7 -Seven Ability Heroes
六恩治小夜子
第1話「Let's Do It Again」
ある
だが、実際、女は面倒くさい。何考えてるかわかんないし、うるさいし、自己主張激しいし、文句ばっかり言うし、うざったいし、文句を言うとすぐ団結して否定して来る。俺に言わせれば、女に夢や幻想を抱いたら、それこそ人生おしまいだ。
何故、彼女たちはいい匂いがするのか? 香水だ。なんで髪の毛からいい香りがするのか? リンスの洗い残しだ。女なんて、この世で一番面倒くさい生き物だ。それはこれまでの歴史が証明している。そしてこれから先の未来でも絶対に変わらない。何百、何千年経とうが、技術がどれだけ進歩して世の中が変わっても、女って生き物は変わらない。
大事な事なのでもう一度言う。女はこの世界で一番面倒くさい生き物だ。これからもそれは変わらない。断言できる。それが世の中の法則だ。
高校の授業が終わり、昼休みは教室を出て、一人屋上でパンを食べる。購買はどうせ激込みなので、登校途中にコンビニで買ったトーストだ。マーガリンが味付けられている。
俺は誰かと食べるのを激しく嫌う性分だ。野郎の顔を見てメシなんぞ食いたくない。基本、昼飯を食う時は男子は男子、女子は女子でグループを組むもの。男女でグループ組むのは
外食に行くときも一人で行く。誰かと行くと相手のペースに合わせないといけない。俺の方が早食いだから、相手の方が慌ててしまう。そういうのが嫌なので、基本は一人だ。相手を気にせず、ゆっくり味を楽しんで食べられる。相手のくだらない話に相槌を打つ必要もないし、こちらから会話を振る必要もない。
屋上は基本立ち入り禁止。ダイヤル式の南京錠がかかって開くことができないが、俺はひょんなことで番号を知ったので、勝手に開けている。といっても昼休み限定だ。終わればちゃんと施錠する。
スマホで動画共有サイトにアクセス。好きな配信者のゲーム実況のアーカイブを視聴しつつ、メシを食って時間を潰す。あと10分で予冷が鳴るというタイミングで屋上を出て、再びロックをかけておく。そして、教室……ではなく、東門へと向かう。
昼休みのこの時間、正門と西門は閉まっている。だが、東門は常に開いているのだ。セキュリティ甘々だ、不審者でも入ったらどうする気なのか。東門付近は以前はゴミを燃やすのに使っていた焼却炉がある。近年はダイオキシンがどうたらで焼却炉は使われておらず、監視カメラもない。閑静な住宅地だから、この付近にはそもそも立ち寄る奴もいない、無防備な場所だ。だが、俺にとっては都合の良い場所でもある。ここから学校を脱獄し、晴れて自由の身になる。
「ああ、シャバの空気は美味いなぁ」
なあに、学校なんぞサボっちまえばいい。どうせ、このあとは授業はない。俺の嫌いな文化祭の話し合いだ。行く気もないし、手伝う気もない。んなの、やりたい奴がやればいい。親も家にはいないから天国だ。うちの母……あの放浪女はどうせ、北海道か九州かどっかに行ってる。それじゃあ、ゲーム三昧といこうじゃないか。ひゃほーと叫びたくなる心の声を抑えつつ、俺はそそくさと学校を後にした。
まっすぐ家に帰ろうとしたが、その前にたこ焼きでも食いに行くか。さっき昼飯食ったばかりだが、まだ小腹が空いている。俺はアメ車のように燃費が悪いので、少しでも腹がすいたままだと100%の力を出せないのだ。ゲームやるなら腹をいっぱいにして全力で挑みたい。
と、ルンルン気分で学校と言う名の監獄を抜け、TAKOカフェ「甘良 あまよし」へ足を向けたのだった。
そんな、俺がいないクラスではどうなっていただろうか。
後でダチから聞いた話によると。
「あいつ、またサボってる」
「サボれる時にサボるのがあいつの信条だろ」
「何言ってんの!文化祭まで日が無いっていうのに!」
「1年の時もよくサボってたし、昼飯も一人だしなぁアイツ」
「ま、いんじゃね? っていうか、俺らもやる気ないし」
「そういうのが伝染してくのが嫌なのよ!」
「知らね。あ、今日はKAYOちゃんの配信があるぞ!」
「男子、話聞けーー!!」
と、会議は荒れていたらしい。俺がサボるせいでクラスのみんなも締まりがなく、ほとんど会議にならなかったそうだ。だが、俺は謝らず、そのLIMEを見てもふーんとなるだけだった。
朝、起こしに来る妹はいない。
朝、起こしに来る幼馴染はいない。
朝、曲がり角でぶつかるパンをくわえた少女はいない。
朝、挨拶を交わすのは男友達だけ。
生き別れの妹だの、隠し子などもいない(たぶん)
至って、ごく普通の俺は人生をテキトーに生きている。誰にも迷惑かけないなら、それでいいじゃないかと。付き合う気もないし、結婚願望もなく、勉強も大してせず、スマホゲーと配信を見ることに情熱を燃やす日々。ストレス溜まったらカラオケでアニソン歌って発散。もしくは難ゲーを夜中から朝まで遊び倒してクリアする。クリアした後は疲労もあるが、喜びの方が勝る。
そんな感じでいい加減な学生生活を送る俺ではあるが、授業は真面目に出ているし、テストの成績もそこまで悪いわけではない。試験期間中は裏で勉強してる。なので、先生は何も言ってこない。これで成績悪ければうるさいだろうが、そこは成績で黙らせればいい。どうせ、生徒に対して真剣な教師なんてほんの僅かだしな。あんな連中に期待なんかしなくていい。これからもそんな日常を送るもんだと思っていたが。
「ねえ、職員室どこ?」
と、下駄箱で靴を入れている時に尋ねられたのである。顔立ちがとても整った女子だ。同い年か、下のどちらかだろうか。芸能人になってもおかしくない整った顔立ちに、そこそこある胸のボリューム。これは並大抵の男子ならイチコロでやられてしまいそうだな、俺は例外だが。この学校の女子制服を着ているのに職員室の場所を知らない? ということは、転校生だろうか。
「そこの廊下をまっすぐ、突き当り」
「あんがと」
と、女子は駆け出そうとしたが、すぐに止まった。
「ねえ、好きな女の子のタイプは?」
「松本ひちか」
「いや、それ、セクシー女優だから」
「芸能人なんぞ知らん」
「欲望にストレートなのね、あなた」
「世の中を正直に生きている、と言ってくれ」
「変な奴ね」
「俺は世界一変な男だぞ」
「……あっそ、じゃあね」
女は興味を失ったのか、そのまま振り返らずに去っていった。
で、俺のクラス。友と挨拶を交わしつつ、のんびり席に座る。
カバンからコンビニで買ったブァミ通を取り出す。
「お、この続編来るのか。発売は来年の冬……まだまだ先だなぁ」
「お、今月のブァミ通か? あの会社の新作いつよ?」
「うーん、前作がコケてたからなぁ。どうなるんだろうな」
という感じに男子共がダラダラ集まり話しかけてくる。ゲームの話題に花が咲いていたが、やがてチャイムが鳴り、それぞれ席に戻った所、先生が入ってきた。
「みんな、静かに。転校生を紹介するぞ」
と、入ってきたのは先ほどの女子である。
なんかラブコメでよくある定番だな。
「
おおおお!! と野太い野郎どもの声が響く。女子からもかわいいーという声がちらほら。かわいい転校生、まあ、そういうことも世の中、少なからずあるのだろう。
「ええと、席は……」
「伊崎くんの隣で」
え、俺の隣? なんで?
つーか、なんで名前知ってるんだ??
「ねえねえ、伊崎くんと知り合い?」
と、女子の誰かが尋ねてくる。
「父親違いの兄です。
と、慣れた様子で黒板のホワイトボードに家系図を書く新見さん。見慣れた両親の名前と祖父、祖母の名前が丁寧に書かれている。しかし、彼女の親父さんであろう人の名前は知らない。つまり、俺と母親は同じだが父親が違うと言うのか。なんか、そんな話を聞いたことがあるような、ないような……。
「昔、会ったことがあるんですけど、本人は忘れてるみたいです」
「……いつの話だ?」
「えと、小学生の時に2~3回くらい」
「マジか? でも、記憶にないんだがな」
「とりま、隣に座るよーん」
と、本人は隣の無人席に座る。早くもひゅーひゅーと熱いラブコールが。
ったく、そんなんじゃねーつーの。
「よろしくね、お兄ぃ」
「あ、ああ……」
普通のラブコメならこれは嬉しい展開になるんだろうな。でも、俺からすると日常が瓦解していく音がする。面倒くさいことになりそうだな、こりゃ。
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