第18話 ピンチ

 「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 僧兵たちが目の前の惨劇に恐慌を来たす。

 巨大な手に握りつぶされた肉塊が血溜まりを作っていた。

 リーダ格の僧兵は腰に下げていた鞘からから剣を抜き放つと、肉塊を掴む腕に切りかかる。


 「よせっ――!」


 俺が叫ぶのと、僧兵たちが視界から消えるのはほぼ同時であった。

 剣が達する前に、巨大な腕はその質量の猛威を振るう。

 部屋の壁を突き破り、廊下を突き破り、外壁を突き破った。

 「あらら――随分と見通しの良いことで……」

 目の前で薙ぎ払われた壁だった部分はごっそり削ぎ取られていた。


 「敵襲――っ!敵襲――っ!!」

 突然の出来事に教会中が沸き立っていた。

 教会の鐘がこれまで以上に激しく連打される。


 「一体何がどうなって――」

 見通しが良くなったおかげで外の様子が分かってきた。最初の魔物の襲撃とは全く違うレベルになっていやがる……

 無数の飛竜が上空を飛び回り、城壁に向かって急降下していくのが見える。


 「降下猟兵……か。」

 魔族との戦闘で何度か戦ったことがある。それにしても、これほどの数を運用できるものなのか……


 ――ぐぉぉぉん

 崩れた壁の向こうに、教会の中庭が見える。そこに力尽きた二匹の飛竜の姿が見えた。

 その体には無数の矢と手槍が撃ち込まれている。脚には大きな鉄製の輪がはめられ、そこから太い綱が伸びている。

 「何匹かであのデカブツを吊り下げて来たのか……」

 城内にたどり着けさえすればいい――という、残酷な使い方だ。

と、声に出したところで気づいた。


 あれ、俺って今、超ピンチじゃね!?


 ――ぎょろり

 再び、窓の外から白いものが見えた。壁が派手に取り払われたため、それがなんであるか今ならはっきりわかる。

 ”目”だ。巨大な一つ目が窓から覗いていた。

 ずんぐり巨大で筋肉隆々な上半身に、不釣り合いに小さな脚。その体は薄緑だ。

飛竜が力尽きている一方でギカンテスは無傷だ。ギガンテスの体表は分厚く、固く、鎧をまとっているようなものだ。


 「……」

 「……」

 巨大な白目の中心にある点と目があった。瞳と瞳で見つめあってしまった。


 ヤバい……。縛られていて動けないぞ……


 本気で死を覚悟しかけたその時だった――

 先程の一撃で建物が自重を支えきれなくなったのか……ガラガラと足元が崩れ、俺は瓦礫の中に落ちていった――

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