第30話 カンピージョス国際ピアノコンクール・後

 優勝を勝ち取った私は現地メディアに取材されるという苦労を強いられた。

 さっさと日本に帰国するもんだと思ってたけど、現地取材があるとは思わなかったんだもん。

 容子まさこさんからは名実共に海外でも通用するプロピアニストの看板が出来たわ♡と喜んでいたぐらいだ。

 ピアノは趣味なんだけどなぁ――…

 明後日が帰国なので、今日一日は最後の観光を楽しむぞ!と思ってたのに仕事が入ってしまった。

 急遽入った仕事はスペインで有名なピアニストのダニエル・ド・カロ氏との会談である。

 私としては、のんびり観光したかった…と言うのが本音である。が、容子まさこさんはコネ作りをしたいらしい。

 「音楽隊に入るつもりだけど、ピアニストの活動は高卒で引退すると思うよ?」

 私の抵抗も

 「防衛隊側だって国際的に有名になった燈由ちゃんプロピアニストの活動に制限しないと思うなぁ。」

完全無視スルーの構えだ。

 「そんなに構えなくても大丈夫よ…多分。」

 あ、そこは多分なんだ。

 「通訳はどうすんのさ?容子まさこさん、スペイン語できないでしょ?」

 私の指摘に呆れた表情かおをする容子まさこさん。

 「私が出来なくても燈由ひよりちゃんが出来るじゃない。会談するのも燈由ひよりちゃんなんだから通訳いる?」

 通訳いる?って…

 「はぁ…私がダニエル氏に丸め込まれて契約とかになったら事務所がヤバいんじゃないの?」

危機感の無い容子まさこさんに注意を促す。

 私を信頼してくれるのは嬉しいけど、今の私は12歳の子供な事を忘れないで欲しい。

 「そ、それはそうだけど……今から通訳捕まるかしら?」

 あわあわと慌てる容子まさこさん。

 「そう言うと思ってこっちで手配したよ。」

 ダニエル氏との会談が決まった時に通訳の手配を頼んでおいて本当に良かった。過去の自分グッジョブ!!

 「あ、ありがとう――…燈由ひよりちゃぁああんっ!!」

 ぐわっしぃっと抱き着くのは止めて欲しい。

 私は容子まさこさんの頭をナデナデするのであった。




 急遽大物ピアニストとの会談が入った事で、私達は会談用の服を買う事にした。

 勿論、代金は事務所宛てである。私は会談なんてしたくなかったんだもん!!

 カンピージョスで一・二を争う高級ホテルの一室にいる。調度品が豪華だ!きっとスウィートなんだろうなぁ。泊まってみたい!!という感情はおくびにも出さないよ。

 『初めまして、秋月あきつき燈由ひよりちゃん。私はダニエル・ド・カロだ。カンピージョス国際ピアノコンクール優勝者である君と会談出来るとは今年の私の幸運は、この出会いに費やしたと思うよ。』

 ハッハッハとキラっと白く光る歯を見せて笑うダニエル氏。

 『お初にお目にかかります、秋月あきつき燈由ひよりです。スペインの天才ピアニストのダニエル氏にそう言って頂けるとは幸運です。私は一生分の運を使い果たした気持ちです。』

 お世辞は私の十八番おはこですよ?芸能界で生きるにはお世辞言って、よいしょしてなんぼだからね。

 『燈由ひよりは12歳というのは本当かい?』

 『はい、今年で12歳になります。ピアノは3歳の頃から習ってます。』

 芸能界に飛び込んだのもこの頃だったよなぁ…と感慨深げに思う。

 『3歳からピアノを学んでいたとは凄いね。君の師は素晴らしい人なんだろう。どんな人なんだい?』

 根掘り葉掘り聞いてくるなぁ。

 『私の師は卯月きさらぎ愛華あいか先生です。私を伸び伸びと此処まで育ててくれました。私は人との競争はあんまり好きではなくて…愛華あいか先生は理解して自由にしてくれました。愛華あいか先生からしたらもっと早くにコンクールに出したかったと思うんです。』

 私には勿体ない素敵な先生です、と言えばダニエル氏が興味深そうに私の話を聞いてくれた。

 『燈由ひよりちゃんは、素敵な先生に出会えたんだね。燈由ひよりちゃん、私の弟子にならないかい?私なら君をもっとピアノの腕を伸ばせると思うんだ。』

 ダニエル氏の勧誘に素で驚いてしまう。

 容子まさこさんも ある意味引き抜きに近いダニエル氏の言葉に驚いてたしね。

 容子まさこさんから腕をクロスさせバッテンのゼスチャーを見せられる。

 解ってるよ、彼の話に乗れば私には違約金と不義理のレッテルが貼られるからね。

 『嬉しいお話ですが、申し訳ありません。私は日本で芸能活動を行っているのでお誘いを受ける事が出来ません。』

 私のお断りにダニエル氏が吃驚した表情かお

 『燈由ひよりちゃんは芸能活動をしているのかい?』

グイグイと身を乗り出して聞いてきた。

 お、おう……と引き気味の私とダニエル氏の間に入ったのは、我らのマネージャー容子まさこさんだった。

 最初は私を日本から出さない!!とか芸能活動が大変なんですから弟子に出来ません!!とか言ってたが、あっさりとダニエル氏に丸め込まれてた。

 年に1回、ダニエル氏とコンサートをする事が約束されたのだった。

 コンサートは日本で演奏る事が決まった。ついでにCD収録もするんだとか……容子まさこさん、ダニエル氏の名声とぶら下げられた報酬ギャラに釣られたんだね。

 後日、契約書が事務所に届き、私はサインと印鑑を持って契約を締結させるのであった。

 こうして私はダニエル氏の弟子見習いとなったのであった。

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