時の雫 (ときのしずく)~偽りの神
銀の筆
第1話 動き始めた歪んだ世界
爆音が、世界の静寂を切り裂いた。
「あっぶねぇッ!?」
コンクリートの塊が目の前をかすめ、壁の破片が頬を切った。
さっきまで女医と話しながら横になっていた病院の外壁が崩れ落ち、火花と土煙が一気に視界を覆う。
(なにこれ、現実か!?)
ついさっきまで銀太郎は、ただの診察を受けに来ていた――はずだった。
なのに、目覚めた瞬間、隣のビルごと病院に突っ込んできたのは――戦闘機!?
「マジかよ……っ、どんな映画の撮影だよ!」
爆音。煙。悲鳴。サイレン。現実感が、追いつかない。
だけど身体は、勝手に動いた。
――いや、違う。世界のスピードが、急に遅くなったのだ。
「……あれ?」
(あの瓦礫、遅ぇ。スロー映像か? いや、これ……俺の感覚?)
ゆっくりと迫ってくる瓦礫を、銀太郎は紙一重で回避する。体は重いが、動きは確かだ。何かが、明らかに変わっていた。
ズドン!!
直後、爆風が追いついて銀太郎を吹き飛ばした。空中で何度も回転し、数十メートル先の道路に背中から落ちる。
「うっ……!」
激しく咳き込みながら、瓦礫の山を見上げる。元・病院の建物は、もはや影も形もなかった。
(終わったな……あの綺麗な女医さんも、巻き込まれて……)
「私のこと、心配してくれてるの?」
背後から、聞き慣れた声がした。
「……っ!? 先生!?」
そこには、白衣をはためかせて、まるで爆風などなかったかのように立つ――あの女医の姿があった。服も髪も乱れておらず、瞳には冷静な光すら宿している。
「ここが狙われたってことは……あなた、やっぱり特別なのね」
「特別って……俺、ただの一般人なんですけど!?」
「自覚ないのね。まあ、そうよね。でももう――戻れないわよ?」
女医はそう言って、崩れた病院を背に歩き出す。
「話したいことがあるの。一緒に来て」
「……ちょ、ちょっと待ってください!」
混乱だらけの頭を振りながらも、銀太郎はその背中を追った。
『ピーポー パーポー』 『ウゥ〜ウゥ〜……』
サイレンと雨の音だけが、世界をゆっくりと濡らしていた。
――そして、銀太郎はまだ知らなかった。
この日が、「日常の終わり」であり、
世界の闇に巻き込まれていく最初の一歩だったということを。
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