第12話 【高校生二人だけの勉強会】
「そういえば、そろそろまた勉強の方にも向かないとな」
いつものように、食事の余韻を楽しんでいた時、ふと現実に戻されるようについ呟いてしまった。
それに気づいた
「ジムに行く回数減らすんですか?」
「ん〜……いや、変わらないかな……。
最近、調子いいしクライミングにしろ勉強にしろ集中出来てるからなんとかなると思う。
休日は、もう少し勉強に向き合うけどね」
「でしたら、一緒に勉強しませんか?良かったらですけど……」
「俺の方は歓迎するよ。何時くらいに来る?」
「そうですね、午前中からお邪魔しても良いですか?」
「大丈夫だよ」
「……途中息抜きで、またあれやらせて下さい」
少し恥ずかしそうに琴葉はゲームの方を見ていた。
そっちが本命だったか。
「いいよ」
「ちゃんと勉強しますよっ」
間髪入れずに言ってきた。
琴葉が
「大丈夫、勉強しないなんて思ってないよ」
「まだ目が笑ってます」
「おっと」
つもりが通じなかったようだ。
自分も決して息抜きをするのが悪いと思っているわけではない。
一緒に過ごしていて琴葉は少し頑張りすぎてしまう所がある気がしているので、息を抜けるというなら、それはそれで構わないとも思っている。
普段の琴葉は、パンパンに空気を入れた、むしろ入れすぎたタイヤの様に思う。
平らで舗装された道路なら、効率よく走り出せるだろう。
目的地にも素早く行けるかもしれない。
それでも何かの拍子に破裂してしまわないか心配だ。
実際、成績も良いのでなおさらリラックス出来れば良いと思う。
「それじゃ、明日は頑張ろうか」
「うん」
明日の約束も終わり、琴葉が帰宅するまで穏やかな気持ちで過ごした。
翌朝、自分は先に勉強は、してなかった。
この後どうせ勉強するのだ、登ってない分は埋め合わせるため、多少体を動かしておこうと思ったのだ。
キシッ、キシッとかすかな音をたてながら、置いてある器具を使って、色んなメニューを消化していた。
指から肩に掛け、体幹から足先など先端まで意識して体を動かしていく。
最初はぎこちなさのあった体も徐々にイメージと同じ様に体が動かせていくのを実感し、軽い運動から、筋肉に負荷を掛けていき、最後の数回をこなすのに思わずうめき声が出てしまう。
軽く汗をかき、動的な物から静的な物へメニューを移す。
逆立ちし、足を動かし姿勢を傾けた。
そうこうしている内に、時間が経っていたようで玄関の扉が開いた。
「おはようございま……す?」
琴葉がこちらを見て、瞳を大きく見開いていた。
そりゃ入ってきてこんな変なポーズ取ってたら驚くか。
「おはよう、ごめん驚かせた」
「いえ、ちょっとびっくりというか、凄いなって。それにその……」
「その……?」
「なんでもありません……」
琴葉は下を見ながら俯いている。
よく見ると顔が
どうしたのだろうか。
ちょっと臭うかな?
「汗臭いかな?ちょっとシャワー浴びてくるからゆっくりしてて。
始めちゃってても構わないから」
「そういう事ではないですけども、いってらっしゃい」
相変わらず赤い顔をしている様子を尻目にシャワーを浴びた。
「お待たせ」
するとなぜか琴葉はソファーで膝を抱えて丸まっていた。
「どうかした?」
はぁ、と盛大な溜息を返される。
「いえ、勉強しましょうか」
「……そうだな」
なんか釈然としないけど。
まぁいいか。
聞いたら聞いたで責められそうな気がするし。
体を動かしたからか、隣に琴葉がいるからか、勉強は
なんか久々に凄く集中できたな。
いつもはなんだかんだで他の事に気が散るんだよな。
琴葉がいるからだったりして。
なんてまさかな。
居心地が良くて安心できるけどな。
あれ、もうお昼過ぎてたのか。
「こんな時間か、今から作るのも大変だし、出前でも取ろうか」
「作ろうと思ってきてますので、作っても問題ありませんよ?」
「そうしたら、夕飯はお願いするよ。
俺が今、出前の気分なんだ」
「ありがとうございます」
「お礼を言うのは、俺の方だけどな」
最近の琴葉は、よく柔らかく笑う。
そんな笑顔につられ、こういったやり取りがなんとも
それがまた楽しいのかつられるのか琴葉も良く笑ってくれている。
「さて、何が良い?」
「出前って取った事がないんですが、どんなのがあるんですか?」
「最近は、色々なんでもあるけど、定番はやっぱりピザかな」
「ピザ、食べてみたいです!」
まるで食べた事がないような反応だった。
「ピザにしようか。はい、これメニュー。
好きなのを選んでいいよ」
「二枚頼むんですか?
私、一枚食べれないと思いますけど」
「一枚で大丈夫だよ、これもパエリアみたいに半分ずつにも出来るから」
「そうなんですね、私何も知らなくて……」
「誰かに迷惑掛けてるわけじゃないし、気にしなく良いよ」
それだけで気分を晴らす事はできない様子。
小さく「はい」と声が聞こえた。
「俺も最初から解ってたわけじゃないよ。
初めて頼んだ時なんか調子に乗って頼みすぎちゃって、数日に分けて食べる事になったりね。
それはそれで楽と言えば楽だったけど、最後の方はさすがに飽きた」
わざとらしかったかな?
おどけたように言うと、琴葉は安心したのかメニューを見て選び始めた。
「じゃぁ、これをお願いします」
「良いね、それにしようか」
自分は携帯を手早く操作し、注文を済ませる。
後は来るまで待つだけ。
その間、琴葉は何を考えているのか自分をぼんやりと見ていた。
インターフォンが鳴り、昼食が到着した。
自分は飲み物を用意し、琴葉は食器を用意する。
密かに追加したアップルパイを見て、喜んでいたので食べたかったようだ。
思わずニヤリとしてしまう。
「温かいうちに食べた方が美味しいから、さっそく食べよう」
「うん」
食事をしながら、小さな口いっぱいに頬張る琴葉が目に入った。
頬を膨らませ、美味しそうに食べている。
その姿は、見ていて心地よく出前を取って良かったと思え。
琴葉をぼんやりと見ながら、とりとめのない事を考えていた。
一緒に食べる事が多くなったし、いまや生活の楽しみになってる。
まさか、人と食べるのが心地いいと思うなんて。
自分は何か変わったのかな。
視線に気づいた琴葉が、首を傾げながら聞いてきた。
「どうかされたんですか?」
「いや、なんでもない」
軽くかぶりを振りながら、食事を再開した。
空腹は最高のスパイスとは言うがそれだけではなさそうだ。
定まらない気持ちを胸にしまい口を動かした。
あっという間に食べ終わり、小休止。
ね、眠い。
ここで寝たら、駄目だよな。
せめて切りの良いところまで。
眠気と戦いながら一区切りまでがんばり、琴葉を見ると解答のチェックをしていた。
琴葉も一区切り付きそうな頃合い。
眠気覚ましにコーヒーを入れ、用意してくるとちょうど良かったみたいだ。
「おつかれ」
「あ、ありがとうございます」
「休憩にする?」
「うん、そうしましょうか」
自分は、ゲームを準備し、琴葉がプレイできるようにコントローラーを渡した。
嬉しそうに、はにかむ様にされてしまう。
「今日はこれをやろうか」
取り出したのはパーティーゲームだ。
琴葉が一生懸命に頑張るのを見ているのも良いが、一緒に出来る物もやってみたくなった。
これならミニゲームも多いのでゲームになれていなくても問題ないだろう。
「うん、やってみます」
両手にこぶしを作ってやる気を出してみせ、その姿は変わらずとても可愛らしい。
ゲームを始めると琴葉は様々な表情を見せてくれた。
「それはずるいです!」
「戦略だよ」
「私ばっかり狙ってませんか!?」
「キノセイキノセイ」
「なんかダイスの目、操作されてませんか……」
「どうやってやるの」
「実は中に人がいるとか」
「いつの時代の話してるの」
「ここで大きい目が出ればまだ判らないですよね」
「出ればね」
「なんでこういう時に限ってこんな数字なんですか……」
「センサーだね」
「なんですかそれ」
「都市伝説かな」
「あ、あ!! あー……。 間に合いませんでした」
「次があるんじゃない、知らないけど」
普段の大人しい様子だけではなく、笑い、時には怒り、ダイスの不運に残念がるなど見ていて飽きることはない。
ひとしきり笑いリフレッシュできたからか、その後勉強に戻ったあとも和やかな空気に包まれていた。
そうして時間が過ぎ夕陽が差し込んだ頃。
「夕飯、作りますね」
「そんな時間か、ありがとう」
いえいえ、と微笑みながら台所へ向かって行った。
どことなく機嫌の良さそうな琴葉をいつまでも見ているわけにもいかず、かといって勉強の続きをする気にもなれず、クライミングの動画を見る事にした。
公式大会の動画で、動き方や
「少し足りないものがあるので取ってきますね」
「買って来ようか?」
「すぐもどりますので」
言うなり琴葉は行ってしまった。
火も点いてる様子もない。
変わらず動画チェックをしていると玄関が開く音がした。
「おかえり」
「……ただいま、です」
僅かに
何かあったのかな。
でも出かける前まではそうでもなかったよな。
声を掛けるか迷ったが、すぐに戻った様子にほっと安堵した。
ほとんど料理は出来ていたのか、琴葉が台所に戻るとすぐに声を掛けられた。
「できました」
「おー」
運ばれてきた丼には綺麗に茹でられたフォーが浮かんでいる。
その上には鶏肉が綺麗に切りそろえられている。
周りにもやしとネギが散りばめられていた。
横にはパクチーとレモンが添えられていて、まるでレストランで食べるかのように用意された物のようだった。
もちろん、自分の好物である事もテンションをあげる一因になってたのは言うまでもない。
「いただきます」
「めしあがれ」
勢い良く箸を付け、食べ始める。
鶏肉も柔らかく散りばめられたネギが良いアクセントとなり食を進めさせる。
またフォーの茹で加減が丁度よく柔らかすぎず、かといって芯が残っている感じもしない。
汁の美味しさも相まって舌鼓を打っていた。
ひとしきり堪能したあとは、パクチーとレモンを入れ、味を変えて楽しんだ。
「ごちそうさまでした。美味しかったよ」
「おそまつさまでした」
にこにこと琴葉が見ているのも恒例となり何気なく聞いてみた。
「いつも見てる気がするけど、何か変かな?」
「あ、いえ。変ではないですよ?
ただ美味しそうに食べてくれるのは嬉しいですよ」
「そう、それなら良いか」
自分としては普通に食べてるだけなんだけどな。
「昼間コーヒー飲んだけど、紅茶にする?」
「いえ、またコーヒー貰えますか」
「ん」
いつも通りの日常、こんな時間がいつまでも続いて欲しい。
そう願い、そのまま続いていくだろうと疑いもしなかった。
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