第10話 【高校生の買い物】
「そういえば
「いくつかなくなりそうな物があるかな。買い足しておくよ」
「明日、ジムに行かれるでしょうし、私の方で買っておきますよ」
「いや、明日はジムに行かないかな」
「どうかされたんですか?」
「特別な理由はないよ、
毎日できるわけじゃないという表現の方が正しいかもしれないけど」
「そういうものなんですね、でしたら一緒に買いにいきませんか?」
自分にとっては驚きの連続であったが、この日一番の驚きだった。
これはいわゆるデートなのか。
いやいや普通は双方が想いを持ってないと成立しないはず。
そう、だからこれはただの買い物。
意識しては駄目だ。
確かに好ましいとは思っている。
けれども、もう断絶されて全てを失うような喪失感を味わいたくない。
それならいっそそういう相手を作らなければ良い。
第一琴葉も自分に対して特別な気持ちはないのだから、軽々に特別な関係と見られても困ってしまうだろう。
琴葉みたいな目を引く彼女の隣を歩くのに自分は相応しくないのだから。
「俺と一緒に歩いてる所なんて見られたら恥ずかしいでしょ」
「え?
そんなことないですよ?」
琴葉は意味が分からないというふうに顔を傾げている。
傾げた首に合わせて長い髪が流れた。
思わず見惚れそうになり、顔が火照りそうになるのを抑えながら。
「学校とかでは決して中心にいく事はない、
一緒に居ても――――――」
「ちょっと待ってください、なんでそんなに
琴葉は驚いたのか、慌てたように
「ふぅ」と一息つくとまっすぐこちらを見て言った。
「まず、学校での朝比奈さんを私は良く知りません。
私が知っているのは、ジムで楽しそうに登っていて、困っている人を放っておけず、美味しそうに食事をし、こちらの事を凄く気遣ってくれる優しい人です。
こうして一緒にいる時間は落ち着いて居られる私にとっても大事な時間です。
そうじゃなきゃ色々な理由を付けて途中でやめています。
そんなあなただから一緒に食事をしても良いと思い、お買い物にも誘ったんです。
解りましたか?」
琴葉は乗り出すように、こちらをじっと見つめて来る。
決して逃がさないと言わんばかりに。
距離の近さに先ほどまでとは比べ物にならない位の火照りを感じ、首を縦に振るしか出来なかった。
琴葉はまだ言い足りないのか頬を膨らませて、視線を外さない。
このままでは自分の精神がもたないので、琴葉が何か言う前に止めないと。
「ごめん、わかった。ありがとう」
「……はい。解って頂けたなら。
髪の毛だけでもジム行ってる時みたいにすれば良いのでは?」
「何か変じゃない?男が髪の毛、縛ってるのって。
ジムだと俺だけじゃないし、何も言われる心配ないから」
「私は結んでいる朝比奈さんも格好いいと思いますよ」
この人は何度笑顔で攻撃してくれば気が済むのだろうか。
その上にこにこと、自覚が無いにも程がある。
そのうち心臓が破裂するんじゃないのか。
「それではせっかくですので明日のお昼を食べてから、買い物に行きましょう」
昼を食べてからって。
料理する為の買い物のはずだけど。
もし仮にこれが必要に応じて、家にいなければならないのならともかく、折角外に行くのだ。
そこまで頑張らなくていいだろうに。
「ちょっと待って、昼夜の二食作ろうとしてる?」
「えぇ、そうですよ?」
何を当然の事を言ってるんですか。と言わんばかりに琴葉は不思議そうな顔をしている。
どう考えても世話をやいてくれすぎじゃないかな。
そう思うのが普通だよな。
「二食も大変だろうから、昼は外でランチをして買い物に行こう。
何か食べたい物ある?」
「……私、外食は苦手であまり行った事がないんですよね」
琴葉の表情にまた影が差し込んでしまった。
その表情を見てしまうと心がかき乱されてしまう。
心が締め付けられ、思わず顔が歪みそうになり、目をしかめ、喉が詰まる。
息を吸うのも一苦労し、静かに吐き出した。
「無理しなくても良いよ。
どうしても外食したいわけじゃない。
何かテイクアウトするなりで何かこっちで用意するよ。
それで良かったら一緒に食べよう」
それを聞いた琴葉は、ぱっと表情を変えた。
変わりに出てきたのは、罰の悪そうな困った表情で。
「いえ、ランチをしに行ってはみたいのですが、一人前を食べきる事が出来ないんですよね。
残してしまうのも申し訳ないので」
影の差した表情が頭の隅でちらつく。
それでも琴葉が隠したいのなら、何も聞かないし、行ってみたい気持ちがあるのなら。
「食べきれなさそうな分は、俺が引き受けるよ。
そうすれば
「そうですね!
お願いできますか!」
気兼ねなく外食出来るのが嬉しいのか、はじけるような笑顔が琴葉に戻った。
そんな琴葉を見て自分はほっと安堵した。
ついつい今夜は長く話し込んでしまった。
そろそろ区切りをつけないと明日に支障が出てしまいそうだった。
「良い時間になったけど、明日はマンションの下にお昼前くらいに待ち合わせで大丈夫?」
「はい、大丈夫です。また明日、楽しみにしていますね」
先ほど同様、にこにこしながら言われてしまってはこちらも楽しみになってしまう。
「また明日」
玄関まで見送り、「また」と手を振った。
何度目になるか解らない夢心地の中、必死で現実に戻る自分だった。
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