第13話

13


「ネズミの前に、レバーを置くんだ。そんで、レバーを引くと……」


「エサが落ちて来るんでしょ? そんで次第にネズミは元々興味なかったレバーを引きまくるようになるっていうやつ」


 俺がマリーに殺されずに済むよう説得しようと持ち出した実験の話を途中で食い気味に続きを言われてしまう。


「なんで知ってんだよ?」


「karekusaで調べたのよ」


 そんな普通じゃ興味持たなそうなことまでしってるとか、こいつこの短期間でどんだけネットやってんだよ。


「で、それが、なんの関係があるってのよ?」


 と、マリーは挑戦的で、威圧的に促してくる。慎重に、慎重に話を持っていこう。


「……そうだな。マリーはさ? この実験からわかる事ってなんだと思う?」


「ま、調べた限りだと、生物の行動プロセスってやつよね。元々ネズミからすると興味のなかったレバーが、それを引くこととエサが貰えるということを結びつけることで、レバーは押したいものになる。つまり、条件付けによって生物の物への反応が変わるってことかしら?」


「そう! そうだよさすがマリーお目が高い!」


 マリーの返答にすかさず拍手で返すと、満更でもなさそうにふんぞり返って「……まぁね」なんていう。おや? 褒められるのは嫌いじゃないみたいだな。


「と、いうことはだ! 物事への反応は変えられるって事だと思わないか? それがネズミじゃなくたってさ?」


「まぁ、……それはそうね」


 そう肯定するマリーの声色は先程より柔らかい。


「じゃあ、俺のゴキブリに対する反応だって変えられるって、思わないか?」


 これはチャンス! とばかりに畳み掛けるように言うと、マリーは腕を組んでしばらく考えたあと言った。


「……でも、どうやって?」


「…………え?」


 しまった、考えてなかった。うーん、ゴキブリを引きながらチーズ……は意味不明だろゴキブリを引くってなんだよ言っただけでマリーに頭吹き飛ばされそう。ーーあとはなんだ。ゴキブリを触りながらおっぱいを揉む! ……まず誰がおっぱい揉ませてくれんだよ。……うーん。


「ーーそう、思いつかないのね?」


「……いや、その」


 なんとか否定しようとするも、マジで何も思いつかない。


「ふーん………はぁ」


 そんな俺を見て、マリーは長い溜めのあと1呼吸ついて言う。


「まぁいいわ、1週間したらまた来るわ。その時にゴキブリを好きになってたら勘弁してあげるわ」


 そう言うマリーが、少し安堵したように見えたのは、きのせいだろうか。


┌(・ ω ・ ┐┐)┐


「……そろそろ大丈夫かな」


 マリーと約束してから3日が経った。あれから俺は、寝る間も惜しんでゴキブリに触れていた。触れていた、とはいってもそれは擬似的にだ。ゴキブリの動画を見ながらご飯を食べたりお酒を飲んだり、ゴキブリのフィギュアを超リアルにペイント(俺はプラモデルが得意なのだ)して顔の上に乗せながらエロ動画を見たりして一生懸命ゴキブリと快楽を関連付ける神経回路の構築に明け暮れた。


「流石にいけるよな」


 今、目の前にあるのは汚れたマンホール。このマンホールは当たり前だが下水道に繋がっていて、この辺り1番のゴキスポットなのだ。俺はそのゴキスポットなマンホールをサンダルを脱いだ素足で踏みつけた。


「ーーさぁ、……来い!」


 言い終わると同時、マンホールの端の穴から三びきほどのゴキ様が姿を現す。


「やぁやぁ、これはこれは」


 修行の成果か、ゴキブリを見ても取り乱さない。これは、……いけるか?


 カサカサっ。


 なんて思ってると、そのうち1匹がやたらと素早い動きで走り出し、あっという間に俺の足の親指に……


「うわぁーーーーっ!」


 まずいな。このままじゃ俺の余命は、あと4日だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る