第9話

結局、優乃は無駄なくらい真剣に悩んで、ミルクティー、カフェオレ、いちごミルクを買った。そう、とっても無駄な時間だった。


急ぎ足で戻ってみると、もう、訳がわからない、という感情と、かなでがヴァイオリニストとして、殺されそうになっている現状に本能が動いていた。

奏のために買った、ミルクティーを思いっきり投げた。


「今すぐに奏を解放しろ。」


「は?」


「解放しろ。」


私は、自分でも驚くくらい冷たく言い放った。


「君さあ、自分が何やってるかわかってんの?」


男が奏の腕を持ったまま、私の首を片手で掴んだ。


「首絞めんのか?やってみろや!」


「まあまあ!…って、シャオミーミーちゃんじゃん!もしかして、コイツ、お友達だった?」


奏とへなちょこ野郎の近くに自動販売機で会った豆腐先輩がいた。


「あなたも何ヘラヘラしてるの。奏に何やってるんですか。今すぐ解放してください。彼は体調が悪いんです。」


私は男を睨んだまま言った。


「そっかそっかぁ。それは悪かったね。でもねー、コイツ、やっちゃいけないことしちゃったの。生徒会の伝統、猫ちゃんでもわかるよね。いくら学年代表エリートくんでも許されないよ?」


豆腐は呑気にそう言った。

生徒会の伝統。それはすっごく残酷な風習。生徒会に対抗した者の末路。耳にしただけだが、犯罪紛いの仕打ち。多くの生徒がこの学校から姿を消している。


つまり、豆腐と男は生徒会。奏は生徒会に目を付けられてしまったわけだ。


かと言って、奏の腕が折られてしまったら、次のオーケストラの出演ができなくなる。そんなこと絶対させたくない。奏の腕は、彼の生命に等しい。


どおしよ。生徒会を何とか止める方法は。こんな奴らに真っ向から対抗できるくらいの力は私にはない。でも親に言えば...いや、忙しい彼等の邪魔をしたくない。


「でも、私の可愛いシャオミーミーのお願いなら、特別に聞いてあげる。」


豆腐はへなちょこに声を掛けた。


世瑠よる、そいつ許してあげなよ。」


「は?」


「何言ってんの?」


へなちょこれーとと私はどっちも似たような怪訝な悪人顔で豆腐を見た。


「エリートくんの代わりに猫ちゃんを全校集会の時にご紹介するの!素敵じゃない?」


「そうくるんだね!桃花サイコー!愛してる」


「………え。」


へなちょこ、ご機嫌改善

優乃、顔面蒼白


優乃は八神に首から手を離されてよろめいた。


ご紹介...大体検討つく。


全学年からゴミ投げつけられたり虫喰わされたり殴られたりするやつ。とにかく1番やばい、最も避けるべきこと。確か2年前だっけ、犠牲になった先輩が居て、結局1日で自主退学してた。あの意味不明な紹介?本当に気持ち悪くて忘れられない。私はどれくらい持つのかなぁ....あはは...


でも奏の腕より大事なもんはないからな。。マジ死なんようにすることと、メンタルを壊さんようにすることだけは気を付けないと。


「はぁ...わかりましたけど、顔と声帯ぶっ壊すようなことだけは辞めてくださいね、商売道具なんで。」


「え、どうしよーかな!!お前、そのビジュアルでそっち系の仕事してるの?結構上手い感じ?え?」


へなちょこがニヤニヤしながら言ってきた。


声楽をそっち系ってなんやねん。普通に音楽系言えや、腹立つ。


シャオミーミーって聞き分け良いから、大好き!また日程教えるから楽しみにしててね♪」


豆腐とへなちょこは半分スキップで校舎の方へ戻って行った。

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花と旋律 井伊琴陸 @shiroiKotori

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