たとえ世界にいなくても、俺はお前を探しに行く

空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~

第1話 異世界転生かと思ったら、北欧白髪巨乳美少女でした

 俺は今とても混乱している。いつものように朝早く起きて勉強しようと体を起こすとなんと体が女になっていたのだ! もう一度言う。体が女になっていたのだ! うん。なんで? とりあえず胸揉んどくか。


「柔らけえ」


 女子の胸とか今まで揉んだことなかったけど予想以上に柔らかいし、なんだこの胸! 少し大きすぎないか? いや、こんなものなのか? だが、ちょっと肩が重いぞ。一体何カップあるんだろうか。しばらくこのけしからん胸を弄ってから思い立つ。


「とりあえずここどこだ?」


 ベッドから降りて部屋をうろちょろする。使われている家具は一昔前のヨーロッパのそれといった感じだった。映画の中でしか見たことはないけど。もしかしなくても俺、異世界憑依しちゃった? なんてことを考えていると綺麗な装飾のなされた鏡が目に入る。


「あ、鏡だ」


 部屋の隅に置かれた姿見の前に立って驚く。


「可愛すぎかよ……」


 そこには俺の理想の北欧美少女が立っていた。俺はもう一度胸を揉む。その絵がとても尊かった。やっぱり北欧美少女は何をしていても絵になるな。その時部屋のドアがノックされた。俺は咄嗟のことに驚き固まる。


「失礼します。ヘレーネ様。起床の時間です」

「あ、え」


 メイド服を着たTheメイドの女が入ってきた。なんて答えたらいいのか分からず吃ってしまった。不甲斐ない。ここは俺流北欧美少女ならコレでしょな喋り方を実践するしかない。まぁ北欧美少女は日本語使わないけど。というかここ日本語でオーケーなのね。


「おはようございます。今日はいい天気ですね」


 俺はそう言って微笑みかける。そして気づく。この体の持ち主は声まで完璧なのかと。この体を好き放題にできるのは嬉しいが、実際に本人に会ってみたいと強く思った。そしてこの世界の男子はこんなにも美少女で巨乳で声まで完璧な少女と会えるだなんて許せないとも思った。よし決めたぞ。俺がこの体の持ち主になったからには男に対しては辛辣に当たってやる。そんなことを考えているとメイドが困惑したように尋ねてきた。


「ど、どうかなさったのですか?」


 よく見るとメイドは何やらあたふたしていた。何かやらかしたか? 何のことかわからなかった俺はすぐさま聞き返した。


「どうしてそう訊くのですか?」

「い、いえ。いつもは声をかけて下さることなどなかったもので」


 ここで俺は思う。もしかしたらこの体の持ち主は寡黙な女性だったのかもしれないと。うん。実にいい。銀髪巨乳寡黙北欧美少女。なんて美しい響きなんだろうか。だが俺はしゃべるぞ。退屈するのが嫌いなんだ。


「そうですか。ならこれからはもっと話しかけてもいいですか?」

「は、はい! ヘレーネ様にそう仰って頂けてとても光栄です!」


 ここでさらに思う。今この人ヘレーネ様って言ったよな? それにこの人明らかにメイドみたいだし……。もしかしなくても俺、異世界令嬢に憑依しちゃったのだろうか。


「あのー。確認ですが。この家は子爵家とか公爵家とかだったりしますか?」

「はい! クリスタル家はこのガーネシア王国の公爵家でございますよ!」

「へ、へぇ。そうなんだー。答えてくれてありがとう」

「いえ! それでは服を着替えさせていただきますね!」


 満面の笑みを咲かせたあと、一つお辞儀をすると、そう言ってメイドは手に持った学生服らしき物をベットに置いて俺の着ている服に手をかけた。俺は言わずにはいられなかった。


「ま、待て! いや……。待ってください。服は自分で着替えられますよ!」

「そうですか? でもいつもは私が着替えさせているのですが……」


 メイドさんがうるうるした瞳でこちらを見つめてくる。うぅ、どうしたものだろうか……。


「わ、分かりました。よろしくお願いします」

「はい!」


 メイドは元気な返事をすると、俺の着ていた可愛いらしい薄紫色のネグリジェを脱がせて下着姿にした。


「これは凄いな」


 自身の下着姿を目の当たりにして思わず声が漏れる。メイドは首を傾げている。


「どうかなさいましたか?」

「いいえ、大丈夫ですよ。続けてください」

「なら、構いませんが……」


 怪しまれているのだろうか。俺は少し心配になったが、メイドはそんな俺の心境を知る訳もないので淡々と俺に制服をきせていく。制服は灰色と白のチェックのスカートにブラウンのブレザーだった。現代日本ではまず見ない派手なデザインだ。アニメの中に登場する私立の女子高校生が来ていそうだなと思った。ブレザーには金色の校章が付いていて、いかにも貴族といった感じだ。


「では失礼しますね。朝食が出来次第伝えに来ます」

「はい。ありがとうございます」


 メイドは倒れそうなくらい深くお辞儀をすると、部屋を出ていった。それを見届けると、俺は一息つく。そして、姿見で自分の姿をもう一度確認する。ニマニマする可愛い制服に身を包んだ銀髪巨乳北欧美少女。うん、尊い。そのまま10分くらい鏡の前で自分に見惚れていると再びノックがされた。


「失礼します。朝食の準備ができました」

「はい。今行きます」


 俺はメイドに案内されるがままに長い廊下を歩く。この家の廊下は学校の廊下くらい長い。だが、もうこのくらいでは驚かない自分がいた。俺はメイドに名前を聞くことにした。


「メイドさんの名前は何て言うのですか?」

「は、はい! シシリーと申します!」

「シシリーですか。良い名前ですね」

「あ、ありがとうございます!」


 ちなみに今までのシシリーの言葉から俺の名前はどうやらヘレーネ・クリスタルということがわかっている。まさにこの体に相応しい美しい名前だ。しばらく歩くと食堂らしき場所に着いた。


「おはようございます」


 恐らくお父さんとお母さんであろう二人と妹らしき銀髪の幼女がいたので挨拶をする。ん? 銀髪の幼女だと? 何それ尊い。俺はニヤつくのを必死に我慢しながら銀髪幼女の隣に座った。


「ヘレーネが挨拶をするなんて珍しいな。今日は良いことがありそうだ」


 お父さんらしき銀髪の男が朗らかに笑ってそう語りかけてきた。とても気のよさそうでいてチョビ髭が似合うハンサムな男だった。対してブロンドヘアのお母さんらしき女性は、うん。確かにこの母にしてこの娘ありって感じだ。めちゃくちゃ若いし、どちゃくそ麗しい。


「どうしたのかしら。ヘレーネ、私の顔に何かついてるの?」

「あ、いえ。見惚れていただけで……あ」


 しまった。お母さんの話し方が気品に満ち溢れすぎて、つい本音を言ってしまった。お母さんもお父さんもぽかんとしているではないか! どうにかして誤魔化さないと。


「うんうん。わかるぞ、ヘレーネ。私の妻の美貌は今もなお宝石のようだ」


 なんかお父さんが言ってるな。とても嬉しそうに頬を緩ませながら何度も頷いている。愛妻家なのだろうか。


「それに、お前だって美しいぞ」

「は、はぁ……」


 おっさんに可愛いと面と向かって言われると背中がむず痒くなるんだな。覚えておこう。


「では冷めてしまう前にそろそろ食べるとするか。ではみんな、主へ祈りを」


 お父さんがそう言うと、みんな目を瞑って両手を胸の前で組み、顔を天に向けた。なんかの儀式だろう。俺は慌てて合わせることにした。お父さんが語り始める。


「主よ。欲を満たすために殺生することをお許しください。そして、全ての生命に安らかな眠り、フリーズが訪れますように。命に感謝を――」


 ――フリーズ。


 三人はゆっくりと丁寧にその言葉を語った。フリーズって凍結ってことだろうか。何故フリーズなのか疑問だったが、俺も慌てて合わせた。フリーズ。


 そして、朝食が始まった。朝食はサラダにスープにパンにドリアにと豪奢だった。そしてとても美味い。少し味が薄い気もしたが、気にはならない。食事中、俺はチラチラと隣に座る銀髪幼女を見ていた。サラサラな髪、もちもちしてそうな頬、膨らみかけの胸。恐らく10歳前後だろう。とても可愛いのだが!


「お姉ちゃんどうしたの?」

「いや、お前があまりにも可愛くてね……あ」


 つい素の口調で話してしまった。それを聞くと銀髪幼女は「あはは」と笑った。


「お姉ちゃんの喋り方変なの。お姉ちゃんこそ、今日も美人さんだね! 私聞いたの。お姉ちゃんって、けいこくの美女って言われてるんだって!」

「うんうん」


 俺は必死に語る銀髪幼女の頭を撫でずにはいられなかった。髪は艶艶してて、何もかもが尊い。俺、この子目に入れても痛くないな。


「ふふ。くすぐったいよ」


 当の妹はくすぐったそうに頬を緩ませている。その仕草がなんと可愛いことか。そこで声がかかった。


「ミュウ。ヘレーネ。今は食事中だぞ。まぁ、仲が睦まじいのは良いことだがな」

「そうね。二人がじゃれ合っているのなんて久しぶりに見たわ」


 お父さんに続けてお母さんが微笑みながらそう言った。そうか。この天使の名前はミュウというのか。なんて可愛らしい名前なんだ!






 俺は至福の朝食を終えると部屋に戻って学校に行く準備をすることになった。どうやら学校へは馬車で行くらしい。なんと嬉しいことに馬車はミュウちゃんと同乗だった。狭い馬車の中で姉と妹が二人きり。何も起きないはずがない。


「ミュウ。こっち来て」

「うん。わかった!」


 俺はミュウを膝の上に乗せて腰に手を回す。そしてサラサラな銀髪に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。花の匂いがしてとても良い。香水でも使っているのだろうか。


「お姉ちゃん。くすぐったいよう」

「天使か? 天使なのか?」


 至福の時を経て、馬車は学校の門のような場所にたどり着いた。あっという間だった。ミュウが降りるので俺も降りようとするとミュウが声をかける。


「見送りはいいよ。恥ずかしいから!」


 どうやら俺の通う学校はここではないらしい。仕方なくミュウとお別れをする。


「お姉ちゃんばいばい!」

「うん。ばいばい!」


 ミュウが学校へと消えていってどこか寂しくなった。しぶしぶ俺は馬車に戻る。さっきはミュウに気を取られて気づかなかったが、街並みは壮観だった。レンガ造りの家が立ち並び、人々が活気に往来している。しばらく風景に見惚れながら馬車に乗っていると再び大きな門の前にたどり着いた。


「ここが俺の通う学校か」


 門には王立ガーネシア魔術学校の文字が書いてあった。建物はどこかの魔法使いの少年が主人公のファンタジー小説に出てくる学校のそれだった。


「ヘレーネちゃん!」


 門前で呆然と立っていると、急に後ろから声がかかり、振り返るまもなく俺は誰かに後ろから抱きつかれた。

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