第11話 問題児だらけの艦隊(2)

約10分後・・・



「むむむ・・・・」

「どした提督~悩み事があるなら聞くぞ~?」

「悩み事しかない・・・」


不安は的中した。

この基地に来てから頭を抱えてばかりいる気がする。

理由は言うまでもない、名簿に書かれている艦船たちのことだ。


名簿に記載されている艦名は伊勢と電を含めて全部で7隻。数こそ決して多くはないものの、性能に申し分ない優秀な艦船達だ。しかし名簿の概要を見るとなんだか一癖も二癖もありそうなのである。

とは言っても伊勢と電があんな感じなので、ある程度予想はついていたが。


「まぁまぁ、悩んでてもしゃーないしとりあえず自己紹介でもしたら?」

「う、うむ、そうだな・・・えー皆、静かにしてくれ」


先ほどまで騒がしかった室内が、私の一声でしんと静まり返る。心臓の音で、若干緊張しているのが自分でもわかる。


「えー、本日付でここトラック基地に着任することになった、伊藤整一だ。これから君たちの指揮を担当する。よろしく頼む」


「・・・・」


・・・返答がない。挨拶の一つくらい返してくれるかと思ったのだが。

あれ、もしかしてこれ失敗したか?冗談の一つでも言えばよかったかな?


「・・・ん、提督?なんで黙ってんの?」


数秒の沈黙の後、私の正面に立つ金髪の艦船が口を開いた。


「え?あぁ、軽く挨拶でも返してくれるかと思ってたんだが・・思いのほか何も返ってこなかったから・・・」

「私たちの挨拶なんている?」

「いや、まぁそうだけど。親睦を深める意味でも・・・な?」


そう言うと彼女は深いため息をついた。他の艦船たちの反応も、あっけらかんとする者がほとんどだ。そんなに変な話だろうか。何千人もの兵を前にして一人ずつ挨拶しろと言っているわけではあるまいし、別におかしくもないだろう。


「な、なにか変か?」

さすがに気になったので聞いてみる。


「いや、だって普通に考えてさ。兵器に挨拶求める人がいる?軍艦に対して「こんにちは~」って話しかける人なんていないでしょ」

「そりゃあ、ただの兵器に対してはそうかもしれないが、しかし君たちには意思や感情があるだろう?見た目もどう見ても人間だし・・・」


それを言うと、彼女は呆れたように返す。


「ふーん。ま、提督がそういうなら挨拶するけど」


彼女は一歩前に出てぶっきらぼうに言い放った。

「名前は摩耶、高雄型の三番艦。性能は資料に書いてあるからそれ読んで。とりあえずよろしく」

「あ、あぁ、ありがとう」

私が礼をいうと、懐疑的な目を向ける那智。名簿の備考欄には、「指揮官に対し信頼を置かない」と書いてある。どうも本当にこのような扱いは慣れていないらしい。


「え、えっと。じゃあ私も・・・」

摩耶の背中に隠れていた彼女より少し若いくらいの年頃の娘がひょっこり顔を出した。

「君は?」

「えっと、軽巡大淀、です・・。よ、よろしくお願いします」


自信なさげに蚊の鳴くような声で名前を言うと、大淀はさっさと引っ込んでしまった。どうやら何が原因かは分からないが随分ひ弱な性格らしく、名簿でもそのことが指摘されている。

巡洋艦とはいえ一応、最期の連合艦隊旗艦なんだがなぁ。


自信の無さは戦場で足枷になりかねない、後で何とかしなければ・・・


「伊勢と電はさっき聞いたから良いとして・・ん、これで全員か?まだ数隻足りないようだが・・」


名簿には7隻の艦名が書かれているが、ここにいるのは4隻だけだ。不在の3隻の名前は「秋月」「初春」「響」。いずれも帝国海軍の一等駆逐艦だ。


「駆逐艦部隊は哨戒に出てるよ、もう少しで帰ってくる」

「そ、そうか、しかし駆逐艦だけか・・心配だな。」


ここに来るまでに襲撃を受けている身としては、駆逐艦だけの艦隊というのはいささか心配になる。その襲撃の結果護衛の駆逐艦を全艦失っているのでなおさらだ。


「まぁ、あの子たちも練度に関しちゃ中々のモノだからね。心配しなくてもいいんじゃないの?」

そういいながら、伊勢はカップ焼酎を開けていた。あれだけ飲んで、まだ飲むのか・・


バタバタバタ・・

「ん?」

このタイミングでの駆け足は嫌な予感しかしないぞ。


「日本艦隊へ緊急電です!」

「マジすか・・」

緑髪の少女が息を切らして部屋へ駆け込んできた。

基地についてからわずか三時間足らずでこれである、これはこの先想像以上に大変かもしれない。


「内容は!?」


真っ先に摩耶が声を上げた。


「哨戒中の駆逐艦隊より、「我、敵艦隊ト交戦中。敵艦隊戦力強大ニテ状況極メテ不利ナリ。至急救援ヲ要請ス」以上です」


先ほどまでの雰囲気は一気に消し飛び、全員に緊張が走る。


「チッ、よりによってアイツらしかいないときに・・皆行くよ!」

「待て摩耶!」


走り出す寸前の摩耶を大声で制止したのは伊勢だった、さっきまでの吞兵衛が嘘のようだ。


「何で止めんのよ!アイツらが沈んじゃってもいいの!?」

「いいわけねェだろ!ただ・・」


一瞬の間をおいて、伊勢は再び口を開く。


「出撃命令は、お前が出すんじゃねぇ。ウチには新しい提督がいるんだ。だから、そいつの口から言ってもらわねぇと」


伊勢の言葉で、全員の目線が私を向く。


「じゃあさっさと命令出して!早くしないとアイツらが・・」

「ふぅ・・分かってるさ。全艦直ちに出撃だ、駆逐艦たちを助けに行こう。自己紹介もされないうちにいなくなられたら困るんでな」


全員がコクリとうなずいて直ちに駆けだした。

私も疲労が蓄積した体に鞭を打って後に続く。


・・体が重い、ぶっちゃけ今すぐにでも休みたい。目の前に床が用意してあれば今すぐに飛び込みたい。


しかし会ったばかりの部下に対して君たちだけでよろしくやってくれという度胸は、さすがに私は持ち合わせていなかった。

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転生NIPPON帝国海軍 陸奥ノ国 @mutunokuni

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