誰よりもやさしい、あなたへ。

十四歳の双子である兄妹が手を取り、『因習』が残る村から密かに抜け出す──雨の音と共にそんな遠い過去をひとり思い出す軍人、高久。口下手で鬼教官、でも深い優しさと強い覚悟を秘めた彼を中心に、レトロチックな独特の世界で繰り広げられる『異世界擬洋風ファンタジー』(作者さん談。でもその通り)です。

人の顔がなくなるという事件は聞くだけならホラーですが、『祝』や『呪』とともに生きるこの世界では決して、起こらなくもない出来事。建物のみならず植物までもが白い〈白幹ノ国〉は、想像するだけでなんともいえない神々しさに満ちています。

かと思えば今ではなかなかお目にかかれないような純喫茶がとにかく素敵ですし、美味しそうな素朴なご飯のシーンなど急な飯テロが挟まったりと、ほのぼのほっこりさせられる場面も多数。お腹が空いている時に読むのははっきり言って危険です。

ひとつひとつの描写が美しく儚く、それでいて鮮烈です。若く優しい軍人たちが多く、食事ひとつではしゃぐ彼らは私の歳からしたら可愛いの一言。しかしその純朴さのうしろにはいつも軍人の運命である、戦いによる『別れ』の影があります。だからこんなに食事シーンひとつ、家事をするシーンひとつにしても愛しいのだなと感じました。

神という人外とかかわりつつ成してきた国や軍については仔細まで考え抜かれており、作者さんの博識さと世界の造り込みへの熱意が見えます。階級や役職名も独特なので最初は馴染めないかも知れませんが、何度も説明を挟んでくれる親切設計なので大丈夫です。とある理由があって名前が似通っているひとたちもたくさん出てきますが、またこれがラストに向けたすごい伏線になっており……いやお見事でした。無事涙腺が干上がりました。

軍内部で起きた事件の真相を置い、過去の戦の傷に触れ、やがて物語は性別や年齢を超えた親愛を問う結末へと雪崩れ込んでいきます。各キャラクターの覚悟、信念、そしてあの人に向ける『ただいま』と『おかえり』。読み終えた今、作者さんが設定されたキャッチコピーの意味を噛み締めています。

死んでこそ。生きてこそ。相反するふたつの要素がまるで『鏡』のように向き合い、最後には胸にすっと染み入るような結論を届けてくれます。少なくとも私は、とても満たされた結末だと思いました。

白き呪いに満たされた理不尽な世界で足掻く人物たちを、きっと応援したくなる。
読み応えのある骨太な物語を求める方、超おすすめです!

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