500~

501 汚れた手で抱きしめたりはできないから


カーテンを引いて、銃声を隠して。星屑を眺める横顔がフラッシュバックするけど、真夏の向日葵を撫でる君が脳裏に焼き付いているけど。僕は君が眺める星を作る役目、隣にはいられない。いつか僕が同じ仕打ちで星になったとして、君は僕を綺麗って言ってくれるかな。僕は君に精一杯の光で、愛を伝えることができるのかな。

やっぱり無理か、僕の光は鈍いから。



502 深夜2時のおまじない


丑の刻参り一日目。正直初めてでかなり緊張しているが、ただ見られなければいい。見られなければ良いだけだから…………あの子に蔓延る邪魔な奴の写真と一緒に藁人形を貫く五寸釘。バレちゃいけないのに、恨めしいと思うほど釘を打つ強さが強くなってしまう。木に深く突き刺さっていく鈍い音とカーンカーンという音が小気味いい、七日目まで頑張らなくちゃ。絶対バレないように。



503 君の笑顔を収めたい


ん、この写真?そう、あの子の。ほらあの子ってさ、写真嫌いじゃん。どうしても一人で写ってる写真撮らせてくれなくってさ…でも、彼との写真は喜んで撮るの。だから、二人で撮らせた。でもね、こんな男の写真は全然いらないの!だから切り取って、こう言うふうにスマホにあの子の方だけ入れてあるんだ。可愛いよね本当に。

こんな笑顔、私には向けてくれないのが余計に。



504 君にも芽生える嫉妬心


ごめーん、遅くなっちゃった。おんなじ教室の子と話しててさ、会話が弾んじゃって。

ごめんって、そんなに怒らないでってば、嫉妬してるの?可愛いなぁ。

この後遊びに行くんでしょ?怒った顔も可愛いけど、そんな顔で歩かないでしょ?

…やっとわかるようになったんだね、僕の気持ち。君が他の男と話しててどれだけ苦しんだか…わかってくれて僕は嬉しいよ。



505 狂おしき愛おしき世界


虹色に色づく地平線と人差し指に纏わり付く残り香。金色の装飾のあしらわれた砂時計は人々の羨望の眼差しを集め、欲と力に飲み込まれる三千世界。

栄華と衰退、諸行無常を絵に描いたような無情の世界で人間は生きる。

思い描く世界の繁栄と現実とのギャップに苛まれながら生きていく、そういう世界。



506 相入れない幻想


君の目指す物とぼくのそれは相入れない物だ。全ての幸福を願う君と、世界の破滅を望む僕はどう頑張っても二人手をとって願いを叶えることはできない。反発する、君の言う「仇為す物」が存在する限り、君の望みは叶わない。何故なら君の望む全てに、皮肉にも僕は参入しているからだ。さぁ、血で血を洗おうか。君と僕の、どちらかの理想郷ユートピアの為に。



507 黄金の旅路を模索して


汚れ役で在れ。運命に噛み付く、世界に仇成す狂犬で在れ。

どうせ理解されないんだから寄り添っても無駄なんだ。

周りは本質を覗いてはくれない、皆甘い菓子に惑わされて夢のような幻想を思い描いてるだけ。只夜風と通り雨が頬を撫ぜる。

黒い世界に走る緑と青い雫だけ、色を持って接してくれて。

それに救われて、それだけ。



508 いつかきっと全部手に入れる


私は世界がわからない。嘘の愛の方が喜ばれるなら、嘘で塗り固めた私のままでいいたかった。でも、本物ってものも試したいなって思って。だからみんなが文句言うのを退けてあなた達に歌うんだよ。やっと言えたって、こんなに待たせてごめんねって。

これは絶対嘘偽りない本心だから、愛してるって。



509 包み込む善意


もう、また泣いてるの?全く。あなたは怖がりで泣き虫で、あたしが居ないとなーんにもできないんだから。でも、そう言うところが可愛くて、愛おしいって、思うんだよね。ほら、涙拭いて。楽しいことしよう。ずっと先で、悲しい思い出より、楽しい記憶を思い出せるように。



510 思考放棄の理論


ああ嫌だ嫌だ。やることなす事見返りが求められてさ、本当に嫌になっちゃうよ。みんなみんな捨て去って自分のやりたい事だけやりたいよ。無責任に「俺は知らない」ってシラ切って。でもそうすれば勝手にしやがれって見捨ててくれるから、楽しくやってりゃ問題ないのかもなって。



511 世界に抗うエゴイズム


僕がどう生きようと、何をしようと、壊れようと、苦しもうと、死のうと。世界はそんなこと気にせず明日を迎えて、きっと君も僕のことを忘れていく。そんな世界は冷たいようで、それを世間は合理的と片付ける。そんな「普通」に抗うように、僕は言葉を遺す。この何のお面白みもない記号を誰かが手に取って、読んで、僕を思い返して。僕に縛られる、そんな僕の喜びの為の生贄が欲しい。



512 幸せな悪夢


善い、夢を見た。それは何て事のない日常で、温かい飲み物を飲んで、家族と団欒して、友人と話して、波風も陰影も無い日常。

嘗て欲した物を具現したような「平穏」。あまりに苦しい毒だった。痛いほど焦がれて二度と手に入らない物をありありと見せつけられる、あまりに稚拙で幼稚な理想郷だった。私が真に望む幻想は、それらを全て崩し倒した先にあるというのに、そんな都合のいいハッピーエンドを深層で望む、悪夢だった。



513 (脂肪燃焼の為に)走れ私


私は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の体重計を滅ぼさねばならぬと決意した。私はダイエットがわからぬ。年末年始に親戚に渡されるまま目の前の美味しい料理を平らげているだけだった。だが体重管理に関する女子トークについては、人一倍敏感であった。

「頑張って⚪︎キロ減らしたんだ〜!」という何気ない会話に対して「…転送されてる?」と思念するほどには敏感なのである。



514 君の其の疑問にいつか答える時がくるから


…君は何で満たされない器に愛を注ぐの?君がどれだけ無償の愛を捧げたとしても、みんなは君を馬鹿にするばっかりだ。はじめはみんなでお互いの心に愛を注いでいたよ、でもみんな諦めて栓をして配っていた愛を自分の中に閉じ込めちゃったんだ、君も知っているだろう?きっと君が心を枯らしても誰も助けてはくれないよ?君の優しさがこのままじゃ君を追い詰めちゃうのに、君は何でやめないの?



515 正常な適応障害


生物の生態は適応で構築されている。世代を跨いで進化していく適応事象より、急速に、加速的に行われるのが精神状態の適応だ。人間は孤独に慣れ、寂しさを、情を忘れていく。それは決して枯渇ではなく、耐えられない現実からの逃避…適応に基づいた精神状態の移り変わりなのだよ。見てみたまえ、私の目を。もう澄み切った世界を写すのを拒んでいるのだよ。



516 全てを捨て去って、裸の心の君と会えるなら


理解って欲しいとは思わないさ。こんな灰色で楽しくもない世界、君に見せたところで人生の浪費だからね。ただこうして手を繋いで、君と一緒の時間を過ごして、この濁り切った心を溶かし込み、本当の気持ちを伝えられる、そんな幸せを共有したいだけなんだ。「今」の話をしよう。これから作り上げられる未来を。その話を。



517 血迷うな!もちつけ!!!


…めっちゃ変なこと言っていい?なんかさもう、男でいることを諦めようと思うんだよね、俺。え?うん、正気だよ。

なんかさー、どれだけ頑張っても空回りな気がしてさ、早い話、かっこよくなれないなって。うん。だからもう逆に可愛い方にシフトチェンジしてやろうかなと。え?熱はないよ。うん。いやだって想像してみろよ、可愛い俺。おい、何顔を真っ青にしてドン引いてるんだよ、もう服注文しちまったんだからな。



518 mgに込められるSOS


紫煙は天へと昇っていく、それは人を蝕みながら、心を救う独善的な玩具であると同時に、孤独を示す、救援の狼煙と化ける。

後ろ指を刺される其の害煙に、寄り添って欲しいとは願わない。

孤独を理解しろとはあまりに難解な題であり、それは決して望まれない。孤独を知らしめるために、今日もまた煙を上げるのだ。



519 毎年やってくるレイドボス


嗚呼、不味い、今日もこの時がやってきてしまった…くそっ、やってきてしまったモノはしょうがない、私はこのアタタカーイ=オフトゥンと離れ離れになってあの魔境、ショクーバに行かなければならない…!やめてくれ、離すんだオフトゥン!私だって寂しいさ、本当は離れたくない!でも私は行かなければならないんだ!行かなければショクーバのMaster(ネイティブ)に成敗されてしまう…!



520 愛しのあの人はは振り向いてくれない


ウルセェ!はなせ!俺は何としてでも会いに行かなきゃならないんだ!この日のために全てを捧げて、全部を犠牲にしてきたんだ、もうこれで終わってもいい、だから、だから!!

推しよ!!!!!!!!!出てくれ!!!!!!!!!!!青天井ガチャでピー十万入れてお迎えできないとは言わせないぞ!!!!!!!!なんだ、何が足りないんだ??!!ガチャるボタンを押すたびに頭倒立をしているのに!!!!!!!!



521 拗れ逝く世界を眺めて


嗚呼、また失敗と成ってしまった。。次こそは上手くいく算段があったのに、この手すら通用しないとなるとは…うむ。困ったものよ。お転婆な我が娘を育てた時もここまで手を焼くことはなかったよのぉ。嗚呼忌々しき人間。こうも我が構築する世界を侵略するか。まぁ良い。この世界は破棄だ。次を作り上げて調整を確立させねば…

緑の星の、真の終わりを見るために。灰色に塗れた世界を脱却するために。



522 素直になれないことも悪にはなるかな。


言わなきゃ伝わらないとか、助けの手が目の前にあるとか、自分の選んだ道のせいで今苦しんでるとか、全部全部、全部!わかってるよ…!…私はバカだから一を覚えた後に二を言えないんだ。今苦しい茨の道を歩いた方が、見えもしない希望を探して彷徨うよりずうっと生きやすいんだよ。今歩んでる道に救いの手は導けないし、私が救われるのは悪で、もうこれでいいやって思ったんだ。だから、いいよ。君も僕を見て笑えばいいんだ。



523 難しいこと一緒に考えて、一緒にいよう?


きみと、ぼく。おそろいの歩幅で。たのしい話をして、いろんな所に行って。

てを伸ばせば、きみには届くから。届いてたから。でも怖いんだ。きみがいつか、いなくならないかなって。忘れないかなって。私といるより楽しいことがたくさんあふれて。きみはいつか言うんだ。「一人で大丈夫」って。わかってる、わかってるよ。こんな子供みたいなわがまま、ダメだもんね。だからさ、言わないよ。言わないけど、「ずっと一緒にいたいな」って、「しあわせになんて、ならないで」って。

思ってる、だけ。それだけ。



524 捻じ曲がった生き様で


幽玄ゆうげんを目論んで。黑く、蒼い地獄を俯瞰して。崩落する理性の狭間、刹那に感じる極光。むくろの栄養を吸い上げて咲く一輪の花のように。愉悦などなくて、貴方には愚かにも笑顔を望んで。深く芳醇な死の香りが付き纏う諸行無常の幾星霜いくせいそう。苦し紛れのこの世界の生も、享楽に染めて、君の口角が歪んでも、僕の瞳のように上を向いていりゃ、其れで良い。貴方も堕ちてみやしないか、こんな極楽に生き延びるよか。



525 性格が悪いは褒め言葉さ


君は言ったよね、「君はこわいから」って。「君はそのうち壊れて死んでしまうんじゃないか」って。心配してくれて。おぼつかない僕の足取りに合わせて、並んでくれて。感謝はしてる。君に尊敬の念も少なからずあるさ。でも安心してほしい。一息をおいて考えて僕は思うんだ。どうせいつか死ぬならいつ死んでも変わらないだろう?

世界に歯向かうために頭の悪い、狂人を演じても滑稽で良いじゃないか。

わざわざありがとう、こんな僕を。でもこれが僕の答えなんだ。



526 閉じ込める苦悩


死を願うのは恥ずべき事では無くて。苦を避けるのはやましい事では無くて。

涙を零すのも嗚咽おえつを漏らすのもきっと世界の誰かは許してくれることだけど。

生に権利が付随するのと何ら同じように義務があって、私は其れを消化しないといけないのだ。其処に苦悩を見出すのは烏滸がましいし、人間として卑劣なのだ。

私は人間を頑張らなければいけない。人の言う「まとも」で在り続けるため。



527 愉悦の教義


人間の本質は理解であり、其れを妨げる或いは拒むことは難しい。寄りかかろうとした指標に金を集られる心休まらない世界で、理解を強要されながら冷えた大地を歩く。狂うも許されず、理解も求められない、安息などあった物もない。生傷も絶えないまま癒えない今日を楽観して、どうにか成るならどれ程良かったものを。



528 もう何もわからない、わかりたくもない


ボクはいつもいい子でいたいと思ってるよ。でもそれを思うのは本当のボクじゃないんじゃないかって、いつも思うんだ。狂演を模倣する「私」が思っているただの別物なんじゃないかって。本当のボクの感情はもう奥底にしっかり仕舞われていて、それはもうボクのようで私でしかない何かなんだと思ってしまう。だから感情に重みなんて生まれないし、涙も湧かなくなってしまう。



529 ぐちゃぐちゃの心を君は掻き乱したままだから


僕はいまが、君と隣を過ごす今が怖くて仕方ない。

この宝石のような、結晶化した二人の思い出が、埋もれて、灰を被って、褪せてしまうのが怖くて。僕と君がお別れするときに、この思い出は枷になるから。君はこの鎖を壊すだろうけど、僕の足元には重みを持って据え付けられたままだから。だから僕は今が怖い。必ず来る悲しみを、助長し続ける今が怖いし、愛しくて、嫌いだ。



530 削ぎ落とした心の根っこと散らばった骸


感情を出すのは悪だと信じ込んで生きてきました。何かに愛し愛される事は幻想で、己の枯れた器に満たす愛すら投げ打って地べたを這いずってきました。

こんな醜悪な僕の心の発露なんて、渡しても迷惑なのだろうと信じてきました。

でも貴方はそんな私の自分勝手を許してくれませんでした。だから貴方にだけは、苦しいけど、恥ずかしいけど、申し訳ないけど、嬉しいから、言うんだ。ごめんね、だいすきだよ。



531 拝啓、私の中の何者でもない人達へ


貴方が見た私はどんな私だったのでしょう。都合の良い駒だったでしょうか、良き友人だったでしょうか。きっと君から見た私もその逆も、ただの通行人に過ぎなかったのだろうと勝手に思っています。貴方への上っ面を友愛と受け取った貴方には嘲笑しかありませんが、貴方に寄せた仮初の感情を取り下げて、これだけは吐き捨てさせて頂きたいのです。左様なら、有り難う。こんなに容易く引っ掛かってくれて。



532 ロマネ・コンティの夜会


美しい…深い艶を湛えたこの真紅に映る此れは、逆さまに映る摩天楼を鮮烈に、眩く、包み込んで。燃える様な赤に比類なき鮮血のようなこの年代物は、私の夜を惑わして仕方ない。酔いしれる悦びが五臓に染み渡るこのどうにもならない逃避行を、貴方は私と逝くかどうか。決めるのは私、我儘だから。



533 夜の帷を超えないでいて


瞼を下ろして、何も見ないでいて。もう、そんなに睨まないでよ。愛する君にだって見せたくないものくらいあるさ。こんなクソみたいなこの世のゴミなんて見なくて良いのさ。血溜まりと注射器が転がるこんな世界は君は知らない方がいい。観測すら烏滸がましい、僕が逃げ出したい世界。君に見せられない世界。



534 殺したい程愛しても、君には伝わらないから。


汚れた愛なんて誰も受け取ってくれやしないから。汚い愛を磨いて、叩いて、壊して、くっつけて。見てくれのいい、本心とは程遠い愛をこさえて、またそれでもまた躊躇って。誰の愛も求めてないのに誰かに愛されてみたくって。誰も信じていないのに誰かを愛してみたくなって。こんな矮小で弱っちい俺の心の内なんて誰も求めてないから。だから俺は何も求めなかった。求めたくなかった。求められなかった。



535 桜吹雪、乱れ泣


さぁさ花形を飾るるは、脆きに塗れた生涯を閉じる、大団円を目指す男の大一番。

その狂った目に常世はどう映るか、はたまた映っているのか。こんな時代におあつらえむきの狂歌を奏でて、太く短い蝋燭の火を吹き消すか。さぁ張った、お膳立ては終わり、客席も温まってきた所存。さあ舞え、心の赴くままに。



536 白く濁っては消えないや


突出する長所もなく、可も無く不可も無く。型に当てはめられたこんな生涯がノイズと嘲られるなんて。切り取られた僕らしさはもうゴミ箱の中にあるのに、それを拾い上げるのは恥ずかしいことだって教え込まれて。そこから何者かに成る為足掻くのはみっともない事だって丸め込む、君のその思考すらノイズなんじゃないかって。



537 炙ったんちゃうかくらい黒かったそうです


いやー、あのね?私だって頑張ってるんだよ?これでも一生懸命にやって、自分なりに考えてやってみたつもりなの。決してそこに悪意はなくって、その、改良を重ねた結果化学反応で悪くなったっていうか…だから、その、あのね?

その炭は、食べなくっていいから!頑張って卵焼きにしようと頑張ったけどそれはもう食べれないから!吐き出して!ぺっしなさい!!!!ぺっ!!!!!!!!



538 聖バレンチノの微笑み


あまーいチョコを、私の恋心の温かさで溶かして。中途半端な小細工はしない、不器用な私の、精一杯の想いを型に流し入れて整えて。綺麗にデコレーションしたら、気になるあの子のだけおまじない。バレちゃったら恥ずかしいけど、今日はその恥ずかしさも武器になる。受け取って欲しいな、私とっても甘くてスイートな、思いの結晶を。



539 見返りは私の感情の三倍返し


おはよぅ。はい、バレンタイン。どーせ、君はモテやしないしチョコも一個も貰えないだろうと思ってあまりにも「みじめ」…だったから。特別に作ってやったのさ、首を垂れて感謝したまえ。あぁ、君の好みに合わせてミルクとビターの分量は調整してある。君の好きそうな形に整形してなけなしの友情もしっかり詰め込んでおいてあげたよ。じゃあ、…ホワイトデーは期待しているよ?



540 有象無象とは違う君の何か


大人の目を忍んで生きてきた。君ならできると言わんばかりの期待と羨望の眼差しに刺されながら、内心毒を吐き、取り繕った都合の良い笑顔で笑顔で受け答えばかりしていた。君の目が嫌いだ。他の大人とは違う、全てを絆して来るような君の優しい眼差しが、暖かくて、痛くて、大っ嫌いだ。



541 二人ダケノ夢想ノ世界


ねぇ、もうお休みの時間だよ。君と楽しく遊ぶ毎日は明日も続くんだ。だから、「今日」はもう終わりだよ。さぁ目を閉じて、明日の予定を考えながら夢の世界に一緒に旅立とうよ。僕と君の二人の世界はずっと続く。愛してる君との世界は、僕らの予定のように無限なんだから。大丈夫、僕が終わらせたりなんかしない。



542 哀憎


ふとした時に思い出す。あの時の首を絞めるような恐怖感と冷たい目、血の気のひく手足と巡らない頭。もう忘れたはずなのに、散々苦しめられて、背負わされた業を業を清算仕切ったはずなのに。気分が悪い、体がうまく動かない。やめろ、見ないでくれ。蔑まないでくれ。お前も、どうせそうなんだろう。僕を嗤っているんだろう、どうせ。



543 レンズに棲まう悪魔


昔の人は謂う。ピンボケだろうとモノクロだろうと写真に写った人間は魂を抜かれると。現像された自分の手を引いて、あの世へ誘われるとかいう伝承。さて、こんな話をしておいて何だが私は普通に写真を撮るのが嫌いだ。霊がどうとかそうういうチャチな話ではなく、写りが悪くてね。何かとボケたり、ブレたり、私じゃない顔が写ったり、そういうことが多くて、気味悪がられてね。…ところで最初の話に戻るが、君のすぐそばにも魂を刈り取る何某がいるわけなのだよ。



544 Mesmerize


君も、抜け出して見ない?どうにもならない有象無象を掻い潜って、煌めいて眩しいくらいのこの世界へ。悪い大人達は呆れた逃避行なんて嗤うけど、あんな娑婆でまともな感性なんて備わらないさ。どうせ君もあそこには戻りたくないだろう?なら来なくっちゃ。全部捨てて、君の望む世界を生み出さなきゃ。迷ってる暇なんてないよ?リスクなんていくらでも覆る。君が考えるべきものじゃない。



545 決まっていた運命だから


ごめん、やっぱりそっちには行けそうにないや。色々手も尽くしてきたし、やれるなりの努力はしたさ。手なんて抜いてない。でもダメなんだ。やっぱり君たちの隣に立つ資格は無さそうなんだ。…君たちがそんな顔をする立場じゃないだろう?僕だってこんなこと自分で言いたくなんか無いさ!でも、でも…どうしようもないんだ。僕は君たちみたいに真っ当に生きられる人間じゃないんだ。そう、初めから。



546 A brilliant battle to the death


ヤァ、やっと来たかい。いけないよ?君もその卵とはいえスターを待たせるなんて。

さて、役者も揃ったことだし…始めようか。君とボクのステージを。世間はボクが勝つのを望んでいるみたいだけど…このアウェーの中、君はどんな風に舞ってくれるのかな?命を賭して、最高のエンターテインメントをお届けしようじゃないか!君は凡庸になるか、それともボクのようなスターになるか!楽しませてもらうよ。



547 忠義か、主従か、それか


申し訳ございません、少々遅くなりました。お怪我はございませんか?…ご心配をおかけしました、本当に申し訳ない。擦り傷も、この後お屋敷に戻ってから早急に手当させていただきますので、もう少しの辛抱を。…さて。お嬢様に手を挙げるとは、飛んだ無礼者がいたものだ。あなたがどこの手先のものか知りたくもないし知ろうともしませんが、とりあえず貴方…一旦死んでみてくれませんか、「私の」お嬢様を傷付けた、贖罪の為に。



548 胡散臭い其れは吐き捨てたばかり


ちょっと待ちいや、こっちもそちらさんと敵対する気は無いけん。こっちだってそちらさんと一緒でせかせか狡い事しちょるのは一緒やけん、まぁ穏便に行こうや。

目的と利害は一致しとるんや、ここはまぁ手を組むっちゅう事にしようや。

てかそちらさん、ヤマの把握しとると?その辺はウチはプロやけん、情報提供できるっちゃ。ま、気楽に行こか。今組んだ手をいつ離すかは知らん。けどそれまでは運命共同体で行こうや。



549 立ち去る君に心配は似合わないから


嗚呼、うん。もう行くんだね。わかってる。引き留めることはできないって、泣き言を言っても煩くて烏滸がましいだけだって。だから私は笑って貴方を送り出すの。ちゃんと笑えてなかったとしても、泣いてたとしても、私の精一杯の笑顔で。私?私は大丈夫だよ。うん、心配ないよ。ちょっと傷付くだけだから。どうせすぐに戻るの、私は強くないといけないから。なんてことはないよ、じきに私を朝日が刺すだけだから。



550 最初から苦しいのがわかっているのなら


あ〜あ、楽しかった。でも、楽しかっただけ。此れはもう過去になる、そしてまた未来は少し暗くなる。進む道に落ちる灯りを拾い上げて消し去る毎に、また先が見えなくなる。なんでみんな、こんな真っ暗闇を歩けるんだろう。…違うか。私の道に灯りが…「希望」が、「夢」が、ないだけか。あ〜あ、楽しかった。この楽しさが永遠に続かないのなら、いっそのこと夢も希望もなければよかったのに。



551 ±0へ落ち込んで


はい、おしまい。君との楽しい時間はここまでだ。

どう?楽しかった?嬉しかった?うん、私もとっても楽しかったよ。もう、「満足」でしょ?

満たされたんでしょ?救われたんでしょ?じゃあもう、「終わり」を考える時間だね。整合性に囚われなければ。正が盛れば負が落ち込むのは運命なのさ。だから、さ。君はこれから頑張らなきゃ。1人で、辛く、暗い、独りぼっちを。私のいない未来を、泥のように這わなきゃいけないんだから。



552 消えていく残響と染みついたあの日



嗚呼、何故出会ったのだろう。

嗚呼、何故喋ったのだろう。

嗚呼、何故…何故、愛してしまったのだろう。

君とで合わない世界があるなら、そこは平穏で、何一つつまらない、モノトーンの世界だったんだろう。君はそこに色をつけて、影をつけて、彩りを加えてくれた。

今となっては君に、私はどう思ってるのだろう。

嗚呼、友達なんかに、なりたくなかったな。そして叶うならば、友達なんかで終わりたくなかったな。

もう戻れないけど、もう遅いけど。もう呟いても空に消えていくけど。でも、これだけは、この本心だけは。さよなら、大好きだよ。



553 君も私と堕ちる運命なんだから



何、君も眠れないの?…おそろい、だね。苦しいよね、分かる、私もだから。…ねぇ、私たち、悪い子なのかな。私たちはこんなに苦しんでいるのに、みんな指さして陰口言ってくるんだ。それでまた苦しくなって、寝れなくなって。でも不思議だな、君といれば少し楽でいられるや。だから、置いていかないでよ。私が君がいなきゃダメなように、君にとっての私もそうであるはずなの。だから立ち上がらないで、遠くへ行かないで、置いていかないで…置いていかないでよ……!!!



554 何も求めちゃいけないんだ



人間が嫌いだ。人間らしくいようとするのも、人間らしくあれと言ってくるのも嫌いだ。秘め事を持ったままさも親愛なる隣人が如く接してくる人間も嫌いだし、そんなものに絆される軽薄な人間も嫌いだ。簡単に謝る人間も嫌いだし、偏屈に我を貫き通してくる人間も嫌いだ。あと何も信じられない人間が嫌いだし、簡単に信じ込む人間も嫌いだ。…まぁ長々と述べて、要は私は私が嫌いだ。これに全て当てはまる、何も求めてないようでその実何もかもを求めている自分が嫌いだ。



555 すぐそこの終点



なんだ、そんなのでいいの?そんなのでいいのならいくらでもあげるよ。僕にはもう必要ないものだからね。僕の心くらいならいくらでもあげるよ、君が満足するのなら。そこに何か特別なものはないけど、ただの利得の一致でしかないけど。君がこの薄っぺらくていつか消えゆく愛で満足するなら、僕はさながら救世主のように愛を振りまいてあげるよ、大好きって、愛してるって。いつか本当に最後の時、あの言葉に現実を帯びさせられたらな、なんて叶いもしないことを願いながら。



556 大人に成る、ってことは



何、何なの。だから、お前の事はもう立派な人間と思って見てるから。だから、もう今までみたいに甘やかす必要は無いし、たって歩く手助けもしてやらないんだ。君ならできるだろう?まさか、私に依存して一人で生きて行けなくなった、なんて泣き言を言うんじゃないんだろうね。俺は悲しいよ、俺はそんな子に育て上げたつもりは無いのに。嗚呼、もういい。1人でどうにかしなさい。お前はもうできる「大人」なんだから。「だって」も「でも」ももう要らないんだよ、行きな。



557 望まれない生き方を勧めるなら


今まで今まであれだけ型に当て嵌めておいて、君ならできるだろうから、なんて。世間はどうかしているのかもしてない。何者かで或る事を制限され続けた挙句、そこから何かを成し遂げてみなさいだとか、無謀にも程がある。でも周りはできると思っている。俺が苦しみにのたうち回りながら進んでいる喜劇を望んでいる。じゃあ、行かなきゃならない。オーディエンスを失望させないためにも、俺は前に進まなきゃいけない。



558 Gate one



夜の道に消えていく幻想、蒼く暗い路地裏の果てに消えていく光と、新たな、明日という世界につながるゲート。無機質で只眩い光で、僕らの足を誘っていく。穏やかな、漣のような旋律に足を取られ、僕らは深海へ落ちていく。広大な瀑布の先に望む陽光に刺すような赤はなく。只々白く、原初の色が、世界を淘汰していく。包み込んでいく。



559 まだきっと、いつまでも、夜明け前


もう、空も明るくなってきたね。…まだまだ大丈夫だよ、ここからの方が夜は長いんだから。まだまだ楽しい夜を続けようよ、君と僕の二人で、さ。嫌になったら、疲れたら、眠くなったら、一旦しおりを挟んで寝よう。また明日、同じ場所から歩き出そうじゃないか。この何者にも邪魔されない一本道を、君と他愛もない話をしながら、ずっと歩いていくんだ。



560 この遊びも楽しかったね、あれ、僕だけ?


あーあ、楽しかった。え?ここまでだよ。君と僕との友達ごっこはここで終わり。さぞ楽しかっただろうね。今まで見た事ないくらい笑顔だったんだから、君。これから訪れる暗い未来も知らずに、さ。可愛かったよ?まぁ本心で思ってるかどうかは、僕自身にもわからないけど。じゃあ、またねの時間だ。次会えるのは別の世界かもね。

おっと、後追いは無しだよ?尤も、君に後追いをする勇気なぞないだろうけど。



561 業務シリアルじゃない、君の名前を。



「ねぇ、電気をつけてよ。」そんな些細なことすら君はできない、知らない、聞き間違えの一辺倒だった。遊び心のあるような無いようなヘンテコな返ばかりして、よく困らされたっけ。おかげでストレスは溜まる一方だったさ。でも、でもね、君が僕を楽しませるように色々調べ回っていたのも知っているんだよ。…ねぇ、音楽でも流してよ。君の寿命に、こんな閑静な空間は似合わないよ。



562 Bad Hard Dance Party


あ、君も結局来たんだ。どうせだし僕がかける曲、聞いて行ってよ。

え?なに?「っぽくない」?酷いなぁ、僕はこの方面の音楽に魂売ったのに、まあ見た目とは合わないってのは自分でもわかってるけどさ。でもこう言うのって音楽をいかに好きかが全てを語るじゃん?だから僕の好きな音楽を好きなように流す。君らは何も考えずに音に乗っていけば良いんだよ。



563 君を癒す事はないけど、それでも


ん、お疲れ様。君がどれだけ苦しいのかは僕はよくわからないけど、でも君の話を聞いてあげることはできるんだよ。とは言っても、本当に聞くだけだけどね。

だから、だからね。苦しかったら隠さなくて良いんだよ。なんでも聞いてあげる、慰めたりは無いけど、労わることはないけど。でも君を思う事はできる。だから、逃げたかったら僕と一緒に遊ぼうよ。僕はどこまででもついて行ってあげる。



564 眠れない僕たちの舞踏曲


五月蝿いくらいのめぐる思考、抗ってリピートする音楽はいつも馬鹿みたいに頭を振る曲ばっかりで。一辺倒な四つ打ちに身を任せて踊って、疲れて、全てを忘れて。苦しみから解き放たれるために命を前借りする、バカな生き方しか知らないを僕らを、大人は嗤うけど。でもこれがいいんだ、これじゃなきゃダメなんだ。僕らはこれしか知らない、これが最適解だと信じて疑わない。だから、こんなネオンに照らされた夜がいいんだ。



565 心からの賛辞だとか


君は僕の事、どう想っているだろうか。君は僕を好いているだろうか、嫌っているだろうか。僕は君のことがよくわからない。君を愛しているはずだし、好いているはずだけど、その感情も空虚で希薄だから、君たちの言う尺度の愛は理解らない。

広義で言うならいい意味で俯瞰的、悪く言えば君たちに何も想っていない。こんな僕を愛するほど、君は頭も悪くないだろう。嫌ってくれ、僕もそれでいい。僕は何も思わない、思えない。だから君を好いている感情も、ひた隠しに生きていく。



567 社畜の日常(実話)


はい、お疲れ様です、おはようございます…はい、はい。今から、ですか?あーはい、ラストまでいけます。はい。休憩さえあれば、あ、今日やばい日。了解です。一応13の想定で準備しますね。はい、30分くらいで行くんで。はい、はい、失礼します〜。……はぁ。行くか。嗚呼、頭痛い。コーヒーだけ飲んで行こう。

…金を稼ぐと思って、そう、金を稼ぐための労働だから。…あっ、連勤接続…いっか。11なら何とかなるか。



568 それが「私」という人生であって


僕は弱くて、惨めで、苦しみという罰を受けながら生きていくことを義務付けられている。そこに思い込みや主観はなく、燦然とした事実としてそこに存在する。僕は路肩に咲く花ほど尊くないし、手を繋いで笑い合う子供ほど純粋で清廉でもない。醜い僕は何者にも救われてはいけないのだ。僕の幸せは誰も望んでいない、幸せは悪であり、苦しみは罰であるのだ。それに耐えきれなくなって逃げ出したからこそ、僕の罪は加速する。



569 断罪、断頭、裁と判決


お控えなさい、貴方の命運はこの法廷の上です。嗚呼、暴れないでください、罪を増やさないで下さい。貴方が断罪されるのに対して感情は微小たりとも湧きはしませんが、後がつかえているのです。我々は与えられた業務を時間通りに遂行するだけ、司法に情はありません。貴方がどれだけ喚こうが罪は消えませんが…罪は「増える」ものです。理解ったらそこに跪きなさい。罪を裁き、貴方の頭を無情に刎ねてあげましょう。



570 供物としての命に価値はなくて


命を賭して、君を救う事が出来るなら。僕は喜んでこのちっぽけな心臓を捧げよう!

君はそんな選択に惑うかもしれない、怒るかもしれない、悲しみに暮れるかも知れない。でも、君は悪くないんだよ。悪いのは僕だから。君をそんな手段でしか救えない僕が、弱いのが、悪いんだ。僕が生きるより、君が生きる方が、世界にとってプラスに働くんだ。だから、僕はその生贄。君が先を見晴らす大山に積み上げられる一角になるのが、僕の使命であり、望みであり、最高の歓びなんだよ。



571 左様なら、あとは勝手に頑張れ


君は、こんな状況になっても僕を信じている訳だ。嗚呼、やっぱり君は可愛いな。どうしようもなく愚かで、救いようが無くて、愉快で、可愛い。君を眺めてるのだけは、結局最後まで飽きなかったなぁ、そういう意味では君は最高の友人だったよ。

まぁ、その仮初の友情も、それを打ち砕かれて泣きじゃくってる君を眺める布石だと思うと、無情って感じだよね。ほらほら、泣かないの。君はこれからひとりぼっちなんだ。僕を思い返して泣いて、僕との記憶で苦しんで、これからを僕に縛られて生きていくんだよ?こんなところで泣いて立ち止まってる暇なんてないんだ、ほら、立てよ。



572 こんなつまらない昔話、説く価値もないけど


君が聞いたら泣いてくれるであろう、昔話をしたい。何も知らない君にこんな事を教えるのは酷だけど、いつかは向き合わないといけないんだ。僕がどう足掻き、苦しみ、もがいて来たか。君は優しいから、こんな辛い話聞いたら震えて泣いちゃうかも知れないな。でも、これは僕なんだ。紛れもない、君の目の前にいる、「僕」の昔話。こんな腐った昔話をするからこそ、君をもっと知りたい。お互いがお互いを深く知り合って、そこから生まれる理解こそ、愛につながると思うんだ。



573 欲張りを揶揄ったのは君なんだ


さぁ、僕と遊ぼう。醒めない悪夢で、巡り廻る黒で、僕らの歪んだ愛で。

嗚呼安心してほしい、時間は沢山ある、君と遊ぶ玩具もある。澄み切った青空はないけど、僕らを悪に諭す大人もいない。僕と君だけの、文字通り楽園なのさ。

さあ、踊ろうよ。足が擦り減るまで。ねぇ、歌おうよ。声が潰れるまで。キミが飽きたら返してあげる。魂を還して、また巡った輪廻の後で、キミを連れ戻しにくるから。汚れを知らない、僕だけを愛してくれる、そんなキミとだけ遊んでいたいから。



574 錆びた鎧は廃棄にすべきだろう


君を守る騎士ナイトで居たかった。君をどんな困難からでも守れる盾になりたかった。君が望むのであればどんな殺戮も厭わない剣になりたかった。君の征く道を開拓する杖でありたかった。叶わなかった。全て叶わなかった、全部全部全部‼︎

どこまで望んでも僕は弱かった、君に心配されてばっかりだった、気を遣わせてばっかりだった。君の征く道に、僕は必要なかった。だから、もうさよならなんだ。使えない駒を気にかける必要はないんだよ、君は、人の上に立つ者なんだから。



575 知識にかまけた強欲の魔女


おかえり、結局今日も来るんだね、あきれるよ。仮初の幸せに逃避するんだから、いつ眺めていても人間は面白いよ。今日は何が欲しいんだい?お菓子でも紅茶でも、心ゆくまで出してあげよう。…何?話がしたい?そんな事のために対価を払ってまで来たのかい?っふ、あっははは!!!やはり人間は面白い!過去に何人にもこの楽園のアクセス権を与えたがそんな事を言ってくる子は初めてだ!いいだろう、話そうじゃないか。君が私との対話で何を得るか、私も興味があるのでね!



576 愛の逃避行


逃げたい?じゃあ、逃げよっか。えーっと、通帳と、財布と、傘と、着替えと、あとはえーっと…え?本気だよ?私は君が大好きで仕方ないから、君とならどこにでも行けると思ってる。どこでもやっていけると思ってるし、最後には幸せだと思ってるよ?それに、君が私を振り回すのは、今に始まった事じゃないでしょ?私は、君がいるから幸福なの。君がいない未来なんて考えたくないの!だから、一緒に行こう?私、山奥の一軒家に二人で暮らしてみたいな!



577 彼岸の密会


これでも、君のこと愛してるんだよ?…まぁ、君に言っても伝わらないだろうけど。嫌いだったら、わざわざこんな所まで会いに来たりしないさ、そうだろう?

え?頻度?だって君が年に一回でいいって言ったんじゃないか。年に一度、君が帰ってくる日だけでいいって。それ以外君の子の居場所は空っぽだからって言ったよ、君は。忘れたとは言わせないよ?君がやってくる一年に一度、君の好きだった花を添えて、君とこうやって他愛もない会話をする。それだけが、愛おしくて、本当の「幸せ」なんだ。



578 枯木の老骨


落ち葉のように何かを離れていって、地に堕ちる。社会の根幹を逸脱して周りの云う「残念」になって。「普通」を捨てるのは、側から見れば愚かな行為だけど、それはあくまで民意であって。俺がどう思うかは、どう動くかは、俺自身の意思であって、民意はそこに介入を許さない。いつか枯れるのは運命であるからこそ、そこに至る道のりは自分で選ぶものだ。



579 電波を桜前線に乗せて


もしもし。君はこの留守電をいつ聞くだろうな。桜が咲く頃に取った録音を君は秋晴れの季節に聞くだろうか。それとも巡った先の春で聞くだろうか。こうやって握りしめてるスマホも、君と会う頃には変わっているのだろうな。街並みも、人も、僕の心も、君が隣にいた頃と比べたら変わっていく。君は驚くだろうな。…嗚呼、会いたいな。君は一体何処に行ってしまったんだい?場所さえわかれば、君を今すぐ迎えにいくのに。



580 謝罪の軽さ


ごめんね、多分私が悪いから、先に謝っておくね。君がなんで悲しんでるのかも、よく分からないけど。でもきっと私が悪いと思うから。大抵私が悪なことが多いしさ?

私の謝罪に重みはないけど、周りがそれを望むなら私はいくらでも謝るよ。大丈夫!苦しくもないし、悲しくもないから。心配しなくていいよ、君を守るためだったらなんだってしちゃうんだから。だから、ね?そんな悲しい顔をしないでよ。君にもまた謝ることになるじゃん。



581 涙の筋を凍らせて


季節外れの、雪が降った。テレビが春一番を謳っていたお陰か、愚かな大人は足早に帰路を急いでいる。

音もなく降りしきる雪が連鎖的に振動をかき消して、体を殴る美しい結晶は薔薇の棘を思わせるがように脆い体から体温を奪っていく。

どうやら、僕泣いているらしい。この涙が疲れて重い体に降りかかる災難を嘆くが故なのか、儚く消えてゆく美しさに何処かの誰かを重ねているが故なのかは、理解の範疇にない。ただ一つだけ、絶対的に理解しているのは。

底なしの孤独。悲しき涙の理由は只々それだけだった。



582 ごめんねごめんねって意味もなく


ねぇ、知ってるかい。ぼくに操られる君は愚かって、君を弄ぶ僕は外道だって、世間では言われてるらしい。ごめんね、君をこんなにしてしまって。ごめんね、君をこんなことに巻き込んで。でも、一番謝らなきゃいけないのはこんなことじゃないよね。

ごめんね、愛してあげられなくて。君はきっと僕の愛をこれまで望んでこれからも願うだろうけど、ごめんね、僕は君のいう愛が欠片程も理解できないや。本当に申し訳ないけど、君にあげた愛は仮初で、都合のいいプレゼントを受け取って君は喜んでいただけなんだ。ごめんね、愛してあげられなくて。でもこの道を選んだのは君だろう?じゃあ、君のせいでも、あるよね。



583 悪友


なぁ、俺ら「でこぼこコンビ」らしいぜ。学校一の秀才のお前と、いっちばんバカな俺がつるんでるんだから、そりゃそうだよな。でもお前は昔から変わんないよな、変な所で頑固だし、でも俺の話だけは聞くし。いっつも冷静沈着って言われるけど、ずっと一緒にバカやってるし。みんな案外お前のこと知らないのな。ん?俺だけ?キザなこと言ってくれるじゃん。



584 穏やかな朝と一杯の珈琲に救われて


んふ、おはよ。今日もよく眠れた?よいしょっと。じゃあ俺は飲み物入れてくるね、いつものでいいでしょ?え?なんで笑ってるのって?いや、別に。ただ、幸せだなぁって。君と同じ朝を迎えられて、こんな穏やかな時間を噛み締めててさ、俺って今、すっごく幸せなんだろうなって、ふと思っただけ。この幸せはいつかなくなってしまうかもしれないけど、それを今精一杯噛み締められるのが嬉しいなって。



585 苦悩する僕を見て君は嗤ってただろう


そうか、君もやっぱり、「理解者」ではなかったか。嗚呼、口惜しいな。こんなクソみたいな世界でも、思想でも、想いでも、君は信じてくれると疑わなかった僕はやっぱりバカだったみたいだ。さて、御託はこの辺でいいよね。僕の理想に牙を剥くってことは、僕は君を断ち切って潰さなきゃいけない。ほら、来なよ。君を信じた愚か者が、全身全霊を持ってして君を殺してあげるよ。



586 責任転嫁


うん、そうだね。僕が悪いよ。こんなクズ、きっとこの世から消えたほうが世のためなんだ。でも、でもだよ。そんなカスに生きながらえて欲しいと君は愚かにも思っている。どう言った感情でそれを願っているかは僕の理解の範疇じゃないけど、それでもさ、そう想うのは君の弱さなんじゃないかい?烏滸がましくも僕を引き留めようとしてくるなら、それに全力で応えるのが礼儀じゃないか。だから君が悪いんだよ。こんな僕に「愛」を説いて、自認させて、それを仕向けようとした君が、1番の悪人で、愚人だ。



587 凝り固まった愛で殺し合おうよ


水面下に潜む君の僕への奥底の感情を見てみたい。どんなに汚れていても、醜くても、影を抱えていても、それは僕への感情として確実に存在するもので、君の美徳と理念に基づいて組み立てられた感情だから、僕はそれを本質で理解して、それすらも愛してみたい。だからさ、僕の中にあるものも曝け出してみたいんだ。殴り合うような暴力的な愛憎と狂気を、君とぶつけ合ってみたい。それが側から見てどんなに歪んでいたって、僕たちの中では純愛になるだろう?



589 海に消えていった君の結末はまるで人魚姫の様で


君と一緒に流し出したボトルメール、水平線の彼方に消えていったあのメッセージを、幾10年ぶりに見つけてしまった。海に詳しかった君はこんなことまで予想していたのかな。君には申し訳ないけど、多少の罪悪感を好奇心で押し殺し君の書いた手紙を見てしまった。けど、読めなかった。君もずるい人だ、何だよ、「きっと私の隣にいる貴方へ」なんて書き出し。君の予想は外れたよ、君は今隣にはいない、君の大好きな海に溶けて消えたんだから。いやでも、そう考えてもいいなら、僕は今大きすぎる概念の「君」の隣に立っているのかもな。



590 童の悪神様


「ネェ、遊ボウヨ」そう呟く君の声は妖艶で、熱を帯びていて、それでいて首筋に刃物を突き立てられたような寒気があった。祭囃子の提灯行燈、石造の階段に佇む君はどこか薄くて、でも強烈な存在感を放っていて。「ネェ、遊ボウヨ」その言葉にどうしようもなく魅了されて、君についていくしかなかった。お彼岸の夏祭り、僕だけの消えた賑わいの中で。



591 廻り回って、もう戻らない


季節は万華鏡のように移り変わっていく。固定化した形を辿りながら、2度と同じものは出てこない。揺れ動く僕らの心のように、常に美しく、気高く、それでいて戻らない。折々の情景と色に染まっていく諸行無常と、何者かに連鎖的に何かを与え続ける力強さは、玩具の範疇を超えて、世界を照らし続ける。今日もまた、何処かで何かを変えている。



592 虚無の帰路


今日も生憎の雨模様。気温より数度は寒く感じられる雨粒を浴びながら、今日も私は帰路に着く。悴む手と吹き抜ける夜風、通りには街灯と私のライトしかない。雨音がヘッドホンを叩く。家まではまだまだかかりそうだ。いつも流れているプレイリストも今日はご機嫌斜めで、曲が変わる度にコマーシャルが流れる。散々だな、早く眠りについて夢の世界に旅立ってしまいたい。そんなこと考えながら、思考とは切り離された足がペダルを漕ぎ続ける。



593 君を笑わせる道化でないといけないのに


嗚呼、、また要らない事を口走った。君を心配させる余計な事を口走ってしまった。君を不安にさせてはいけないのに、君を苦しませてはいけないのに。僕の口から出る言葉は、どうしても君を傷つけてしまう。こんな穴、塞いで仕舞えばいいだろうか、切り落として仕舞えばいいだろうか。でもそんな事したら君は怒るかな。僕には、何が正解かわからないや。ごめんね、俺が、人間下手くそなばっかりに。



594 きっとこんな思考を世に放たないための監視


鈍色の星空から、今日も何かが私を睨む。荘厳な恐怖を纏った其れは、私を監視するかのように常に空から覗いて来る。私の罪を記録でもしているのだろうか。四六時中感じる目線に、耐え難い苦痛と嫌悪感を感じる。でも周りはそんな事を知らない。空を眺めてひどく怯える私を、奇妙な存在としか思わない。嗚呼、貴方は私の何を見ているの。何故、私だけを見るの。私を苦しめるために貴方は在るの?だとしたら、私が空へ飛び立って、貴方の目玉をくり抜いてあげるのに。



595 でも、これも運命


君と、出会ってしまった。きっとそれが運の尽きで、運命の邂逅で、逃れられなかった悲劇なんだろう。お互いを受け入れられるほどの不遜にも近い狂気が、お互いを引き合わせて、倫理を混濁させてしまったのだろう。逃しはしない、記憶の一片まで、愛し合える、そんな僕らなら、互いを固く縛って奈落へ落ちるのも造作もない事だろう?僕が今幸せだと思えるからこそ、君との死合わせを望むんだよ。だからさ、二人楽しく、落ちていこうよ。



596 もう踊るしかない!(パーリナーイ)


なんでこんなくらい音楽で楽しんでるのかって?こういう曲の方が僕の感情を鮮明に表現してくれるからさ。歌詞から曲調まで明るいよりも、歌詞に闇があったり曲調に不穏な狂気が混じってるくらいの方が面白いし聞いてて共感できる事ない?確かに強制的に乗れる曲も元気な時は楽しいけどね。でも苦しんでる時はとことん苦しんだ方が楽なんだ。だから君も苦しい情緒、暗い曲でを吐き出そう?



597 まぶしい斜陽が今日だけは味方して


周り廻る観覧車に君と二人っきりで。西日がさす斜陽は赤い君の頬の色を隠して。登り続ける僕らを閉じ込めた鳥籠は、ついに頂上で止まってしまって。君が呟いた言葉は都会の喧騒にかき消される。その空間は邪魔されるものではなくて、侵されるものではなくて。君の言った独白はよくわからなかったけど、でも君を、想ってる心は、愛してる気持ちは、変わらないから。斜陽が硝子を隠す間に、君を抱きしめてあげたい。



598 高みへ


君と僕しかいない理想郷に、君は後幾つの時を経て辿り着くだろう。僕が至った境地に君はあとどれだけの荊を踏み越えて到達するだろう。きっとここに辿り着いた頃には君は息も絶え絶えで、体もボロボロなんだろう。そんな君を優しく受け入れて、至った道の傷を癒して、君を理解してあげるのが、今ここに立っている僕の役目なんだと思うんだ。だから、頑張ってくれ。こんな些細な言葉しか投げかけられないけど、なんの手助けもできないけど、僕は一足先に理想郷で君を迎え入れる準備をしておくよ。



599 僕の隣の墓標へ並んで


久しぶりだね、やっと君もここに来たんだ。僕が思ってたよりずっと早かったかな。

一先ずお疲れ様、よく頑張ったね。僕がいなくなってから、君をずっと見てたよ。本当に、僕をずっと想ったまま生きてくれたね。正直ここまで執着してくれるとは、最初会った時には思ってもなかったよ。いつも生きてて喋ってた時みたいに、ちゃんと言ってあげるよ。お疲れ様、よく頑張ったね。そこまで頑張ってくれてありがとう、大好きだよ。



600 優柔不断な僕の断捨離


僕の部屋の本棚には、僕の記憶に関する本がびっしりと並んでいる。いつどこで、誰と、何を話して、その時どう思って、どんな影響があったか。全てが事細かに記されている。でもそろそろこの本棚も限界らしい。キャパシティを大幅に超えた本棚はもうかなり軋んで、歪んでいる。平積みすることも考えたけど、それだと記憶が痛んで荒んでしまう。何かを、捨てなければ。どんな記憶を切り取っても楽しかったページを切り落とさないといけない。それを選べない僕は、弱い人間だ。

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