聖教国編
戻り始めた光景
エリューズニル、娯楽室。
「ねー、フーちゃん」
「なーにヘルくん?」
「そろそろ足の感覚無いんだけど……」
「だいじょぶ?」
「だいじょばないから退いてくんない?」
「やぁだっ!」
二日間。
これは寝食そのほか諸々の必須事項を排除した自由時間中、フーちゃんが俺の膝の上に乗っていた時間の連続記録だ。
そろそろ血流の問題で足が腐ってもおかしくない……は言い過ぎだけど、足が痺れ続けて地面に足がついている感覚はもう結構前からない。
「ニヴル~、助けて~」
「フレスヴェルグ、屍王を煩わせるとは何事ですか。大体、忠臣が王の膝に乗るなど言語道断です。恥を知りなさい!」
「へぇ~、ニヴルちゃんそれでいいんだ~?」
「……なんです?」
ニヴルに言わせればムカつくニヤケ面でにひっと笑ったフーちゃんは、これでもかと煽りながら言葉を繋いでいく。
「忠臣が王の膝に乗っちゃいけない……そんなこと言っちゃったらいつか自分の首を絞めるんじゃないかな~?」
「ッ……そんなことっ」
「ないかな~? ほんとにないのかな~?」
「ぐっ、ぐぬぬ……」
「……ん? え? ニヴル?」
ぐぬぬとかマジで言う奴初めて見たわ。
だが、心配はない。ニヴルは右腕兼八戒のまとめ役。こここそ、彼女の辣腕の振るわれ時だ。
ニヴルの交渉術を刮目するがいい! ふはは!
「屍王、ここは甘んじて受け入れる以外に道は……っ!」
「右腕ぇ……?」
俺の右腕が雑魚過ぎる件……。
そんなやり取りをしていると、娯楽室の扉が開かれた。
決して低くはない扉を潜るように部屋に入ってきたのは、我らが鍛冶師グルバじいちゃんである。
「若よ、少し良いかの?」
「だめだよ~、今はフーちゃんのじかんっ!」
「なぁにを言っとるんだフレスヴェルグ。昨日もそうだったろうに……」
グルバは俺の困り顔と傍でおろおろしているニヴルを交互に見ると、長いため息を一つ。
「そろそろ離れい」
「あ~、っちょっ! じぃじ~……」
よっと! とフレスヴェルグを持ち上げたグルバは呆れたように苦笑いを浮かべる。
「若が何をしたか知らんが……一夜にして甘えきかんぼうに逆戻りとは、良いのか悪いのか」
「ありがとうグルバ、助かった。俺の足が」
「よいよい。フレスヴェルグ、それにニヴルよ。竜子とガルムが探しておったぞ、酒だとよ」
「……あの駄竜、不夜国で買い漁ってましたからね。まぁ、酒の席なら大人しいのでまだマシですか」
「むー……いいもん! 今度はヘルくん抜きで楽しんじゃうもんねー!」
グルバの腕から離されたフーちゃんは跳ねるように部屋を出ていく。ニヴルは一礼すると、続く様に部屋を後にした。
なんとも空気の読める子たちである。
心地よい騒がしさの消えた娯楽室でグルバは少し声の調子を落とした。
「若よ、例の武具が完成したぞ」
「おっ、マジ? 流石早いな」
「鍛冶神の名は伊達ではない」
「まあ、疑ったことは無いけどな」
「がははっ、嬉しい言葉だのう。それにしても、なかなか面白いものができてのう。名は
「うわ~、なんか性能予想できるけど便利そうだな! クールタイムさえなければ……」
「使い道は慎重に、だ」
満足気に頷くグルバは一息つくと、こちらを案ずるように見下ろす。
「あの盗賊たちの言っていたことが気になるか?」
「んー……まあね」
不夜国から盗みを働いた盗賊たち。その依頼人だったヘルヘイムを名乗る組織。よりにもよってその狙いがLv10
これはきっと180年前から続く、遺恨の延長に存在している出来事なのだと考えざるを得ない。
だからこそあの女神は俺を呼び戻したのだろう。
だが何故、あの女神は細かい事情を説明しなかったのか。
ヘルヘイムが暴走しているとして俺を呼び戻したにしては実態が異なり過ぎている。
今はとにかく情報が必要だ。
「グルバ、今時間は?」
「ちょうど夜半ばだのう」
「……そっか、ちょっと出かけてくるよ」
「どこへだ?」
「不夜国。エキシビションマッチで戦った紅華と会ってくる。ヘルヘイムについて何か知ってるかも」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます