一日を気持ちよく始められる“音”や“色”そして“香り”が詰まった作品。
- ★★★ Excellent!!!
僕は、地方の田舎で営んでいる小さなうどん店の朝に、ずっと憧れを抱いていました。そしてこの作品には、その情景がまさに描かれていて、読むうちに自分がその空間にいるかのような錯覚さえ覚えました。
僕の理想には、田んぼの真ん中、雑木林の近くに建てられた小屋の中で、日が明けてすぐに仕込みに取り掛かるうどん職人の姿がある。
静謐な空間に響く包丁の音、煮だした鍋から昆布出汁の匂いが仄かに香り、薄暗い店内に朝の柔らかな光が年季の入った木枠の窓から差し込む。
七時になって店を開けると、朝食にうどんを食べに来た仕事前の人々でにぎわい、店内はうどんをかっ込む音で満たされる。時折聞こえる常連たちの世間話。そんな日常が、彼らの当たり前だった。
僕は夢想する。一日をこうやって始められたらどれだけいいのだろう。
この作品は、実際に、そんな朝を過ごしてみたくなる。
そういったパワーを秘めた物語でした。
忙しい日常の中で、ふと立ち止まりたくなるような静かな時間を感じたい方には、特におすすめしたい作品です。