚えてないや。」
「そう。」
友美は少し不安になった。
「着替え終わったわ」
みなみの楽しそうな声が聞こえてきた。
「見せて。」
試着室の扉が開いた。
「まあ、とっても綺麗だわ!!みなみ」
「そうだな、綺麗だ」
裕太も友美も嬉しそうだった。
「じゃあ、これ着て帰っても?」
不安そうな声でみなみは聞いた。
「もちろんよ!!
着てきた服は袋に入れといたわ、はい。
お代はこれから定期的に会うこと!以上!」
「ほんとにありがとう。友美」
「全然いいわよ、これくらい。
外まで送るわ」
「今日はありがとう、友美」
裕太は言った。
「今日は楽しかった。ありがとう!
また会いましょう!」
みなみは嬉しそうに言った。
友美は2人の姿が見えなくなるまでお辞儀をした。
「またのお越しをお待ちしております。」
ねえ、みなみ?
わたしは優しい人間でも特別な人間でもすごい人間でもないの。
ただあなたの傍に居られるならなんだってできるだけ。あなたを不幸にはさせない。だからあの指輪のことも10年前のことも何もかもわたしはしたの。これからもするわ、知らないフリを
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