第5話 異世界オフ会(後編)

「そんな乙女ゲーある!?」


 だだっ広い中庭にこだました。

 御倉さんが慌てて「声のボリューム下げて!」と言って私をなだめる。…なんだかデジャヴを感じる。

 いや、ありそうだな。そういえばあったわ。思い返したら。このゲームがそうだもん。



 私はそもそも誰かのエンディングを見ようとしたことがないから、バッドエンド…つまり、ゲームのループ処理に入ったことがないのだ。


 この『カムロ*トロイカ』は、告白が成功したらエンディングとなる従来の恋愛シミュレーションとは異なり、恋愛成就後にカップルとして過ごすことができるパートが存在する。

 バッドエンドで挫折せず、ぜひ告白をクリアしてその後のパートもプレイしてほしい、という制作陣の意図が伺えた。


 好感度はそのままで、ゲームでも非リア充と化した現実を突きつけられることなくシームレスに二周目に突入できるのは、プレイヤーとしてはありがたい配慮だ。

 が、今この状況ではとてつもなく余計なお世話。



 ただ、この世界ではそのループ処理は一体どうなるんだ? ていうかまず、この世界は何なんだ?

 そもそも好感度もエンディングも存在しない八重垣くんを攻略しようと奮起して、この先未来はあるのだろうか?

 これから私は、一体どうすれば―――


「…まぁ、今は考えても意味ないですな!」


 御倉さんが私の肩をポンと叩いて、高らかに声を上げた。


「最悪初日に巻き戻ってループになっても、もう一回高校二年生を遊べる!って思えばいいよ!」


 御倉さん…底抜けに明るい人だ。こんな状況なのに前向きすぎる…。

 でも私も、彼女の言葉を聞いているうちに、だんだん気が楽になってきた。

 今ここでいくら考えたところで、答えが出るわけじゃない。ループ当日にならなければ、結局のところどうなるかは分からない。


 転生前の記憶が無いから分からないけど…どうやら私も、底抜けに能天気な性格だったのかもしれない。

 今は、この状況をとことん楽んだほうがいい。そう思っている。


 笑顔を浮かべる御倉さんに、私も笑顔で返した。


「そんじゃ大姫さん! 転生者同士、ヨロシクッ!!」

「御倉さん、声、声! 声量!!」



 明るくて愉快な女友達ができた。


 この世界のことは分からないことだらけだけど、今日はきっと良い日だ。

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