俺がお前を忘れても
SHIORI
第1話
アディンセル筆頭公爵家はヘーゼルダイン王国でもとりわけて家格が高い、王家にも所縁ある名家である。
その惣領息子として生まれたリチャードは、幼い頃から跡取りとして乳母日傘に英才教育で育てられた。幼い頃には女の子と間違われるようなかわいらしい顔立ちだったが、成長とともにかわいらしさは消え、けれどその容姿は老若男女問わず魅了してやまず、微笑だけで国家を左右すると言われるほどに水際立って優れていた。優れていたのは容貌だけではなく能力もまた然りだった。十歳で五か国語を習得する桁外れの頭脳の持ち主だった。貴族学校の成績はトップであることが当たり前、運動神経も抜群で、剣をとっても槍をとっても同世代では相手になる者がいない。
親友であるロバートは未来の宰相を目指して文官、リチャードは海軍士官として任官した。ふたりとも順調に出世街道を驀進している。リチャードは史上最年少で将軍になるだろうと言われている。
それから数年。
「あれ、リチャード様。今日は早上がりですか?」
副官のハロルドが声をかけてくる。部下だけれど年齢は八つ上で、側近というよりもお目付け役というやつだ。
「ロブと約束があるんだ」
仕事も楽しくなり、学生時代とは違う楽しみも増え、人生は充実している。毎日忙しくて、二人で飲むのは、ひさしぶりだ。
リチャードもロバートもアルファだ。人の上に立つべく選ばれた者だ。名家に生まれ、あらゆる才と容姿に恵まれ、世の中を動かしていく存在なのだと幼い頃から言い聞かされて育ってきた上に、バース性が判明してからは少年期に輪をかけて、誰もかれもが二人を勝ち組として崇め、少しでもお近づきになりたいと揉み手ですり寄って来る。
二人には、共通の悩みがあった。
それぞれの両親が、次から次へと縁談を持ってくることだ。それは貴族学校入学時に行われるバース鑑定で二人がアルファであることが判明してから、ずっと続いている。ちなみにどちらの父親もアルファである。
もちこまれる縁談には共通点がある。まあ基本的には良家のお嬢さん、ということだが、時々、父親たちが目の色を変えて、今度こそどうだ!? と鼻息荒く持ち込んでくる話もある。
それは決まって、相手がオメガである場合だ。多少、家格が下でも、あるいは年齢が離れていても、オメガであるならかまわないらしい。極端なものになると、過去にどこかのアルファに嫁いでアルファの子どもを産んだけれど『つがい』にはならず離縁された、それはつまり、アルファの子どもを得るためだけに一時的に籍を入れただけだったという年増なんていうのや、バース鑑定を受けたばかり、オメガだと判明したばかりの未成年なんていうのもあって、リチャードを呆れさせる。
アルファとオメガが愛しあって子を生せば、高い確率で、アルファの子どもが生まれる。ロバートの母親はオメガであり、ロバートも弟のオスカーもアルファである。
リチャードの母親は王家から降嫁されたアルファだが、アルファ同士の夫婦が子を生しても、アルファが生まれるとは限らない。むしろアルファ同士の夫婦からアルファの子どもが生まれる確率は、アルファとベータやベータ同士の夫婦からアルファの子どもが生まれる確率よりも低い。限りなくゼロに近いと言っていいほどだ。
リチャードがアルファだったのは世界的歴史的と言っていい奇跡だった。アルファとアルファの組み合わせから生まれたアルファはダブル・アルファと呼ばれる稀有な存在で、全人類の歴史上七十人しかその存在は確認されておらず、現在は、帝国の皇帝と世界を股にかけた大女優、そしてリチャードのみであるらしい。同時代に三人のダブル・アルファが生存していた記録は無く、天変地異の前触れなどと騒がれているらしい。リチャードの同母の三人の弟妹はベータ、異母の妹たちもベータである。
父は、人前では子どもたちを平等に愛しているようにふるまっていたが、その実、アルファ至上主義を絵に描いたような人物なので、アルファ同士の夫婦から生まれたダブル・アルファであるリチャードを特別なアルファだと言って別格に扱っている。総領息子として、幼い頃から他の子どもよりも大事に、そして厳しく育てていたが、バース鑑定でアルファであることがわかってからは、家の中では露骨にベータの子どもたちとはちがう、特別扱いをするようになった。
リチャードもロバートもアルファである以上、自分が育ってきた贅沢な環境を当然のこととして生きてきたが、二十代になってお見合い攻勢はますます過熱し、お見合い写真と釣り書きの山を築かれて、さすがに辟易している。ロバートの父はロバートの好いた相手であれば家柄やバース性にはこだわらないと言ってくれているらしいが、リチャードの父は狂気じみてオメガを娶れと五月蠅い。なんなら正規の結婚は然るべき家柄の中から選んで、オメガの代理母に子どもを産ませてもいい。なにがなんでもアルファの跡取りを、とまで言われた時には、いくらなんでも唖然とした。
アルファは全人口の一割から二割と言われているが、ランクによってその能力は差がある。ダブル・アルファでランクSであるリチャードと、ランクAのロバートでは、ランクとしてはひとつしか違わなくても、トップアスリートと平凡な学生アスリートくらいの差がある。ランクDなどは、優秀なベータに劣る者がざらにいる。
ベータは、第二性の影響を受けない。全人口の七割強はベータである。
そしてオメガは、アルファよりもさらに少ない。過去の誤った認識によって差別・迫害され、この国では一時は一パーセントを切ったとまで言われた。現在、五パーセントから七パーセントほどまでは回復しているのではないかと言われているが、正確な数字はわからない。
帝国からの圧力でオメガ保護法ができたのは、ほんの十年前だ。アルファとオメガが愛しあって子を生せば高い確率でアルファが生まれるということが判明してからも、この国の人々は長い間抱えてきた、人間でありながら発情期があり、男性でも子どもを産むことができるオメガという性への偏見を改めることができていない。
だから中流以上の貴族や裕福な商家に生まれたならまだしも、あまり裕福ではない家に生まれたオメガは、この現代でも社会的には不遇であることが散見される。理不尽に虐げられ、レイプされたり娼館に売られたり、アルファの子どもを欲しがる貴族階級のアルファたちによってオメガの意思を無視して婚姻させられたり、子を生したら離縁されて棄てられたり、代理母としてその胎を金で取引されたりしている。まるで、人身売買のように。
オメガ保護法が施行されてからは、さすがにうなじを噛んで『つがい』としたオメガを、一方的につがい解消して棄てるようなアルファは、すくなくとも貴族階級にはいない。そんなことをすれば糾弾され、家の名に傷がつく。アルファがいくら有能で社会的に成功する強者であっても、非人道的な行いをしても何の咎めも無い、というわけにはいかない。支配者層であればなおさらだ。アルファにはノブレス・オブリージュが求められるのだ。
しかしリチャードの父親は、アルファの子どもを得るためなら非合法な手段を使うことも躊躇しない人間だ。オメガ保護法という法律によって犯罪となる行為であっても、金で偽りを真実にし、真実を闇に埋める。目的のためなら手段を選ばない、それは、リチャードの父自身が、祖父と正妻であった祖母との間に生まれた嫡子ではなく、祖父が素性のわからないオメガの愛人に産ませた子どもだったからだ。
「全く冗談じゃないよなあ」
もてあますほど長い脚を優雅に組み替え、グラスをもてあそびながら、リチャードは愚痴る。こんな悩みは、ロバート以外には話せない。話してもベータの知人たちには理解してもらえないというのもあるが、父親が目的のためなら犯罪を平然とできる人間であるなど、迂闊に口にするわけにはいかない。
「それで、なにか報告があるということだったが、なにがあったんだ?」
ロバートがマジックメッセージではなくて家紋のシーリングスタンプが映える上質な封筒で手紙を寄越したのは、帝国への留学を決意した時以来だ。あの時はまだ学生だったから驚いたけれど、今は別の意味で驚いた。深刻な文面で、会いたい、会って報告をしたいと言ってきたからには、仕事で取り返しのつかないミスでもしたのかと思ったが、仕事がらみではないようだ。快活で知的なロバートらしくもなく、思いつめた眸でグラスを見つめている。
「リック。きみは、父君のご意向どおりの結婚をするのか」
「んー・・・、癪だとは思うけどな」
不本意ではあっても、それがアルファとしてまた名家の跡取り息子として歩むべき道なのだと、頭では理解している。
ただ、納得しているかと言われれば、否だ。
「オメガなんてただでさえ滅多にいないのに、家柄も年齢も釣り合って、夫婦としても理想的なオメガなんて、そんな簡単に見つかるわけないだろう? お前の両親は稀有だよ。我が父が羨むのも無理はない」
「うむ。たしかに我が両親は理想の夫婦だが、きみからそのように称賛されるのは面映ゆいものがあるな」
口ではそう言うものの、ロバートはなんだか思いつめたような顔をしている。
「リック」
グラスの中身を飲み干して、ロバートはカラになったグラスを見つめる。
「俺には、大切なひとがいる」
言葉の内容とは裏腹に、まるで不治の病だ、とでも言っているかのように苦しげに、ロバートは吐露した。
「オメガでもない、アルファでもない。さらには・・・、女性ですらない」
「ロブ、お前、ゲイだったのか?」
「ちがう。彼が女性だったとしても、アルファだったとしても、きっと恋をした。しかし・・・」
もしもその人が女性だったならなんの問題も無いし、オメガだったなら男であっても『つがい』になることができる。しかし、その人は男でベータで、どんなに愛していてもつがいにも夫婦にもなることができず、子どももできない。単なる同性愛。ただそれだけのことでしかない。
「お前には弟がいるじゃないか。弟に家督を任せればいい。なんなら契約結婚で、良家の女性に形だけの夫婦になってもらえば」
そう、自分の母親のように。
両親が仮面夫婦であることに気づいたのは、貴族学校初等部の頃だ。うちの親はなんかおかしい、と、少年だったリチャードは感じていた。両親の間に一片の愛情も無いのだと確信したのは、中等部の頃だった。貴族の家にはめずらしくもない事なので、すぐに考えることをやめた。
「そうは言っても、きみもきみの弟妹も、お二方の実子だろう?」
「異母妹もいる。うちの父には複数のメカケがいたからな」
王女として生まれ育ち、才媛の呼び声も高く、兄である現国王がいなければ女王として即位していたかもしれないリチャードの母。アルファとして限りなく有能な母を賜りながら、複数のメカケを囲う父。その夫婦仲は冷え切っているのを通り越して、永久凍土だ。父も母も子どもたちにはそんな素振りなど見せていないつもりでいるようだが、リチャードをはじめ、アディンセル家の子どもたちは空気を読んだり裏事情を汲むことに、ひどく鋭敏だし、子どもはいつまでも子どものままではいない。
「失礼を言うようだが、きみのご両親のようには・・・、俺は無理だ」
生真面目なロバートなら、さもあろう。想い人であるベータの男性は、平民出身ながら優秀な医師だそうで、愛人でも日陰の存在でも全然かまわないと言ってくれるような人柄だけれど、だからこそ尚更、想い人のいじらしさに誠意で応えたいのだろう。たおやかでものしずかで、たとえて言うなら深い森に抱かれた誰も知らない静謐な湖の精のようなひとなんだ、と、ロバートの口から出たものとは信じられないような詩的な表現に、リチャードは口の端をつり上げる。
「美人?」
「うむ、俺にとってはな。・・・見るか?」
誰にも見せたことがないという想い人の写真。この時代、写真の技術はまだ貴重で、平民など手が届かないし、貴族もよほど特別な記念日でもないかぎり撮影などしない。だからつまり、ただ持ち歩くためだけに撮影したのだとしたら、酔狂、もしくはそれだけ相手に首ったけだということだ。
そこには、ロバートに肩を抱かれて、少し緊張した様子ながらも恥ずかしそうに微笑む、色白ですらりとした男性の姿があった。
「・・・なんだか・・・、お前の母君にちょっと似ているな」
「ほう、きみの目にもそう映るか」
自分にとって重要なポイントをまず指摘されて、ロバートも嬉しそうな声をあげる。マザコンではないが、ロバートは両親を、特に母をとても敬愛している。見せられた写真のロバートの想い人は、涼しげな、印象的な目元やブルネットの髪、背筋をすっと伸ばした凛とした佇まいなど、どことなくロバートの母に似た風情がたしかにある。実物ではなく写真でも一瞬、息をのむような、端整な美貌だった。これでもし女性、あるいはオメガであったなら、またとない良縁であったろうに、と、リチャードは思った。
リチャードと別れた後、ロバートは愛しいひとにマジックメッセージを送った。
『リヒャルトの記憶はもどらなかった。きみと俺と、ふたりもの友人の姿を見れば、あるいは、と思ったのだが、まったく無反応だった』
いたって簡素な返事が、すぐに返って来た。
『そうか』
ロバートと、恋人であるアーサーには、前世、ローベルトとアルトゥルであった時の記憶がある。男女という性もバース性も関係なく、出会った瞬間から激しく惹かれあったのは、前世において戦友でしかも恋人同士であったからに他ならない。前世、二人はアメルハウザー皇国空軍の士官であり、終戦よりもずいぶん前に戦死したローベルトは、今世でこそ最愛のひとと添い遂げんと、ロバートとして転生し、記憶がまだ朧であった少年の頃からアルトゥルの生まれ変わりがいると信じて捜していた。
今世、ものごころがついた時から身近にいた親友のリチャードも、前世で仲間であり戦友であったのに、転生したら前世の、リヒャルトであった記憶はいっさい無かった。ロバートは念願叶ってアーサーと再会をはたした結果、すべての記憶がクリアになった。満を持してリチャードにアーサーの姿を見せたのに、プラチナブロンドの美丈夫はなにも思い出さず、ただ不毛な恋を静かに応援してくれただけだった。
まあ、自分の想い人を見て親友が前世を思い出したりしたら、ちょっと心穏やかでいられなかったかもしれないが。
ローベルトの記憶のリヒャルトは苦しい恋をしていた。禁断の恋に、身を焦がしていた。アメルハウザー皇国は同性愛を厳しく取り締まり、糾弾する国家であったから、同じように同性を愛してしまった者同士、ローベルトとリヒャルトは互いに助け合って、秘密の恋を護っていた。
ローベルトの死後、リヒャルトはその相手の最期を看取ったという。
生涯で初めての、そしてただ一度の恋を、リヒャルトはしていた。その恋の相手、エースパイロットであったヨナタンは差別と偏見によって迫害され、暴力に遭い、病にたおれてリヒャルトの腕の中でその生涯を閉じた。
二人は強く惹かれ合っていたが、もちろんそれは、徹底して秘められた。どんなに愛し合っていても、アメルハウザー皇国では、同性同士の恋愛は法律で禁じられた犯罪であり、差別の対象であった。そもそも開戦に至った経緯が、同性愛に対する見解の相違によるものだ。敵国であるルモワーニュ公国は、同性による婚姻を認めている国家なのだ。何年も前からアメルハウザー皇国からルモワーニュ公国へ亡命する同性愛者は後を絶たず、アメルハウザー皇国は少子化による人口減少は同性愛者のせいだとして、ルモワーニュ公国を滅ぼさんと開戦に踏み切ったのだ。
リヒャルトとヨナタンの関係がどこから漏れたのかわからない。
リヒャルトが作戦総本部に呼ばれて不在の間に出撃したヨナタンは、友軍機の裏切りによって敵機に撃墜された。捕虜交換によって帰国したヨナタンを待っていたのは、敵に同性愛者であることをカミングアウトして命乞いをした、身体で誘惑して取り入った、などという誹謗中傷で、エースの栄光は地に墜ちた。
これより先に秘めた恋の相手であるローベルトを喪っていたアルトゥルは、せめてふたりには幸せになって欲しいと願っていたから、影に日向にヨナタンを支えた。在りし日の想い人が、親友であるリヒャルトにそうしていたように。
リヒャルトはヨナタンに惹かれ、溺れ、どうしようもないほどせつなくて苦しい恋情を、その身の内にもてあますようになっていた。ローベルトは自分がアルトゥルと想いを通わせあっていたこともあってリヒャルトとヨナタンの恋を支援していたが、終戦よりもずいぶんと前に、空で命を落とした。
同性愛が暴露されたことで、リヒャルトは左遷された。妻帯者であることと軍に強い影響力を持つ父親が手を回したことによって、左遷だけで済まされた、らしい。独身者であるヨナタンがリヒャルトを誘惑したのだと、糾弾者たちは決めつけた。アルトゥルと爆撃隊の隊長であるダーヴィドだけは最後までヨナタンを庇ったけれど、誹謗中傷の果てに暴行を受けたヨナタンは軍を除隊処分とされた。家族からも拒絶され、リヒャルトの妹たちに助けられてリヒャルトの祖父が残した古い別荘に、身を隠した。
アルトゥルは一年ほど後、ヨナタン危篤の報せを受けた時、その家に駆けつけた。ぎりぎりで臨終に間に合ったが、間に合ったことでむしろ、ふたりの邪魔をしてしまったかと、少し、悔やんだのだと、再会したロバートに吐露した。
いつか、遠い未来でまた出会うから、何度生まれ変わっても、絶対に俺はお前を見つけるからと泣くリヒャルトに、お前に愛されて幸せだったと言い残して、ヨナタンは息絶えた。大切にしていたものをすべて失って、夢とか希望とかをいっさい信じなくなった現実主義者のヨナタンは、おそらく、リヒャルトの語る生まれ変わりなどというものは理解しなかったのだろう。今際の際、リヒャルトの腕の中で、切れ切れに、ささやくようなかぼそい声で、リヒャルトへの愛を告げて、命を閉じた。余人が聞いていいものではなかったのかもしれないそれを、聞いてしまったことを悔いるアルトゥルに、リヒャルトは寂しそうに笑って、どうか憶えていてくれと言った。
だからアルトゥルはアーサーとして転生しても前世の記憶を持っていた。リヒャルトの狂おしい想いと、強くて優しくて愛情深かった男を、その言葉を、見て聞いた証人として、肉体が輪廻しても記憶は消さず、自身のローベルトへの想いと一緒に、魂に刻んだのだ。
リヒャルトがヨナタンに再会できたなら、きっと。
リチャードは前世の記憶を、とりもどすのだと、アーサーは信じている。
*****
登場人物紹介(前世名ドイツ語、今世名英語)
リチャード・アディンセル・・・主人公。二十三歳。プラチナブロンドに碧い眸で、他に類を見ないほどの美丈夫。父親は筆頭公爵。ヘーゼルダイン王国海軍士官。前世はアメルハウザー皇国空軍大尉リヒャルト。ヒット&アウェイの名手。主軸になって攻撃するよりも、仲間の援護にすばやく動く。愛機は垂直尾翼に白銀のペガサスが描いてあった。転生したらアルファ。前世の記憶は無い。人類の歴史上七十人、今現在、世界に三人しかいないダブル・アルファのひとりであり、ランクS。前世も今世も子どもの頃から英才教育で異常な父親に洗脳のように育てられた。
ジョナサン・クロフォード・・・三十二歳。前世はリヒャルトの想い人でアメルハウザー皇国空軍大尉でエースパイロットだったヨナタン。優れた動体視力の持ち主で、雷雨や濃霧の空域でも一撃必中、ありえない命中度で敵機を屠る天才パイロットだった。愛機の垂直尾翼には、ジャンプするイルカ。転生したらオメガ。前世の記憶無し。プラチナブロンドに鮮やかな新緑の眸。前世では細マッチョなのに童顔であることがコンプレックスだった。お菓子作りが得意で、特にシュトレンは絶品で、これ無しではアドヴェントが過ごせないと絶賛されていた。操縦桿を握ると人が変わると言われた。今世はオメガであるために不遇な環境に生まれ育っている。
ロバート・フリーマン・・・二十三歳。未来の宰相間違い無しと言われる優秀な文官。リチャードの幼馴染みで親友。快活で生真面目で一途。父公爵は財務大臣。前世はリヒャルトの同僚だったローベルト。転生したらアルファ。ランクA。前世の記憶有り。
アーサー・ブライス・・・二十五歳。外科医。ロバートの恋人。前世はリヒャルトとヨナタンとローベルトの同僚で、ローベルトの恋人だったアルトゥル。転生したらベータ。記憶有り。髪はブルネットで、端整なイケメン。
ハロルド・ボウマン・・・リチャードの副官。三十一歳。アルファ。ランクC。
オスカー・フリーマン・・・ロバートの弟。十四歳。アルファ。ランクB
フレッド・・・ジョナサンの父。五十代。ベータ。粗暴な破落戸。
ジェフリー・・・ジョナサンの弟。二十六歳。ベータ。兄と母を父の支配から助けたいと、同じ首都内の寮がある職場で働いて、独身寮ではなく家族寮に住まわせてもらおうと頑張っている。よい雇用主と上司に恵まれている。
ドリス・・・ジョナサンの母。病気で寝たきり。
トミー・・・ジョナサンの弟のひとり。十八歳。父を嫌って遠方に住みこみの職を得ている。
アガサ・・・リチャードの異母妹。十九歳。ベータ。前世アガーテ。リヒャルトの同母妹でアリーセと双子だった。魔力が多く、念写のスキル持ち。前世の記憶無し。
アリス・・・リチャードの異母妹。二十歳。ベータ。前世アリーセ。リヒャルトの同母妹でアガーテと双子だった。魔力は無く、体力はあるので、すごくよく働く。前世の記憶無し。
アルバート・・・ジョナサンの幼馴染みで親友。三十二歳。妻子有り。ベータ。前世ヨナタンの教官で兄のような存在だったアルベルト。前世の記憶無し。
セシル・・・リチャードの結婚相手候補。コリンズの遠い親戚の娘。十六歳。オメガだと偽装されているベータ(本人は、自分はオメガだと思い込んでいる)前世リヒャルトの妻だったツェツィーリア。前世の記憶無し。
コリンズ・・・リチャードの大叔父。
アボット・・・病院長。コリンズと結託している。セシルの父親。
マイケル・・・探偵、アーサーの幼馴染み。二十六歳。前世ミヒャエル。前世の記憶有り。前世ではアルトゥルの義兄だった。(前世でヨナタンについて、話には聞いていたが会ってはいない)
ジェニー・・・マイケルの恋人。二十六歳。前世イェニー。前世の記憶無し。
アディンセル公爵・・・リチャードの父。息子を自分の思い通りにしたいタイプの毒親。アルファ。ランクD。
アディンセル公爵夫人・・・王女として生まれ、年の離れた兄である現国王がいなければ女王になっていた。公爵家に降嫁。ランクAのアルファで、ものすごい才媛。
国王・・・ジョージ王太子の父。ベータ。アディンセル公爵夫人の年の離れた兄。
王太子ジョージ・・・四十歳。前世はアメルハウザー皇国の皇弟ゲオルグ。皇位継承権第一位だったが、敗戦後、女性の地位向上のために妹を女帝に推した深慮遠謀の人物だった。今世は慈愛に溢れた人物で、オメガ保護法制定に尽力した。前世の記憶有り。
ブリジット・・・三十八歳。帝国から嫁いできた王太子妃。レアスキル有り。前世ブリギッテ。前世の記憶無し。
デイヴィッド・・・王太子専属の護衛官。前世はアメルハウザー皇国空軍少佐のダーヴィド。爆撃隊の隊長で、精密爆撃のスペシャリストだった。ヨナタンとリヒャルトが上空でダーヴィドを援護すれば、ダーヴィド一機だけで指定標的を灰燼に帰すとまで言われた。最後までヨナタンを庇っていた一人。転生してベータ、前世の記憶無しだったが・・・。
サミュエル・・・リチャードとジョナサンの子ども。
ハーヴェイ・・・リチャードの同母弟。
クライヴ、セドリック、ギルバート、ロジャー・・・ジョナサンが代理母として利用されて産んだ子どもたち。それぞれ父親が違う。
*****
世界観
前世は戦争をしている国(アメルハウザー皇国)。少子化が深刻な中、少子化は同性愛者のせいであるとされ、同性愛が異端だと迫害される世相。オメガバースは無い。
今世はオメガバースがあって、同性愛が異端ではないが、ヘーゼルダイン王国は帝国に比べて後進国でオメガ(特に男性のオメガ)は差別されている。貴族がいる階級社会。魔力によって現代社会の文明の利器のようなものが使われている世界。戦争はしていないけれど軍隊は海軍と陸軍がある。空軍は存在しない。
今世の国
ヘーゼルダイン王国・・・物語の舞台。前世とはちがう世界で、オメガバースがある。貴族がいる階級社会。産業革命後のイギリスのようなイメージの国だが、工業技術ではなくて魔力で使う文明の利器のようなものがある。対外的には女性差別もオメガ差別も無いとしているが、実態としてはオメガ差別があり、帝国からは後進国とされている。戦争はしていない。陸軍と海軍があるが、空軍は無い。医療技術が発達している。移動手段は馬や馬車など。
帝国・・・超大国であり先進国。ヘーゼルダイン王国とは同盟関係にあるが、ヘーゼルダイン王国はオメガ差別が依然として無くならないので二級国家として扱っている。
A国、B国・・・オメガを差別している国家。帝国と敵対はしていないが、帝国側からは野蛮な後進国とされている。
前世の国
アメルハウザー皇国・・・主要人物たちが前世で存在していた国。男尊女卑で女性に参政権も相続権も無く、さらには同性愛者を異端であるとして迫害する国家。同性愛者がルモワーニュ公国へ亡命したり、少子化が深刻(女性が妊娠しているのに暴力をふるうので流産したり、産めない身体になってしまう→役立たずとしてますます暴力をふるう悪循環)なのにルモワーニュ公国と戦争をしていて、若者がどんどん死んで戦争に負けた。
ルモワーニュ公国・・・前世の母国(アメルハウザー皇国)の敵国。同性愛に寛容な国家。
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